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石油・ガス大手、グリーンテックに関心 その実態は

CBINSIGHTS
世界の機関投資家がESG(環境・社会・統治)を軸にした運用に力を入れている。環境への配慮から二酸化炭素(CO2)の排出が多いエネルギー企業に対する投資家の圧力は高まっている。日本を含め各国の政府も温暖化対策に動く中、石油・ガス業界に対しても風当たりは強い。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどの世界大手は環境対策の技術を持つスタートアップ「グリーンテック」への投資を始めている。CBインサイツが企業の動向を分析した。

石油・ガスメジャーはこれまで精製、処理プラント、探査活動の業務を改善するためにテクノロジーを活用してきた。

だが原油価格の下落やサプライチェーン(供給網)の寸断など新型コロナウイルス危機の影響により、業界の優先事項は変わりつつある。再生可能エネルギーや脱炭素化などクリーンエネルギー技術に有利な施策が増え、政治的圧力が強まっていることも事業のグリーン化を促している。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

石油・ガス各社のベンチャーキャピタル部門(コーポレートベンチャーキャピタル、CVC)は代替エネルギー、CO2の回収、モビリティーなど環境に配慮した解決策への投資を増やしている。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル傘下のシェル・ベンチャーズは省エネソフトを提供する米パルメット(Palmetto)のシリーズB(調達額2900万ドル)に参加した。

今回のリポートでは、2015年以降に投資活動が最も活発だった石油・ガス企業上位5社の動向と、各社の最近の投資からうかがえる今後の見通しについて取り上げる。

石油・ガスCVC上位5社

19年の石油・ガスCVC上位5社によるベンチャー投資件数は計55件、投資額は計10億ドル相当だった。20年1~8月期の投資件数は前年同期比18%減っている。

石油・ガスCVC上位5社、20年の投資活動は縮小 15年~20年8月31日のエクイティ投資(株式取得・引き受けを伴う投資)の件数と額(単位100万ドル)

石油・ガスメジャーはこれまで、中核業務(探査、産出、精製)の改善に役立つ新興テクノロジーを理解するためVC投資を活用してきた。業界のCVCはここ数年、センサーなどの「IoT」技術に投資し、モニタリングやアナリティクス、リモート制御機能を高めてきた。

シェル・ベンチャーズと米シェブロン傘下のシェブロン・テクノロジー・ベンチャーズは予測情報を活用し、産業資産の信頼性や生産効率をモニタリングする米ベロス・システムズ(Veros Systems)に出資している。

探査ソフトのスタートアップに投資している企業もある。英BP傘下のBPベンチャーズは20年4月、人工知能(AI)を活用した上流事業(開発・生産など)向けソフトを手掛ける米ベルモントテクノロジー(Belmont Technology)の資金調達ラウンド(700万ドル)に参加した。

これまでは中核事業を支援するテクノロジーを理解することが石油・ガスのCVC投資の主な目的だった。しかし今では環境的に持続可能なエネルギーインフラの構築が投資活動を推進する理由となっている。

最も投資が活発な石油・ガスCVCはシェル・ベンチャーズ (15年~20年8月31日の石油・ガスCVC上位5社の投資件数)

変わりつつある投資の動機

再生エネが主力電源になっても石油・ガスメジャーが競争力を維持するには各社が複雑な資源採掘プロジェクトの管理者役から脱し、再生エネ発電技術のオーナーの地位を確立しなくてはならない。

こうした思惑もあり、石油・ガスメジャー上位5社の再生エネ、エネルギー管理、炭素回収技術への投資は15年以降、増え続けている。20年1~8月の5社の投資件数は減少したが、サステナビリティー(持続可能性)分野への投資は全体の63%を占めている。

グリーンテック※、石油・ガスCVCの投資件数の過半数を維持 (15年~20年8月31日の石油・ガスCVCによるグリーンテック投資と業務改善テック投資の比較) ※編集部注:英語原文では「Clean tech」だが、この日本語訳では同様の意味でよく使われる「グリーンテック」とした

仏エネ大手トタル傘下のトタル・カーボン・ニュートラリティー・ベンチャーズは19年、再生エネ関連スタートアップ4社の資金調達ラウンド(シードラウンドからシリーズCまで)に参加した。20年6月にはスコットランドの洋上風力発電会社シーグリーン(Seagreen)の過半数株(51%)も取得した。シーグリーンの企業価値は38億ドルだった。

BPは直接投資とスタートアップ投資の両面から再生可能エネに投資している。BPベンチャーズは7月、バイオ燃料生産の米フルクラム・バイオエナジー(Fulcrum BioEnergy)の資金調達ラウンド(500万ドル)に参加した。BPは9月、北欧石油最大手のエクイノール(ノルウェー)から米東海岸にある洋上風力発電の権益50%を11億ドルで取得した。

石油・ガスメジャーは直接投資を増やしているが、スタートアップ投資も再生エネ事業の構築に取り組むメジャー各社のテクノロジー戦略で引き続き重要な役割を担っている。

今後の見通し

石油・ガスメジャーによる持続可能な投資の割合は従来型の化石燃料プロジェクトの設備投資費に比べると依然ごくわずかなため、各社は「グリーンウォッシング(環境保護に熱心だと装うこと)」との批判を受けやすい。とはいえ、こうしたテクノロジーへのベンチャー投資や直接投資は重要なステップだ。

各社の再生エネ発電やエネルギーインフラ技術への投資の割合は今後高まるだろう。

再生エネの電気の貯留やグリッド管理技術、電気自動車(EV)の充電スタンドなどのインフラ構築は再生エネの普及にとって極めて重要だ。BPベンチャーズは19年以降、エネルギー管理を手掛けるスタートアップ3社、米フリーワイヤ・テクノロジーズ(FreeWire Technologies)、中国のR&Bテクノロジー(R&B Technology)、英グリッドエッジ(Grid Edge)に出資している。

各社は今年、EV充電を手掛ける企業にも相次いで出資している。シェブロン・テクノロジー・ベンチャーズは米チャージポイント(ChargePoint)に出資し、シェル・ベンチャーズは米アンプル(Ample)のシリーズBに参加した。BPは19年、英国に超急速充電ステーション網を展開した。

発電の燃料やインフラが変化を遂げるなか、ベンチャー投資は今後も石油・ガスメジャーが新興エネルギー技術を開発し、理解するための手段となるだろう。

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