武田21年3月期、純利益2.8倍 非中核事業の売却で
武田薬品工業は29日、2021年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比2.8倍の1240億円になる見通しだと発表した。非中核事業の売却益が寄与し、従来予想から320億円上振れする。アイルランド製薬大手の買収で悪化した財務体質の改善に向けた事業売却は今期で一巡する。今後は巨費を投じた買収効果をいつ引き出せるかが問われる。
「シャイアー買収に伴い、パイプライン(新薬候補)や研究開発が強力になった。武田はこれまでと違う会社になっている」。クリストフ・ウェバー社長は同日開いた記者会見で巨額買収の効果をこう強調した。
武田は約6兆円を投じたシャイアーの買収で有利子負債が19年3月末に5兆7509億円と、買収前の6倍近くにまで膨らんだ。財務体質の改善に向け、調整後EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)に対する純有利子負債の割合を買収直後の4.7倍から、24年3月期までに2倍にまで引き下げる計画を掲げている。
資金捻出の総仕上げが8月に発表した大衆薬事業の売却だ。21年3月末にビタミン剤「アリナミン」などを手掛ける子会社、武田コンシューマーヘルスケア(東京・千代田)を米投資ファンド大手ブラックストーン・グループに売却する。今回の業績予想には含まれていないが、売却益(税引き前)として約1400億円を今期に計上する見通しだ。
これまでに消化器系疾患や希少疾患治療薬など5つの中核分野以外の事業売却も決め、計113億ドル(1兆1800億円)の確保にめどをつけた。目標としていた100億ドルを上回る。
ただ、財務改善への道筋が立ったにもかかわらず、株価は買収が明らかになる前に比べて4割ほど安い。市場から疑問視されているのが、製薬企業の競争力や企業価値の源泉とも言える新薬を生み出すための研究開発力だ。
現在の武田の主力は08年に買収した米ミレニアム・ファーマシューティカルズが開発した製品が中心だ。武田単独では長らく革新的な新薬を生み出せていない。一方、国内製薬大手では中外製薬や第一三共などがピーク時の売上高が5000億円超と見込まれる医薬品を開発している。
国内大手運用会社のファンドマネジャーは「武田は画期的な新薬を開発し続けられる組織の基盤を確立しているようにはみえない」と指摘する。シャイアーからもまだ巨費に見合った果実は引き出せていない。
買収効果を示す試金石となるのが、シャイアーの技術を活用して開発中の新型コロナウイルス感染症治療薬の成否だ。新型コロナから回復した患者の血液成分を使う血液製剤で、旗振り役の武田を筆頭に13社が協力して開発を進めている。業績面への貢献は明らかでないが、開発に成功すれば、買収の成果を示す格好の材料となる。
財務改善策の一巡で資金の使途の自由度も高まる。世界のメガファーマに追いつくためにも、シャイアーとのシナジー創出に資金を効率的に振り向けられるかが成長のカギを握りそうだ。
同日発表した今期の営業利益は従来予想よりも390億円引き上げ、前期比4.3倍の4340億円を見込む。売上高にあたる売上収益は事業売却や円高の影響で3%減の3兆2000億円と、500億円引き下げた。20年4~9月期は売上収益が前年同期比4%減の1兆5907億円、純利益が16%増の865億円だった。好採算の潰瘍性大腸炎薬などが伸びた。
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