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脱炭素へ大競争時代 中国は水素奨励、欧州は新税検討

(更新)
欧州エアバスは水素を燃料にした飛行機の事業化計画を公表した=同社提供

菅義偉首相が26日表明した温暖化ガス排出を「実質ゼロ」にする目標に関し、具体的な計画づくりで先行するのは欧州連合(EU)と中国だ。再生可能エネルギーや省エネの拡大に加え、水素社会の実現がカギとみる。官民挙げての技術開発競争が激化してきた。

国際エネルギー機関(IEA)は10月に公表した報告書で、2050年に世界の排出を実質ゼロにするため30年までに必要な道筋を示した。

(1)二酸化炭素(CO2)を10年比45%減(2)電力部門からの排出を19年から60%減(3)電力供給に占める再生エネの割合を19年の27%から60%に上げる(4)30年の乗用車販売の半分以上を電気自動車(EV)に――。いずれも容易な内容ではない。

IEAは個人の行動を変えることも提言した。(1)労働者の2割が週3回以上在宅勤務(2)運転速度を時速7キロメートル遅く(3)冷暖房の設定を3度弱める(4)3キロメートル以内の車移動を自転車か徒歩に変更――などを推奨した。

EUは50年までの「実質ゼロ」を掲げる。30年までに1990年比で40%減らすとの目標も引き上げ、少なくとも55%減らす案を議論する。30年までは再生エネや省エネなどの普及が主だが、30年以降は新技術に期待する。その中心が水素だ。

「商用航空機分野でこれは歴史的な瞬間だ」。欧州エアバスのフォーリ最高経営責任者(CEO)は胸を張る。9月、水素を燃料とする航空機を35年までに事業化すると発表した。航空機は世界のCO2の約2%を排出しており、水素燃料の航空機が実現すれば排出ゼロに近づく。

水素を使う燃料電池トラック(スイス)=ロイター

EUは7月に「欧州クリーン水素連合」を創設、官民で研究開発やインフラ整備を進める。EUのティメルマンス上級副委員長は水素を「新エネルギー界のロックスターだ」と呼ぶ。EUは50年の世界のエネルギー需要の24%を水素が担う可能性があるとみる。

水素などの新技術にはコストがかかり、当面は欧州企業が競争力で不利になる恐れがある。環境規制の緩い国から安価な製品が欧州に流入する懸念があるが、それを防ぐためにEUが検討するのが「国境炭素税」だ。

環境対策が十分でない国からの輸入品に事実上の関税をかける内容だ。欧州企業が抱く高い排出減目標への不安に応える狙いがあり、EUは公平な競争条件の確保に必要として、遅くとも23年までに導入する。

「60年までにCO2排出量を実質ゼロにする」。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月の国連演説で強調した。努力目標とはいえ、踏み込んだ目標設定に他国の政府関係者は驚いた。

中国はCO2の排出量で世界の3割弱を占める最大の排出国だが、再生エネ導入にも熱心だ。中国はEVの世界最大の市場で、IEAによると19年の販売台数は世界全体の54%だった。中国の太陽光の発電電力量は18年時点で世界の32%と、日本のシェアの3倍近い。

26日開幕した中国共産党の重要会議、中央委員会第5回全体会議(5中全会)で決める第14次5カ年計画(21~25年)では、非化石燃料の1次エネルギーに占める消費比率を従来目標の15%から18%程度に引き上げるとの見方がある。

具体策として、再生エネの「利用実績」を取引できる市場をつくる。温暖化ガスの排出量取引に似た仕組みだ。中央政府が決めた再生エネの利用目標を達成できない電力小売事業者らに、目標を達成した企業から「利用実績」を買い取らせる。

水素社会の実現も急ぐ。中国政府は9月、燃料電池車(FCV)の販売補助金制度を撤廃し、中核技術の開発企業に奨励金を与える制度を導入。FCVは技術的な難度が高く、当面は技術開発に対して直接財政支援する必要があると判断した。

20年9月、北京市は新たに「北京大興国際水素エネルギーモデル地区」を設けた。水素エネルギーのインフラを整備し、中核技術を持つメーカーの技術力を高める。

日本は計画をどう実現するのか。まず再生エネの普及の制約となっていた送電網を増強する。出力が不安定という再生エネの欠点を補うため、大容量の蓄電池の量産体制を整える財政支援などにも取り組む見通しだ。

30年までに洋上風力発電を全国に整備し、原発10基分にあたる1000万キロワット分の発電容量を確保する計画も立てた。大量のCO2を出す石炭火力は事業者に達成すべき発電効率の目標を課すなど、非効率な設備の削減を促す措置を検討する。

18年度に発電量の6%にすぎなかった原子力発電所について、梶山弘志経済産業相は「今後10年間、再稼働に全精力を注ぐ」との方針を示す。ただ再稼働自体のハードルが高いほか、新増設がなければ30年時点の原発の電源構成比率は最大15%程度にとどまる見通し。

(ブリュッセル=竹内康雄、北京=川手伊織)

再生エネ・蓄電池・CO2回収、次世代技術カギに

優れた省エネや電池の技術で環境先進国といわれてきた日本だが、中国や欧州の飛躍でその地位が大きく揺らぐ。世界が「温暖化ガス排出ゼロ」を競うなか、日本の将来は技術革新を起こせるかにかかっている。

「脱炭素社会」で競争力の源泉となるのが、再生可能エネルギーと蓄電池技術だ。革新的なイノベーションを期待できる技術の芽生えは既にある。いかに育てるかだ。

再生エネのなかでも、無尽蔵の太陽光を電力に変える太陽電池の進化は欠かせない。屋根に載せる一般の太陽電池は光を電気に変える効率は足踏みを続ける。だが専門家は、限界を超える太陽電池の実現は可能とみる。

2019年秋、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が専門家への調査などをもとに予測調査をまとめた。36年に変換効率が50%を超える太陽電池が実用化できると分析した。新しい太陽電池の開発は急速に進んでいる。「ペロブスカイト型」と呼び、低コストで薄く作れる。太陽電池を取りつけにくかった建物の壁面や曲面を覆い、太陽電池の設置面積を飛躍的に広げる可能性を秘める。

再生エネの普及を支えるのが蓄電池だ。電気自動車(EV)の性能に例えると、今は1回の充電で様々な工夫を凝らして500キロメートルを超えて走る車種がようやく出始めたにすぎない。30年ごろの実用化が待たれる次世代蓄電池に求められるのは、1回の充電で2倍以上にあたる1千キロメートル超の走行を可能とする性能だ。

再生エネの太陽光や風力発電を長らく使いこなせていないのは、気象条件によって発電量が変動し、停電などのトラブルを恐れるためだ。大容量の蓄電池があれば、余った電気を蓄え、必要なときに使うしくみが整う。火力発電所に頼ってきた世界が一変する。

蓄電池の進化で、EVはより長い距離を走れる。トラックなどの物流も電化が進み、脱炭素が可能となる。こうした蓄電池や再生エネの技術は互いに連携して実用化を進めることが不可欠だ。

廃棄物の問題はあるが、原子力発電も温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を出さない。多様な電源を求めるなら、40年代には安全な小型原子炉の実用化が必要になる。次世代原子力技術でも欧米中は競う。安全性を高めたとされる核融合発電は50年代に実用化を目指す。欧日中などはフランスで共同開発する。

CO2を回収する技術も総動員すべきだろう。世界の企業の取り組みは進み、30年代にはCO2を大気中から取り出し、化学原料などに再利用することが当たり前になっているかもしれない。

地球温暖化が産業界にもたらす脅威の一つは、たった一つの技術革新で、これまでの「勝ち組」と「負け組」の構図が入れ替わることだ。日本はこれまで再エネ・省エネ技術で世界をリードしてきた。脱炭素社会の進展とともにあっという間に中国や欧州に市場を奪われた。50年ゼロを規制や負担と捉えずに好機としなければ日本の環境先進国としての復権はない。

(気候変動エディター 塙和也)

エネルギー基本計画 再生エネ「主力電源」目指す


 国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す計画。2002年に成立したエネルギー政策基本法に基づき、03年に初めて定めた。おおむね3年ごとに見直す。次は21年夏の改定をめざし、経済産業省の有識者会議が10月から議論に着手した。現行計画は18年に閣議決定した。再生可能エネルギーは「主力電源化を目指す」と位置づけた。
 現在は発電量全体の7割超を火力発電でまかなう。石炭火力への依存に国際的な批判が集まるなか、原子力にも国民の厳しい視線が集まり、再生エネを安定的で低コストの電源に成長させる必要性が高まっている。梶山弘志経産相は、次期計画で再生エネを他の電源より上位の主力電源にする意向を示している。
 10年に決めた民主党政権下の計画は再生エネと原発の比率をあわせて30年までに70%にすると掲げた。東日本大震災後には原発ゼロをめざす方針を打ち出したものの、閣議決定されないまま自民党に政権が戻った。梶山氏は向こう10年間は再稼働に注力する考えを明らかにしている。

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