川崎重工、空港無人PCR検査システムを開発した狙い

ビジネス目的の海外渡航再開の動きが広がりを見せる中、川崎重工業が遠隔操作で新型コロナウイルスのPCR検査が可能なロボットシステムを公表した。検体採取から結果判明までは約80分で、従来の210分から大幅に短縮される見込み。医療従事者が感染するリスクがなく、検査料金も1万円程度に抑えられるという。年明けの実用化を目指しており、多くの国が「陰性証明書」の提出を入国受け入れの条件とする中、検査の簡素化でビジネス往来の再開を後押しする。
これまでのPCR検査のやり方では、唾液や鼻腔(びこう)から採取した検体を医療機関に運び、人手をかけて調べる必要があった。川崎重工の検査システムは、産業用ロボットを活用することで分析作業を無人化するとともに、システム一式を幅2.4メートル、長さ12メートルのコンテナ1台にまとめた。トレーラーで運んで簡単に空港に設置できる。
10月22日に公開した検査の一連の流れはこんなイメージだ。利用者が空港内で受け付けを済ませると、医師が別のシステムにより非接触で検体を採取する。検体の入ったカプセルがベルトコンベヤーでコンテナの中に運ばれると、待ち構えるのは10台ほどの産業用ロボットだ。アームを上げ下げしながら分析作業を進める。検出したデータは空港から離れた病院に転送され、それを基に医師が陰性かどうかを判断する。
検査結果は空港内の待合室にいる利用者のスマートフォンなどに送られる。陰性だと分かれば、陰性証明書を受け取り、そのまま出国することができる。陰性が確認できなかった利用者については、あらかじめ手配している車で空港周辺の医療機関へと搬送する。
想定料金1万円、値下げ見込みも
1日に16時間稼働させれば、2000人分の検査が可能だ。利用者が増えた場合にはコンテナの数を増やすことで対応する。PCR検査にかかる費用は現在、自由診療で3万~5万円が相場だが、想定料金は1万円に設定。検査件数が増えればさらなる値下げも見込めるという。
川崎重工は、血液検査機器大手シスメックスと折半出資したメディカロイド(神戸市)を通じて、コロナ感染拡大の初期から自動PCR検査ロボットの開発を進めてきた。ロボット単体を販売するのではなく、検査開始から証明書発行までを一貫したサービスとして提供する。
コロナ禍による人の移動の大幅な減少は、鉄道車両や航空機部品、船舶、バイクといった「移動」に関わる産業を多く展開する川崎重工の業績に影を落としている。近年稼ぎ頭だった航空機関連の落ち込みの影響はとりわけ大きく、29日には2021年3月期の連結最終損益が270億円の赤字(前期は186億円の黒字)になりそうだと発表した。
航空需要の回復の今後の行方が、業績を左右するだけに、今回のシステム開発も橋本康彦社長の肝いりで進められてきた。年明けから成田、羽田、関西国際の3空港に納入する方向で調整している。ロボット販売にとどまらず、サービス提供にまで踏み込むのも、「空港会社側の負担をできる限り抑えるため」(社長直轄プロジェクト推進室長の辻浩敏氏)だ。
新システムには空の移動が正常化することへの川崎重工の切なる願いが込められている。
(日経ビジネス 奥平力)
[日経ビジネス電子版2020年10月29日の記事を再構成]