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ESG投信、「三度目の正直」で個人投資家に根付くか

ESG(環境・社会・企業統治)をテーマとした投資信託が人気を集めている。今年9月までのESG関連投信への純流入額は、前年同期の13倍と急激に膨らんだ。機関投資家がESG投資に向かう動きを反映したものだが、コロナ禍で社会問題への関心を高めた個人投資家の買いも入っているようだ。

社会問題の解決や環境をテーマとした投信には、過去2回のブームがあった。1990年代末の環境保護をテーマとした「エコファンド」と、2000年代半ばに設定が相次いだ、企業の社会的責任に重点を置く「社会的責任投資(SRI)ファンド」だ。しかしパフォーマンスのさえなさもあり、個人投資家の間での旬は短かった。今回のESGブームは、「三度目の正直」となるのか。

「ESGはもうからない」との見方がコロナで一変

「ESGは低成長という個人投資家の見方は、コロナ禍で変わった」。三菱UFJ国際投信の投信営業担当者は驚きを隠さない。同社が設定・運用する「ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド」の純資産額は9月末時点で約135億円と、コロナ禍前の1月末比で約195倍に膨らんだ。

背景にあるのは同投信の高いパフォーマンスだ。9月末時点での1年間のリターンは74.19%と、先進国株式を中心に運用する投信の中で、全体の6位に食い込む。

これまで、ESG投信やエコファンド、SRIファンドには「もうからない」というイメージが付いて回っていた。しかし、同投信のリターンの高さはそれを打ち破るものだ。コロナ禍前に購入していた個人投資家は、社会問題への意識が高い富裕層や知識層が中心だったというが、高リターンを背景に「コロナ禍後は幅広い層へと販売が広がっている」(三菱UFJ国際投信の投信営業担当者)。

社会の変化に対応する銘柄が運用成績に貢献

高リターンの背景にあるのは、組み入れ銘柄の多くが環境問題やコロナ関連の成長(グロース)株という点だ。経済的リターンのみならず、社会的課題解決への貢献や実際の影響度(インパクト)を重視する「インパクト投資」の考え方から銘柄が選ばれているため、社会の変化が加速すれば組み入れ先企業の収益環境は好転しやすい。

例えば組み入れ比率(9月末)の1位はEV(電気自動車)の米テスラ。世界各国が温暖化ガスを削減する中、EVへの転換が進むと見られている。

2位には日本のエムスリーが入っている。コロナ禍で「非接触」がテーマとなる中、ネットで医療関係者と医薬品メーカーを結びつける同社の収益機会は大きく高まっている。両社の株価はコロナ禍の中で急伸しており、高リターンの源泉となっている。

大型のESG投信の設定も相次いでいる。当初設定額が3830億円と過去2番目の規模となった、アセットマネジメントOneの「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」はその代表格だ。同投信はESG評価が高い企業を中心に組み入れている。組み入れ上位には、米アマゾン・ドット・コムや米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズなどのグロース株が並ぶ。

同投信への月間の資産流入額は7月の設定来3カ月連続でトップだ。販売額における個人の割合は約9割と高い。「コロナ禍により、ESGや企業の持続可能性への注目が急速に高まったことが一因」(みずほ証券)という。同投信が既に実績のある先進国アクティブファンド「未来の世界」シリーズの一つとして追加されたという点も大きかったようだ。

個人の資産形成にESG投信が根付く条件

とはいえ、個人投資家のESGに対する視線は、認知度の低さもあって機関投資家ほどにはまだ熱を帯びていない。

一般財団法人の社会変革推進財団(SIIF)の調査では、インパクト投資への関心がある個人の比率はわずか19.1%にとどまった。コロナ禍の収束でESG投信の高リターンが終わるのなら、今回も一過性の「ブーム」となりかねない。

重要なのはESG投信が長期の資産形成に向くという認識が広がるかどうか。社会の持続的な成長に資する企業に投資するため、ESG投信では長期的に安定したリターンが得られやすいとされる。それが機関投資家のESGシフトの一因だ。

ただ、フィナンシャルプランナーでインパクト投資に詳しい尾上堅視さんは、「企業型DC(確定拠出年金)やつみたてNISA(少額投資非課税制度)のラインアップにESG商品が乏しいため、顧客の間でESG投信が資産形成に向くという認識はまだ広がっていないようだ」と話す。「高リターンのアクティブ投信」としてではなく、「長期の資産形成に向く安定成長投信」と見なされるようになるかが、ブーム定着の鍵を握るとみる。

運用会社側も対応を急ぐ。三菱UFJ国際投信は、「ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド」と同一のマザーファンドに投資するものも含め、3本のDC向けESG投信を8月に設定した。野村アセットマネジメントもDC向けに、「世の中を良くする企業ファンド(野村日本株ESG投資)」を5月に設定。「DCにおいて重要な、長期的かつ合理的に安定的な収益が期待できる」(野村証券)という。

コロナ禍などで社会構造が大きく変わる中、ESG投信への関心が個人の間でも高まっているのは確かだ。かつてのエコファンドやSRI投信が抱えていた「リターンの低さ」というネックは解消されつつある。今後さらに資産形成に臨む個人との接点が増えていけば、ESG投信は個人投資家にとっても、ブームを超えた「定番」となるかもしれない。

(川路洋助)

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