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インドの零細商店をデジタル化する3つの方法

インドの小売りは零細商店が多く、デジタル化が遅れている(南部ケララ州)
CBINSIGHTS
インドでは小売業における売上高の9割を「キラナ」と呼ばれる零細店が占めている。足元では新型コロナウイルスの感染拡大で消費者が遠出を控えて地元の商店に通うようになり、キラナの存在感はさらに増している。ただキラナではアナログな運営が続いているため、売り上げなどデータを分析するのが難しいという課題がある。一部のインド企業がこの課題を解決しようとしており、成功すれば零細企業のデジタル化の先進例となる可能性がある。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な感染拡大)を受け、地域の商店の需要が高まっている。こうした昔ながらの商店は、インドのような新興市場では特に重要な存在だ。インドでは小売売上高の92%を「キラナ」と呼ぶ零細店の売り上げが占めているからだ。

パンデミックを受け、ニュースでは零細店への注目度が高まっている (2015年~20年9月20日に零細店に関する用語がメディアで言及された回数)

インドでキラナに代表されるこの巨大な市場はひどく複雑で、多くの課題を抱えている。例えば、店舗密度が高く、移り変わりが激しいので、こうした店舗に商品を供給するのは難しい場合がある。多くのキラナは今も紙のノートなど比較的アナログな手法で在庫や売り上げなどを記録しており、売れ行きや購買行動などを正確に把握するのは難しい状況にある。

しかも、インドのコンサルティング大手テクノパック・アドバイザーによると、インドで電子商取引(EC)市場が小売売上高に占める割合は現在の4%から25年には8%に増える見通しだが、オンライン販売を手掛ける零細店はほとんどない。

もっとも、こうした課題を解決しようとする国内企業は増えている。解決できれば、世界の他の国のモデルになる可能性がある。各社はバラバラで大ざっぱなプロセスの効率化や可視化を進め、商店の売り上げ増加を支えるテクノロジーを展開している。

今回のリポートではCBインサイツのデータから明らかになった、テクノロジー企業がインドの零細店の経営改善に取り組む3つの分野を紹介する。

1.買い付けと調達

インドの専用通販サイトは商店の仕入れを劇的に変える可能性を秘めている。こうした事業者用(BtoB)プラットフォームは主にモバイル向けに最適化され、零細店の店主は簡単に商品を注文したり在庫を追跡したりできる。多くのサービスでは注文品は即日か翌日に届く。

中小都市が成長し、生産履歴を追跡できる効率的な食品サプライチェーン(供給網)への需要が高まっているのに伴い、農家と零細店のつながりを強めるテクノロジーは特に重要になっている。

例えば、農産品の物流プラットフォーム「ニンジャカート(Ninjacart)」には米ウォルマートとインドのEC大手フリップカートなどが出資している。この2社は2019年12月以降、ニンジャカートの2回の資金調達ラウンドに参加した。ニンジャカートはフリップカートの生鮮ネット通販「スーパーマート」など大手小売りにサービスを提供する一方、農家と国内の零細店もつないでいる。

(出所:ニンジャカート)

一方、ウェイクール(Waycool)はモバイルアプリを通じてキラナや大手小売り、レストランに生鮮品を販売している(零細店は対話アプリ「ワッツアップ」からでもアクセスできる)。さらに、キラナに請求システムや自動フルフィルメント(受注、発注、梱包、配送、代金回収などの一連のサービス)などのデジタル化サービスも提供している。同社はインド南部で15カ所余りの配送センターを運営している。

商店と消費財メーカーとの関係構築を支援する企業は他にもある。15年に創業したショップキラナ(ShopKirana)は、零細店が売れ筋の日用品を買い付けるモバイルアプリを提供する。同社はブランド支援サービスも手掛ける。独自の食品ブランド「キサン・キラナ」を立ち上げ、零細ブランドが同社の「育成センター」に参加できるようにしている。ショップキラナは国内30都市の10万店を顧客に抱えている。

一方、BtoB向け通販サイトを運営するウダーン(Udaan)では、3万以上の卸売業者が電子機器から衣料品、家庭用品に至るまで様々な製品を販売している。同社の企業価値は23億ドルで、有力ベンチャーキャピタル(VC)の米ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ、米GGVキャピタル、香港のDSTグローバルなどから出資を受けている。

(出所:ウダーン)

さらに、EC大手フリップカートもこの分野に参入している。同社は20年8月、ウォルマートのインド事業を買収し、BtoB向け通販サイト「フリップカート・ホールセール」の運営を開始した。このサイトでは既に衣料品を扱っており、年内に家庭用品、台所用品、食料品にも拡大する予定だ。後払いサービスのほか、「データに基づいた」仕入れ品のおススメ機能も備えている。

2.融資、POS(販売時点情報管理)ツール

零細店向けサービスの一環として金融サービスを提供している企業もある。各社は特に融資に力を入れている。

ショップX(ShopX)は融資プログラム「スビダローン」で小売店に融資を提供している。国内460都市で事業を展開し、昔ながらの商店に一連のデジタルサービスを提供して運営を支援する。商店は請求書支払いや旅行予約を扱ったり、モバイルPOSシステムを導入したりできる。

(出所:ショップX)

ジャンボテール(Jumbotail)も小売店にPOSシステムに加えて運転資金を提供している。卸売りサイトや倉庫での保管、在庫の配達サービスも手掛ける。

融資や決済のデジタル化に力を入れている企業もある。ftキャッシュ(ftCash)は零細店が融資を申請したり、資金を管理したりできるプラットフォームを運営する。商店にPOS端末を提供し、店はカード払いに対応したり、顧客に融資を提供したりできる。同社は米フェイスブックの起業支援プログラム「インド・アクセラレーション・ハブ」や米マスターカードの同「スタートパス」に参加している。

(出所:ftキャッシュ)

一方、パイン・ラブズ(Pine Labs)は大手ブランドや零細店にPOS端末やモバイル決済プラットフォームを提供している。無担保のビジネスローン、事業分析やロイヤルティープログラムのツールも手掛ける。同社は18年に米ペイパルから、20年にはマスターカードから出資を受けた。

3.EC導入支援

新興テクノロジー各社は零細店のEC導入も支援している。インドの小売売上高の大半はキラナでの対面販売が占めているが、ECも急成長している。新型コロナの感染を防ぐには対面での買い物は控えた方がよく、オンラインで購入できる機能も重要になっている。

ビッグテックと呼ぶ米大手テクノロジー企業は今年、EC事業にインドの零細店を取り込むことに特に大きな関心を示している。米アマゾン・ドット・コムは1月、ネット注文の配達拠点としてインドのキラナ2万店以上と提携すると発表した。フェイスブックは4月、インドの通信大手リライアンス・ジオの株式9.9%を取得し、その後すぐに対話アプリ「ワッツアップ」で生鮮品のネット通販の注文を受け付けるサービスに乗り出した。このサービスにはキラナ1200店が参加している。

一方、インドの国内企業も商店のオンライン化を推進している。SNS(交流サイト)とECを組み合わせた「ソーシャルコマース」プラットフォームは、売り手が気軽にネット通販を始められるルートを提供する。ショップ101(Shop101)を使えば売り手はワッツアップやフェイスブック、インスタグラムなどのSNS上で店舗を開設でき、在庫管理や決済支援などのサービスも受けられる。同社は今では生鮮品の配達サービスにも乗り出し、ユニリーバ・ベンチャーズなどから出資を受けている。

一方、モール91(Mall91)は中小都市の地元のメーカーや企業に特化している。同社のSNSにはネットの生中継動画で商品を売る「ライブコマース」や集団購入機能があり、利用者は現地語で買い物できる。同社は19年、在庫管理スタートアップのストンプマーケット(StompMarket)を買収した。

配達スタートアップも零細店のEC進出を支援している。オンデマンドの物流会社シャドーファクス(Shadowfax)は食品や消費財、衣料品などの小売店やブランドに需要の予測、配達ルートの最適化、注文品のリアルタイムでの追跡などのサービスを提供する。キラナなどの零細業者に代わって注文を受けるサービス「ナウ」では、30分以内の配達を約束している。同社にはフリップカートなどが出資し、大手では食品ネット販売最大手のビッグバスケットなどが顧客に名を連ねている。

(出所:シャドーファクス)

グローファーズ(Grofers)は地元の商店5000店のネットワークを活用し、様々な食料品や日用品のネット販売と配達を手掛ける。国内ブランドやメーカーと直接提携し、自前の倉庫も増やしている。米タイガー・グローバル・マネジメントやセコイア・キャピタル・インディアなどから出資を受けており、21年末までに上場する計画だ。

今後の見通し

世界的なブランドはインドの零細店のこうした進化から恩恵を受ける立場にある。

流通を数字で測れるようになり、拡大しやすくなる一方、オンラインでの仕入れプラットフォームにより売れ行きを追跡できる優れたツールがもたらされる。さらに、インドでECが広がれば、サプライヤーは零細店に商品を卸しやすくなる。

消費者を分析する能力も高まるだろう。在庫の追跡やSNSを活用したECプラットフォームにより、購買習慣を理解するチャンスが増えるからだ。

一方、ブランド各社は他の新興市場でのデジタル化にも目配りすべきだ。例えば、パキスタンでは今年、BtoB向け消費財ECのバザール(Bazaar)とタジル(Tajir)がそれぞれシードラウンドの資金調達を果たした。両社は国内のコンビニエンスストアに無料で翌日配送する。タジルは国内1万5000店以上にサービスを提供しているという。

アフリカでは、ケニアのソコウォッチ(Sokowatch)がケニアやタンザニア、ルワンダ、ウガンダの零細店を対象にショートメッセージサービス(SMS)を使ったモバイル買い付けサービスを提供している。同社のサービスには消費者の購買データ追跡機能も含まれており、ブランド各社はこれを活用して商店に販促計画を伝えられる。

一方、ナイジェリアと米サンフランシスコにオフィスを構える物流管理のトレードデポ(TradeDepot)は、食品大手のネスレ(スイス)や仏ダノンなど大手ブランドの商品をアフリカ各地の零細店に供給している。トレードデポは20年7月のシリーズAの追加ラウンドで1000万ドルを調達した。同社はサプライヤーが自社の商品の売れ行きを追跡できるダッシュボード(一覧表示)や、商店への小口融資も手掛けている。

こうした企業のサービスを活用する商店は増えている。ブランド各社はデジタル化を支えるテクノロジーの成功事例を観察し、こうした市場での自社と大手小売りの関係を比較すべきだ。零細店のデジタル化や標準化を主導しようとするブランドには、一部の企業と直接提携する機会がもたらされるかもしれない。

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