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幻の新規需要「1000億円」 三菱ジェット凍結を表明

三菱重工業は30日、国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット」(MSJ)事業化を事実上凍結すると表明した。中部のサプライヤーの中には新型コロナウイルス禍による航空機産業の低迷を受け、事業縮小の動きも広がる。MSJの量産が実現できていれば、中部の航空機産業は1千億円規模で押し上げられたとの指摘もあり、地域経済への打撃は大きい。

航空需要の先行きが見通せていない

「飛行試験は当面見合わせ、開発は大幅にスローダウンする」。30日、三菱重工が開いたオンライン記者会見。2021年度からの3カ年中期計画を説明した泉沢清次社長は厳しい表情で語った。

コロナ禍による航空市況の落ち込みを踏まえ、今後3カ年の開発費は200億円程度まで減らす。19年度は1300億円程度、20年度は600億円程度あったが、年70億円程度まで縮む計算だ。大規模な予算が必要となる飛行試験は見合わせる一方、これまで3900時間に及んだ飛行試験のデータを生かし、商業運航に必要な「型式証明」の取得作業は続ける。だが、21年度以降とする初号機の納入や量産時期については明言を避けた。

量産を待ち望んでいたサプライヤーも対応を迫られる。

「設備を増強してきたが残念だ」。旭精機工業の山口央社長は肩を落とす。

同社は神戸市に翼部品の工場を設け、16年ごろに操業開始。米ボーイングの主力機「787」向けの仕事も含め、切削加工の技術を磨いてきた。だが足元はコロナ禍でボーイング向けも細っている。「航空事業は縮小方向に向かわざるを得ない」(山口社長)とし、航空機部門の人材の配置転換を検討している。

別のサプライヤーは「MSJは負担になったとしても、ボーイング向けで補えた。借り入れで資金は豊富にあり、航空以外の機械事業にシフトする計画だ」とこぼす。

航空機産業の裾野は広い。ボーイングや欧州エアバスの完成機メーカーを頂点に、三菱重工、川崎重工業のティア1(1次部品メーカー)に続き、中部には機体組み立てや機体・エンジン部品といった2次、3次の航空機サプライヤーが集積する。中部5県(愛知、岐阜、三重、石川、富山)の19年の航空機部品生産額は約7800億円と、全国の約5割を占める。コロナ禍で生産が停滞したため、今年は1~8月までで3割減となった。

中部のサプライヤーはボーイング向けの仕事が多い。旅客需要の減少で、ボーイングは20年7~9月期の売上高が前年同期比3割減り、最終損益は4億ドル(約420億円)の赤字だった。21年末にかけて全体の2割にあたる3万人の従業員を削減し、「787」なども減産する方針で、数年先まで悪影響を懸念するサプライヤーは多い。

スペースジェット事業は6度の納入延期でサプライヤー間の期待はしぼんでいた。ただ思惑通り進んでいれば恩恵は甚大だった。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの長尾尚訓主任研究員は、「月10機以上の量産なら、1000億円規模で中部の生産額を上積みできた」と試算する。MSJ凍結とボーイング不振の「ダブルパンチ」でもがく中小の悩みは尽きない。

(角田康祐)

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