再雇用の基本給、6割下回るのは「不合理」 名古屋地裁

愛知
2020/10/28 13:43 (2020/10/28 18:48更新)
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定年後再雇用者の基本給減額の是非が争われた訴訟の判決で、名古屋地裁は28日、同じ仕事なのに基本給が定年前の6割を下回るのは不合理な待遇格差に当たると認め、名古屋自動車学校(名古屋市)に未払い賃金分の支払いを命じた。高齢者雇用が推進される中、他企業の賃金制度に影響を与える可能性がある。

再雇用者の基本給について、企業に正社員との格差是正を求める判決は全国初とみられる。

判決によると、訴えを起こしたのは名古屋市に住む男性2人。それぞれ2013~14年に定年を迎えた後に再雇用を希望し、65歳まで嘱託職員として技能講習や高齢者教習を担当した。仕事の内容や責任の範囲は定年前と変わらない一方、基本給は定年前の月額16万~18万円から7万~8万円ほどに下がった。

井上泰人裁判長は「年功的性格があることから将来の増額に備えて金額が抑制される若い正社員の基本給すら下回っており、生活保障の観点からも看過しがたい水準に達している」と述べた。

再雇用の際に賃金に関する労使の合意がなかった点も挙げ、定年直前の基本給の6割を下回るのは不合理な待遇格差に当たると結論づけた。

記者会見する原告ら(28日午後、名古屋市)

記者会見する原告ら(28日午後、名古屋市)

嘱託職員への一時金が正社員の賞与を大幅に下回ることや、教習の時間数に応じた手当などの減額についても不合理と認め、計約625万円の支払いを命じた。

男性2人は16年、不合理な待遇格差を禁じた労働契約法旧20条に違反するとして提訴した。会社側は「基本給は好不況や業績などを総合して決めており、正社員との違いは違法ではない」などと主張していた。

原告側弁護団の中谷雄二弁護士は判決後に記者会見し、「基本給の格差を不合理と認めた意義は大きい。同法旧20条の判例を一歩前に進め、全国的に大きな影響を与えるだろう」と評価した。

原告の山田茂さん(66)は「基本給が減額されて食費を削ったり、外出を控えたり、生活水準を下げないといけなかった。判決は成果だが、減額がすべて不合理と認められなかったことは納得できない」と話した。

名古屋自動車学校は「責任者が終日不在で、コメントできない」と説明している。

■専門家「線引き示す判決」
 判決は再雇用者の基本給について「定年前の6割を下回れば不合理」との線引きを示した。仕事内容や責任が正社員と変わらないことを前提としたものの、給与の根幹をなす基本給のあり方に踏み込んでおり、企業に待遇見直しを迫る司法判断と言えそうだ。
2013年施行の労働契約法旧20条は、有期雇用の非正規社員らと正社員の「不合理な待遇格差」を禁じた。各地で訴えが起こされ、すでに最高裁で7件の判決が出た。
 このうち再雇用者の待遇格差が争われたのが、18年の長沢運輸訴訟の判決だった。再雇用特有の事情として▽長期雇用が予定されていない▽一定の要件を満たせば老齢厚生年金を受給できる――といった点を挙げ、賞与や住宅手当などの待遇格差を認めた。
 その後も長期的な雇用継続への動機づけとして正社員優遇を認める判決が続く中、28日の判決は基本給の格差是正を求めた。東京大の水町勇一郎教授(労働法)は「仕事内容が変わらなければ減額は6割まで、という目安を示した点で画期的。正社員の基本給が相対的に高い企業の中には再雇用者の基本給を定年前の4~5割にしている例もあり、大企業も含め影響が出るだろう」と話す。
 労務管理に詳しい田村裕一郎弁護士は、基本給を6割にしても不合理ではないとした別の地裁判決を踏まえ、「他の裁判例との整合性なども意識した判決だろう。運送業をはじめ一般的に定年前後で仕事内容が変わりにくい業界への影響が大きい」と指摘。「企業は基本給や賞与を引き下げる場合、仕事内容や責任範囲の変化などを踏まえ、バランスの取れた金額設定をすべきだ」とした。

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