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コロナ禍で打撃、女性のメンタルヘルスにより注意を

ダイバーシティ進化論(村上由美子)

NIKKEI STYLE

十数年前に経験した長男の出産は、人生で最も感動的なライフイベントだった。念願の子供が生まれ、至福に浸る日々。と思いきや、生後2週間後頃から暗たんたる気持ちが押し寄せてきた。

産後健診では異常はなく、母子ともに健康。しかし説明しがたい脱力感があり、ベッドから起き上がることさえ辛い。見かねた夫が産後ケア専門ヘルパーの契約を延長してくれたこともあり、徐々に平常心を取り戻せた。今振り返ると、あの時の状態は軽い産後うつであったのだろう。

産後うつの発症率は高い。10人に1人が罹患(りかん)するという報告もある。私は幸いにも短期間で回復できたが、重症化するケースも多い。問題は、うつなどのメンタルヘルスの症状は、家族や本人でさえも正しい認識が困難なことだ。私もまさか自分がうつになるとは想像もしていなかった。

コロナ禍が長引く中で、メンタルヘルスの問題が深刻化している。健康不安や経済不安は心の病気を引き起こす原因になりうる。適切な治療を受けなければ、睡眠障害や摂食障害、そして自殺願望の症状につながる可能性もある。最近いくつかの国で自殺率が上昇しているが、日本も同様の傾向が見え始めている。特に女性の自殺率が上昇しているのは気になる。

コロナ危機による悪影響は、男性より女性の方が受けやすいと経済協力開発機構(OECD)は報告している。医療従事者の女性比率は男性より高く、コロナの緊急事態下で受ける強烈なストレスは想像に難くない。経済封鎖や外出自粛によって生じるダメージは接触型のサービス業においてより顕著だが、この分野で働く女性は多い。

加えて日本では女性就業者の半分以上が非正規雇用であり、コロナ不況により解雇される傾向が続いている。経済不安をより強く受ける環境に多くの女性が追い込まれている現状に注意が必要だ。

メンタルヘルスの問題対応には早期発見と治療が効果的だが、OECDの報告では、重度の症状を患った人の23%しか適切な治療を受けていない。軽度の患者の場合、その率は10%未満に低下する。メンタルヘルスに関する正しい理解を広め、誤った情報や偏見をなくしていくことが重要だ。精神的な不調は誰にでも起こりうる。だからこそ社会全体で理解を深める努力をすべきではないだろうか。

村上由美子
 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2020年11月2日付]

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