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欧州スーパーリーグ構想に思う 日本の世界戦略
スポーツコンサルタント 杉原海太

2020/11/1 3:00
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またぞろというか、10月下旬に英国から「欧州スーパーリーグ構想」のニュースが飛び込んできた。大昔から浮かんでは消え、消えたと思ったら蒸し返される"幽霊"のような話。今回はそこにコロナ禍が絡んでいるように思え、ミステリーの度合いは深まる。

欧州チャンピオンズリーグのユベントス戦で競り合うバルセロナのメッシ(右)。欧州ではビッグクラブによる欧州スーパーリーグ構想が再び話題になっている=AP

欧州チャンピオンズリーグのユベントス戦で競り合うバルセロナのメッシ(右)。欧州ではビッグクラブによる欧州スーパーリーグ構想が再び話題になっている=AP

どこまでが本当なのかよく分からないが、英国発の報道によると欧州の5大リーグ(イングランド、ドイツ、スペイン、イタリア、フランス)の12以上のビッグクラブが、2022年から試験的に新リーグを立ち上げる構想を話し合っているという。

ご存じのとおり欧州は、各国・地域内のリーグ、カップ戦と欧州単位のチャンピオンズリーグ(CL)、ヨーロッパリーグ(EL)を同時に走らせている。このモデル、日本にいる私たちから見ても盤石で、欧州サッカー連盟(UEFA)と欧州のクラブビジネスは「我が世の春」を謳歌しているように映る。であるにもかかわらず、そこにビッグクラブだけで構成された超エリートリーグを新たにぶち込むとなったら、既存の大会は日程面でも収益面でも大きなダメージを受けかねないだろう。

さらに驚いたのは、その構想に国際サッカー連盟(FIFA)が裏で関わっているらしいと報じられている事だ。FIFAのインファンティノ会長はただちに否定しており、真偽のほどはわからない。が、もし、それが事実なら、UEFAや超エリートからこぼれ落ちたクラブの心中が穏やかであるはずはない。「人のフトコロに勝手に手を突っ込むな」「俺たちをマイナー扱いするのか」と怒り心頭になるだろう。

■新たな収益源を探すFIFA

実際、この手のスーパーリーグ構想に反対する関係者は多いから、そう簡単に事は運ばないだろう。しかし、こうした構想をどこかの誰かが真剣に議論しているとしたら、その背景をいろいろと推測(邪推?)したくなる。

例えば、FIFAが新たな収益源を欲しているのではないか、ということ。FIFA最大の稼ぎ手といえば、4年に1度のワールドカップ(W杯)だが、代表戦そのものの数は今以上に増やせそうにない。1年は365日しかなく、各国・地域のリーグ(クラブ)と日程の取り合いをすれば、選手に莫大な報酬を払っているクラブ側が優位なのは自明の理。

W杯予選のペルー戦でゴールが決まり喜ぶブラジルのネイマール(左)ら。W杯はFIFAの最大の稼ぎ手だ=AP

W杯予選のペルー戦でゴールが決まり喜ぶブラジルのネイマール(左)ら。W杯はFIFAの最大の稼ぎ手だ=AP

FIFAが代表同士によるコンフェデレーションズカップを廃し、代わりに参加チームを大幅に増やしたクラブW杯を4年に1度開催することにしたのも、そうした事情を踏まえて、従来とは異なる仕組み=(代表戦からクラブに軸足を移した)新製品をひねりだしたのだと思っている。

211の加盟協会を統括するFIFAが、彼らの責務といえる「サッカーの普及」のための原資を確保するために、「世界レベル」で新しい仕組み=新製品を生み出そうと試みるのは理解できる。しかし、今回のスーパーリーグ構想で引っかかるのは、FIFAが欧州の超エリートクラブと語らって、欧州というエリアでマネタイズを模索しているということ(あくまでも仮定の話だが)。これは大陸連盟との関係・役割分担をややこしくする可能性があるだろう。

また仮にFIFAが絡んだ欧州スーパーリーグ構想が本当に実現し、その収益がFIFAを潤すとなったら、FIFAの運営も現行の形では済まなくなる気もする。意思決定の場に、さまざまなステークホルダーの関与を増やしていくことはFIFAも近年、積極的に行うようになっているが、依然として組織上は211の加盟協会を統括する団体として運営されており、例えば現在のFIFA会長選挙やW杯開催地選定の投票では1協会に1票が割り当てられている。

彼らの将来構想の中にクラブとクラブビジネスを本格的に取り込むビジョンがあるのだとしたら、これは結構な変革になると思うのである。

■欧州の動きに影響される日本

同時に気になるのは日本のことだ。

欧州の動きが日本に陰に陽に影響するのは、UEFAがW杯ロシア大会後に始めたネーションズリーグを見ても明らかだ。欧州域外の国々に出かけて親善試合をするより、欧州域内でタイトルを懸けた真剣勝負をした方が収入も分配金も増やせる。そう考えてUEFAは新たな大会を創設したのだが、おかげで日本は国内の親善試合に欧州の代表チームを呼ぶことが非常に難しくなった。

10月のカメルーン戦で競り合う南野(右)。日本は国内の代表戦に欧州のチームを呼ぶことが難しくなっている=ゲッティ共同

10月のカメルーン戦で競り合う南野(右)。日本は国内の代表戦に欧州のチームを呼ぶことが難しくなっている=ゲッティ共同

与太話にしては妙に具体的なスーパーリーグ構想、どういう経緯でリーク?されたのかは不明だが、FIFAがコロナ禍をきっかけにある種のサバイバル戦略を模索しているのだとしたら、日本も人ごとではすまない。新しく決まったルール・枠組みに対応するだけでなく、自分たちで新しいルール・枠組みを決める、あるいは新しいルール・枠組みを決める場に自分たちも入り込むことを真剣に追求する時が来ているように思う。

そういう先例はアジアにもある。オーストラリアがオセアニア地域からアジア・サッカー連盟(AFC)に転籍してきたのは、彼らなりに生き残りを考えた末の決断だった。

東南アジア諸国連合(ASEAN)にも以前、サッカーのアセアンスーパーリーグ構想があった。狙いは代表同士の戦いで異様に盛り上がる「スズキカップ」のクラブ版の創設だ。最終的には頓挫してしまったが、コロナ禍を生き残るには、そういうレベルの前例に縛られない構造改革が必要になるのかもしれない。

■WEリーグ、理念だけでなく野心も

日本サッカーも、もっともっとチャレンジしていいだろう。21年秋にスタート予定の女子プロサッカーリーグの「WEリーグ」は、社会の中で女性を生き生きと輝かせることを理念とする。その方向性は素晴らしいが、同時に世界のマーケットを取りに行くような野心も欲しいものだ。女子サッカーの場合、男子サッカーにおける欧州のような巨大な国際マーケットはまだできあがっていない。それだけにチャンスがあると思う。

なでしこリーグの日本テレビ戦でゴールを決めるINAC神戸・田中(奥)。2021年秋にスタート予定のWEリーグには世界を取りに行くような野心も欲しい=共同

なでしこリーグの日本テレビ戦でゴールを決めるINAC神戸・田中(奥)。2021年秋にスタート予定のWEリーグには世界を取りに行くような野心も欲しい=共同

この先、日本サッカーは大きな曲がり角を迎える気がしてならない。そこを乗り切るには地球儀外交じゃないけれど、世界戦略の有無が厳しく問われる気がしている。率直に言って、1993年に発足したJリーグは日本国内に根を下ろすことには成功したけれど、2000年以降のグローバル化の波に乗ることはできなかった。そこで巨大化した欧州に大きな差をつけられてしまった。

4年前に「ワールドリーグフォーラム」という世界の様々なリーグが集まる組織の会議に出席したとき、メキシコリーグのチェアマンが「サッカーは欧州だけでやっているのではない」と強く主張していた。現在のあまりに偏った欧州中心主義に不満を持つ関係者は、欧州以外を中心に少なからず存在するだろうし、富める者とそれ以外の格差がどんどん拡大する欧州も一枚岩というわけではないだろう。そういう人々の考えを集め、世論を喚起し、新しい極をつくるくらいの行動力とアイデアが日本サッカー界にほしい。アジアや中南米と友好関係を築く日本だから、決して夢物語ではないと思う。

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