女優・中村アンさん 母の「獅子の崖落とし」に感謝

著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回は女優の中村アンさんだ。
――ご両親は新潟県佐渡島のご出身ですね。
「小さなころからお互いを知っていたみたいです。友達から始まり、相談相手になって、ちょっと恋をして……。典型的な幼なじみですよね。父が先に東京に出たのですが、そこで母とまた出会って。合縁奇縁っていうんですかね。うらやましいです、仲が良くって。3年前に父がリタイアしたのをきっかけに夫婦そろって佐渡に戻りました。庭いじりしたり、野菜を育てたり。勝手知る故郷で悠々自適に過ごすって簡単そうでできませんよね」
「父は、男は職場で頑張り家族を養うという典型的な亭主関白。たまに自宅に帰って私がお酌をするとうれしそうな顔をする。かわいい、チャーミングな男性です」
――学生時代はチアリーディング一色だったとか。
「高校から大学までチア漬けの毎日でした。女の子っぽいイメージがあるかもしれませんが、超体育会系の部活です。身体能力はもちろん、あいさつから所作、笑顔の振る舞いなど厳しく教育されました。チアリーディングの目的って応援だけではなく、人に笑みや喜びをもたらすことにあるんです。つらかったり落ち込んだりしている人にどう笑顔を与えられるのか。悩んだ結果たどり着いたのが、まずは自分が楽しむこと。キャプテンになり、全国制覇したときでもそう感じました」
――芸能界入りしてからは苦労の連続と聞きました。
「親の反対を押し切ってこの仕事に飛び込みました。何とかなるだろうと安易に考えていましたが、鳴かず飛ばず。自宅でお風呂に入っていると、母が扉越しに『もう、やめちゃえば。向いてないんだよ』。悔しかった。お風呂で泣いちゃいました。ただ、その後は、与えられた仕事を懸命にこなそうと考えました。仕事を選ぶのは私ではないんだと。プロ意識が芽生えたときです」
「不思議とその後は肩の荷が下りた気がします。楽しもうとのチア精神です。母からの"仕打ち"は不愉快だったけど、意地悪とか嫉妬ではなく、獅子の崖落としのような荒行だったと思っています。長女で両親には心配をかけていなかったつもりですが、私の弱い部分や気負いを感じ取っていてくれたのかな。反発心があったから、仕事を続けられていると感じています」
――「仲良し家族」には異論があるようですね。
「家族って、仲の良しあしに関係なく絆でつながっているものではと思います。毎日会うとか、連絡を欠かさずするとか、決して悪いことではないですが、それは束縛なのでは……。何かあれば連絡は取り合うし、年末年始は一家で集まります。会話や顔を合わせる以上に、家族を常に意識していることが大切と思います」
[日本経済新聞夕刊2020年10月27日付]
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