/

あいみょん 数年前に書いた歌詞にやっと追いついた

あいみょんインタビュー(上)

あいみょんがニューアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』をリリース。ヒット曲を多数収録する今作だが、実は数年前に作ったストック作品がベースになったものが多いのだという。あいみょん流の楽曲制作術、そしてコロナ禍で心境にどんな変化があるのかを語ってくれた。2回に分けて掲載する。

1995年生まれ、兵庫県出身。音楽関係の仕事に就く父親の影響で、幼少の頃より音楽に触れて育つ。2016年11月にシングル『生きていたんだよな』でメジャーデビュー。シングル『マリーゴールド』(18年8月)は、20年2月にストリーミング再生回数が2億回を突破(写真:中川容邦)

夏のまぶしい陽射しと懐かしい匂いがよみがえるような『マリーゴールド』(2018年)で、幅広い層から支持を集めたシンガーソングライターのあいみょん。その後も、映画『クレヨンしんちゃん』の主題歌『ハルノヒ』や、ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)主題歌で初のバラードシングルとなった『裸の心』など、話題作を多数手掛けている。

これらヒット曲を含む3rdアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』を9月9日に発売。心洗われるようなエバーグリーンなナンバーから、20代女性ならではの赤裸々な恋愛歌、パワフルかつ重厚なライフソングまで幅広い。文章の一節か、セリフのような印象を受けるユニークなタイトルは、前作『瞬間的シックスセンス』(19年)や、前々作『青春のエキサイトメント』(17年)に比べ、語感が柔らかくなった。どんな心境の変化の表れだろうか。

「今回も、『漢字+カタカナ』のタイトルを考えたんですが、いいのが浮かばなくて。ある日、携帯のメモ帳を見てたら、『おいしいパスタがあると聞いて』という言葉が残ってて、深い意味があるわけじゃないんですけど、今の私にすごくしっくりきたんです。ただこれまでとの共通点もあって、それは14文字ということ。この語感のリズムが昔から好きなんですよね。

アルバムを作ろうという話は、昨年秋くらいからしていました。ただ、ツアーもあったので、本格的に始めたのは1月頃から。ドラマ主題歌『裸の心』と同時進行で、早めに取り掛かったんです。その後、コロナで制作が止まった時期があったので、結局は6月末までかかってしまい、最後は猛ダッシュで完成させることになりましたが(笑)」

うららかな春を思わせる優しい『ハルノヒ』や、むき出しの言葉と切ない歌声が胸に迫る『裸の心』など、5曲のタイアップを含む本作。作品の世界観を受けてからタイアップ曲を書き下ろすアーティストも少なくないが、そうして作ったのは『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のテーマ曲『さよならの今日に』だけだという。それどころか、「2020年に作ったのは『さよならの今日に』だけで、ほかは数年前のストックから選びました」というから驚きだ。内面の成長や変化が特に著しい20代で、数年前の自分とギャップを感じないのだろうか。

(写真:中川容邦)

「これまでもそうですが、アルバムに入れる曲は直感でいいなと思ったものを選ぶんです。ほぼ2、3年前に作詞作曲したものなので、振り返るところから制作を始めます。ただ、他のアーティストさんのインタビューとかを読むと、アルバムに向けて新たに曲を作る人も多いですよね。でも、私はそういう作り方ではない。数年前に考えたことは今の自分に書けないし、新鮮です。『なんでこんな曲書けたんやろう?』って思うから、ありがたい存在なんですよ。

とはいえ、昔書いた曲でも、今の自分にしっくりくるから選ぶし、今の自分が本当にそう思っているから出せる。『裸の心』は3年前の曲ですが、今の自分のほうがぴったりくる。『黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を』もそうです。

不思議だなと思うけど、書くときは大げさに書いたり、強がっていたりするので大人ぶっている。10代で書いた恋愛のほうが今の自分っぽいとか、刺さることがあるんです。歌詞に年齢がやっと追いついたみたいな。そりゃあ10代の頃の恋愛の歌は自分でも恥ずかしいし、ずっと世に出ていかないままだろうなと思うことも多いけど、こうしてひょこっと芽を出すこともある。それが、曲を作り続けようと思える理由です」

この時代、聴く人の力のほうがすごい

爽やかな風を感じるようなサウンドと、主人公の喪失感が色濃く表れた歌詞の対比が鮮やかな『空の青さを知る人よ』は、同名映画の主題歌として19年10月にリリース済み。しかし、詞中に、「悪魔の顔した奴らが/会いたい人に会えない/そんな悪夢を」とある。奇しくも、コロナ禍で孤独を深めて悩む人たちの姿と重なり、肌が粟立った。曲には世に出るタイミングがある、という彼女の言葉は、こうした不思議な時代とのシンクロニシティをも指しているのかもしれない。

「なんというか、すごい、こういうタイミングで出すと、別の聴かれ方をするのかなと。私は恋愛の曲として書いたけど、1人ぼっちで寂しい人が別の聴き方を……、この状況ではもしかしたら、寂しい人に響くような楽曲になるのかなと。私にとっても、コロナは憎い状況ではあるので。

この時勢ゆえに、『音楽の力とは?』とインタビューなどでよく聞かれます。でも、それは聴く人の力がすごいんだと思う。この曲にしても、さっき言ったように私は恋愛として書いても、それを聴く人が解釈を広めて受け止めてくれたりする。この時代、私たちアーティストの力よりも、聴く人の力のほうがすごいのだなとつくづく思いますし、この世の中に出たときに、どう広がっていくのか、すごく楽しみではありますね」

『おいしいパスタがあると聞いて』
 前作『瞬間的シックスセンス』から約1年7カ月ぶりとなる3rdアルバム。タイアップ5曲を含む全12曲を収録。不器用で切実な恋愛ソングだけでなく、人生について歌う楽曲も。初回限定盤には未発表曲『サラバ』や人気曲『マリーゴールド』を含む、10曲弾き語りCD『風とリボン -POTATO STUDIO,June,2020-』が付く。あいみょんの音楽の拠点で、ごく限られた人数だけで収録された。11月30日からアリーナツアーを行う。

(ライター 橘川有子)

[日経エンタテインメント! 2020年10月号の記事を再構成]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン