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会津スマートシティーの挑戦 デジタルでクーポンや医療

(IN FOCUS)

デジタル技術で都市機能や暮らしを向上させるスマートシティー。新型コロナウイルスを契機に行政のデジタル化の機運が高まる中、街づくりにもその波が押し寄せている。経済産業省によると国内でスマートシティー関連事業に取り組む地域は現在約160。その一つ福島県会津若松市では、デジタル技術を使った様々な実証実験が進行中だ。住民の同意を得た上でデータを収集、活用する「オプトイン」方式を採用し、日本を代表する次世代都市に挑もうとしている。

デジタル化が支える地域医療

オンライン診療を受ける男性(19日、福島県会津若松市)

「少し手を動かしてみましょう」。市内にある老舗和菓子店にiPadから声が響いた。同店を経営する50代の男性はパーキンソン病を患い右側の手足が動かしづらく、約1年半前からオンラインでの診療を受けている。3カ月に1回の対面診療は必須だが、それでも「身体的、時間的な負担は大きく減った」。

触診ができないのはデメリットだが、「画面越しに見える生活環境も診察のヒント」と語るのは竹田綜合病院の石田義則医師(57)。同院では1年半前に順天堂大学指導の下、オンライン診療を導入、脳神経系の難病の患者を対象とし、現在は市内で約60人が利用する。「将来的には音声や映像のデータを人工知能(AI)で解析することによって認知症などの早期発見に生かせる可能性もある」(石田氏)。地域医療の次の段階を見据える。

大手とベンチャーがスクラム

鶴ケ城に導入された密集回避システム。AI搭載の3Dカメラにより人を骨格のみで表現しプライバシーに配慮する。人との間隔が1.5メートル以内になると赤色で表示される(16日、福島県会津若松市)

地元ベンチャー企業も活発だ。9月末、新型コロナウイルス対策のため観光名所の鶴ケ城では密集回避システムが稼働し始めた。AIを搭載したカメラが人の動きを感知し、骨格で画面上に可視化される。「スマートシティーを築く上で課題となるのは個人情報の扱い」と話すシステム開発元の会津コンピュータサイエンス研究所の久田雅之所長(45)。人の動きや骨格以外の情報を一切排除した。交通機関や店舗の混雑状況の把握などにも役立てたい考えだ。

ソラミツ(東京・渋谷)が開発したデジタル地域通貨「Byacco」を使い、スマホで支払いをする学生。学内の食堂や売店で利用できて、個人間の取引も可能。今後は使用可能エリアを広げていく狙いだ(19日、会津大学)

フィンテックスタートアップのソラミツ(東京・渋谷)も同市に拠点を置く。会津大学の食堂では学生がQRコードにスマホをかざして決済をする。学生が支払うのはブロックチェーンを活用した日本初のデジタル地域通貨「Byacco」だ。7月から学内での本格運用がスタートした。従来のキャッシュレス決済と異なり、客が店舗で支払った後、店側はそのまま仕入れなど他の用途へ使用する「転々流通」が可能。今後は大学外への普及も目指す。

AiCTでは毎週、各企業の担当者が集まり話し合いの場が設けられている。活発な提案や議論が繰り広げられる(19日、福島県会津若松市)=360度カメラで撮影

同市をデジタルの街へ変貌させている原動力の一つは民間企業の存在だ。昨年4月に始動した企業の集積拠点AiCT(アイクト)には三菱商事やアクセンチュアなどの大手からベンチャーまで27社(10月現在)が軒を連ねる。毎週、各企業の担当者が集まり、デジタル化や地域課題について意見を交換する。システム開発大手TISの岡山純也氏(40)は「隣のオフィスを訪れ、相談することも多い」と笑う。

デジタルクーポンで観光客呼び込む

郷土料理や地酒はいかが――。TISはブロックチェーン技術を活用した観光客向けのデジタルクーポンを10月から試験運用する。「極上のはしご酒」キャンペーンは千円でお酒とおつまみの「ほろ酔いセット」を提供する。参加する地元の飲食店で利用でき、観光客はスマホで事前にクーポンを購入、会計時に店側に確認画面を見せて支払いは完了する。「集まったデータを地域にどのように生かせるか、地元飲食店と話し合っていく」(岡山氏)。観光分野でもスマートシティーに向けて動き出した。

人材が拓く未来

9月にオープンしたプログラミングを学ぶ拠点「寺子屋Hana」では小中学生向けに無料教室を開く(17日、福島県会津若松市)

デジタル化を担う地元の人材も重要だ。コンピューター分野に力を入れる会津大学の存在は大きい。また市内には小中学生がプログランミングなどを学ぶ拠点「寺子屋Hana(はな)」が9月にオープンした。設立に関わったSAPジャパン(東京・千代田)の吉元宣裕氏(41)は「まずは興味をもってもらえれば」と期待を込める。この日、寺子屋を訪れた市内の中学校に通う村上瑞樹くん(13)はプログラミングの経験はほぼない。コードが書かれたプリントを見ながらゆっくりキーを打ち、時折「難しい」と頭を悩ませる。戸惑いながら見せる明るい笑顔に会津若松の未来を感じた。

中ノ沢温泉にある無人コンビニ「NEXTO STORE」。スマホを使い解錠、商品のバーコードを読み取り決済ができる。AiCTに入居するデザイニウムの前田諭志代表は「人口減少に直面する地方でこのシステムを活用できれば」と話す(18日、福島県猪苗代町)

(写真・文 藤井凱)

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