初球を仕留める20歳、ロッテ・藤原に見るプロの"資格"
編集委員 篠山正幸

これなら、コロナ禍による主力の大量離脱がなくても、頭角を現していたかもしれない……。今月1軍に引き上げられたロッテの2年目、藤原恭大(20)が躍動している。高校卒業2年目での開花の気配から、プロで成功する人に共通の資質がいくつかみえてくる。
鮮やかな先頭打者弾だった。10月14日、楽天戦の一回。今季絶好調の涌井秀章の初球をとらえた打球はホームラン打者ならではの打球、という放物線を描いて右翼席に。
■甘い球は常にフルスイング
カウントが深まれば、涌井のプロ16年のテクニックが発揮されただろうが、そうなる前の即決。織田信長の桶狭間のような急襲をかけた藤原の勝ちだった。
2戦後の日本ハム戦、杉浦稔大からのソロも一回裏の先頭打者弾だった。初球ではなかったが、ボール球が2つ続いたあとの第1ストライクだった。
1球目からベストのスイングができる。当たり前のことと思われるだろうが、実は投手それぞれに備わる固有のテンポと同様、もって生まれた資質といえるくらい、得がたいものだ。

「甘い球だけを待って、フルスイングをしようと。いつもそうですけど、1打席目の1球目から、ホームランを打てる準備をして打席に入っている」と明かした。本塁打を狙っている、というのではなく、とらえたときには本塁打になっておかしくないくらいのスイングを心がけている、ということだろう。
初球はどうしても受けに回る打者が少なくない。1球目をあっさり凡打することへの恐怖もあれば、もっといい球が来るのでは、という欲もある。タイミングが合わなくてもバットは振れない。スイングする理由と同じくらい、スイングを思いとどまらせる要素がある。
■強豪・大阪桐蔭高の伝統?
メジャーの格言に「(バットを)振らねば、何も起こらない」というのがある。少年時代から積極打法がしみついているはずのあちらの打者でさえ、振る勇気を持てなくなるときがある、ということだ。
この才は一朝一夕になったものではないらしい。「1打席目が一番打ちやすいというか、まっすぐ(直球)も多いし、(投手にとっての)立ち上がりだし、そこに合わせるよう、高校のときから常に意識してやっていた」という。
中日入りした同期の根尾昂とともに、大阪桐蔭高で鍛えられた。西武・中村剛也、日本ハム・中田翔、楽天・浅村栄斗ら、球界を代表する打者を生んできた高校の育成の秘密の一端がうかがえるようでもある。

荻野貴司、角中勝也ら藤原とポジションを同じくする外野手5人を含む11選手が、新型コロナウイルス感染、濃厚接触者として登録抹消されたのが10月6日。この日2軍から上がり、7日のオリックス戦から打順は1番、守備は左翼または中堅で先発。25日までの15試合で、60打数19安打の打率3割1分7厘、6打点に4盗塁。一気にレギュラー取りか、という勢いだ。
1年目の昨年、開幕戦で先発し、安打も放ったが、力不足は否めず2軍へ。あれから1年半あまり。すっかりたくましくなったスイングに、成長のあとがうかがえる。
オリックスのアンドリュー・アルバースや、楽天・則本昂大の速球に1、2打席目は苦戦しながら、第3打席できっちり対応し、安打を放っている。試合のなかで対応できるのはスイングの強さの「絶対値」があるからだ。
■マイペースを貫ける
周りに流されない性格も、プロで成功するには必須の要素だろう。思い出したのは昨年の新人合同自主トレの様子。12分間でグラウンドを何周できるか、という持久走があった。前半は新人9人中、1人離されて最下位だった。
「さすがにビリは駄目」と7分過ぎから追い上げ、最後は4位になったが、途中まで屈辱に耐え続けた。高校球界のスターだったドラフト1位選手を一目見ようというファンがいた。その衆目のなかでも、頑張りすぎなかった。

最初のキャンプで飛ばしすぎて故障し、それっきりとか、自分を見失う選手もいる。藤原はその手の危うさとは無縁のようにみえたのだった。
コロナ禍に遭った先輩たちが復帰し、もともと層の厚い外野陣の競争は激しさを増す。「(外野の層が)厚いのもあるし、もっとやらないと。今まで以上にしっかり(自分を)見つめ直して結果を残せるように」(16日の試合後)
まだまだ壁にぶつかるだろうが、そんなときこそ、自分を見失わない、という能力が生きてくるはずだ。