/

マイナー競技を持続可能に アイスホッケー横浜の挑戦

横浜グリッツの17、18日の本拠地2試合は500人ほどの観衆を入れて開催した(新横浜スケートセンター)

アイスホッケーのアジアリーグに、12シーズンぶりに東京近郊を本拠とするチームが参入した。母体チームもなく、メインスポンサーもいない「横浜グリッツ」は、ゼロから立ち上げた新チームだ。運営側にはこの競技と縁遠かった人の姿もある。人気低迷に悩む業界にあえて飛び込む人たちは、どんな風景を見ているのか。マイナースポーツを持続可能なものにしたい、という彼らの熱い思いに迫った。

「アイスホッケーだけをしている選手は、このチームに一人もいません」。2019年5月にチームの運営会社、グリッツ・スポーツ・イノベーターズを設立した臼井亮人さんは言う。チームが掲げる看板は「デュアルキャリア」、仕事と競技の両立だ。人件費を抑えてチームを持続可能にするとともに、引退後も見据えて選手の人生を後押しする。第一線への再チャレンジを決意した選手の勤務先はソフトバンク、プルデンシャル生命保険、セールスフォース・ドットコム、ドームなどさまざまだ。

異業種から運営ボランティア集まる

試合運営を担うボランティアの顔ぶれが面白い。広報戦略本部長の川口俊介さんの本当の顔はNHKのドラマ「エール」広報展開プロデューサー。「朝ドラをやっています。エンターテインメントの専門家として、情報の出し方など協力できることはある」。広報リーダーの吉川真行さんは東京五輪・パラリンピック組織委員会の職員だ。2人にアイスホッケーの経験はない。

映像を担当するシステムエンジニアらも集まり、それぞれが得意分野でチームを支える。「異業種交流会みたい」と吉川さん。川口さんも「お互いからノウハウをもらっている。仕事のためのインプットという意味もある」。新型コロナウイルスの感染拡大により、本業の仕事量が減ったことも、参戦の理由の一つだという。

17日の試合でパックをキープしてせめる平野裕志朗(左)

今のチームの最大の売りは日本代表のエース、平野裕志朗だ。25歳のFWの主戦場は北米プロの3部にあたるECHL。その開幕が12月にずれたため、空白期間を使って期限付き移籍中だ。強烈なシュートを武器に海外で生きてきた平野は、東京都内で一般人向けに「シュート教室」を開いてチームの収益に貢献する。

日本、韓国、ロシア(サハリン)にまたがるアジアリーグは、今季のレギュラーリーグは中止とし、代わりに日本勢5チームによるリーグ戦「ジャパンカップ」が10日に開幕した。グリッツは4戦4敗ながら、18日のひがし北海道クレインズ戦は2-4と健闘。元NHL選手のマイク・ケネディ・ヘッドコーチが10月中旬に来日、待機期間中のため、遠隔でアドバイスを送ったという。

チームの練習は週に3回、朝に1時間だけだ。仕事のために欠席する者もいる。全員がそろう時間は限られるから、チャットサービスの「スラック」を活用、裏方を含めた60人ほどでメッセージを共有し一体感を高める。「平野選手の『日本のアイスホッケーを変える可能性がグリッツにはある』との書き込みを見て、我々の士気もあがった」とスタッフの一人は話す。

大学で競技終了のつもりが一転

チームの攻撃の要、FW池田涼希は明大4年だった昨季、関東大学リーグでMVPに輝いた。日本代表候補合宿に呼ばれた経験もあるのに、競技は大学までのつもりだった。「実力があるのに辞める先輩を見てきたから」。働き方改革や多様な生き方が推奨される今の時代、貴重な20代を競技一本で過ごすのは大きなリスク。そう考える若者にとってグリッツの環境ならトライする価値はあると思えた。

池田は「仕事との両立は難しいけれど、やりぬく覚悟はある。新しい道を切り開いて後輩たちに選択肢を与えたい」。イケア・ジャパンでロジスティクスを担当しているというGK黒岩義博は「アイスホッケーだけのころは時間が余っていた。今は体のケアが大変だけど、充実している実感はある」と明るく話す。

18日の試合で横浜グリッツの1点目を決めた金子直樹(右)。本職はFWながら、DFとしてチームを支えた

地元企業に選手を雇ってもらう例はほかのスポーツにもある。その多くが競技のための腰掛け仕事なのに対し、「デュアルキャリア」は仕事にも手を抜かずにステップアップを目指す。競技にすべてを注ぎ込み、最高の結果を求めるアスリートには受け入れられない話だろう。しかし、ビジネスパーソンとして成長しつつ、競技でもチャレンジしたい人には朗報となる。

慶大時代、アイスホッケーに打ち込んだ臼井さんは言う。「マイナースポーツが抱える課題を解決したい。だれもがそれぞれの好きなスポーツを続けられる環境をつくりたい」

1998年長野五輪後、この競技は長期低迷状態にある。99年に古河電工(現日光アイスバックス)が撤退し、2001年に雪印、09年に西武が廃部。新規加入は、ゼビオの支援により09年に参入した東北フリーブレイズだけだ。19年に廃部となった日本製紙はひがし北海道クレインズに生まれ変わった。王子も21年4月からクラブチームになる。

グリッツのやり方がチーム数減少の危機を救うのか。臼井さんが見込む今季の運営費は1億5千万円。「資金繰りのメドが立つように頑張っているところ」。チーム名の「GRIT」に込めた意味は「やり抜く力」。崖っぷちからの船出は覚悟の上の挑戦である。

(田中克二)

すべての記事が読み放題
まずは無料体験(初回1カ月)

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン