五輪開催都市・東京に最新バス2種 脚光浴びるか
東京五輪・パラリンピックと関係が深い新型の乗り物が相次いで東京に登場している。都心と湾岸エリアを結ぶバス高速輸送システム「東京BRT」、羽田空港周辺の足となる自律走行バスがそれぞれ今秋デビューした。新型コロナウイルスの感染拡大や東京大会の延期に翻弄されたものの、来夏改めて世界の脚光を浴びる可能性がある。
高速輸送、体感できず
10月1日に運行が始まった東京BRTは2つの車体をつなげた格好の「連節バス」が人気だ。全長は約18メートル。連節バスが23区内で運行されるのは初めてで、初日は停留施設「晴海BRTターミナル」(東京・中央)に、スマートフォンのカメラを向ける人が集まるほどだった。

ただ一般客の感想は「思っていたよりも普通のバスだった」と、意外にあっさりしたもの。東京BRTは現在、虎ノ門と晴海を結ぶ1ルートのみの「プレ運行」。車両の位置を把握し、バスのために信号機を優先的に制御するPTPS(公共車両優先システム)が本格稼働していないため、売り物の「高速輸送」も体感できないからだ。
五輪のホストシティー(開催都市)である東京都にとって、湾岸エリアの選手村を活用するマンション開発、都心と湾岸を結ぶ都道の環状2号線整備、マンション住民の足となる東京BRTはワンセットの話だった。だが、様々な障害に見舞われている。
「五輪ロード」と位置づけられていた環状2号線は旧築地市場の移転の遅れに伴い、「暫定開通」状態のまま。五輪ロードを走る東京BRTはコロナ禍に見舞われ、5月の運行開始予定が10月にずれ込んだ。選手村のマンション「ハルミフラッグ」は大会の1年延期に伴い、販売計画に影響が出る公算が大きい。
選手村にできるマンション付近には2022年度以降、東京BRTの停留施設が整備される。運行ルートは都心から江東区の有明や青海などを結ぶ4ルートが整う。PTPSがフル稼働し、高速輸送の実力を発揮できれば、都民の生活に不可欠な交通手段としての評価も得られるだろう。
ハンドルがないバスに驚き
鹿島など9社が出資する羽田みらい開発(東京・大田)が都市再生事業を推進する「羽田イノベーションシティ」(大田区羽田空港1丁目)で、9月に11人乗りの自律走行バスがお目見えした。座席のみで、ハンドルがないバスが動き出すと、乗客からは「おっ、すごいな」と声があがる。

東京の空の玄関口、羽田空港は沖合に拡張してきた歴史があり、拡張に伴って生まれた空港施設の跡地の開発を鹿島などが手掛ける。デンソーの技術開発拠点、中小企業の研究オフィス、コンサートホール、ホテル、アート体験施設などが集積する街が7月に誕生。今後、街区の拡張も予定され、総投資額は1000億円近くになるという。
鹿島は「世界で一番先進的な街に育てあげたい」(開発事業本部長の塚口孝彦執行役員)との狙いから、自動運転技術の実用化を街づくりの目玉の一つと位置づけている。自動運転技術のソフトバンク子会社BOLDLY(東京・千代田)、日本交通などと組み、一般客を無料で乗せ、街中でバスの定常運行を続ける。実証実験開始から1カ月で約4000人が自動運転を体験した。
このバス、コロナ禍がなければ、7月に羽田イノベーションシティと羽田空港国際線ターミナルを結び、海外からのメディア関係者らを乗せて、運行されるはずだった。旗振り役は日本自動車工業会。「誰もが自由に移動できる社会像を自動運転技術の支援で提示したい」(自工会2020年対応検討会)という思いを抱えており、「来年7月に実施する選択肢もある」としている。
五輪は技術開発力を示すショーケースでもある。トヨタ自動車は大会期間中、自動運転の電気自動車(EV)「イーパレット」を選手村の中で巡行させ、選手や大会関係者の移動に役立てる考えだ。来夏、大会が開催されれば、新しい乗り物が都市生活者に受け入れられ、暮らしの中に浸透している風景を世界中の人に見てもらえるかもしれない。
(山根昭、近藤康介)