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井上尚弥、ついに「聖地」デビュー 狙うはKOのみ

18日にラスベガス入りし、現地で調整を続けている井上尚弥=大橋ジム提供・共同

世界ボクシング協会(WBA)、国際ボクシング連盟(IBF)統一バンタム級王者の井上尚弥(大橋)が31日(日本時間11月1日)、米国ネバダ州ラスベガスで1年ぶりのリングに立つ。新型コロナウイルス禍で当初4月に予定された「聖地」デビュー戦は対戦相手が変わり、無観客で開催される。それでも満を持しての登場に日本のみならず本場の注目度も極めて高い。「ここからキャリア第2章」と語る27歳の王者もKO決着を強く意識している。

無観客でもファイトマネー100万ドル

黒煙が立ちこめた上空をヘリが飛び交う中、破壊されたホテルや街の看板を見下ろすようにそびえ立つ巨大な井上尚弥――。今回の試合を主催する米興行大手トップランク社が製作したポスターは、まるでゴジラの襲来を連想させる。すっかり世界に知れ渡った井上の異名「モンスター」に重ね合わせたのだろう。通常、試合ポスターは対戦する2人のボクサーを対等に据えたシンプルなものがほとんど。井上だけにフォーカスした斬新な1枚からは、この試合が井上との契約初戦となるプロモーターの意気込みが伝わってくる。

期待の大きさはファイトマネーにも表れている。所属ジムの大橋秀行会長は今回の報酬が100万ドル(約1億500万円)だと明らかにした。3年前、スーパーフライ級王者時代に米カリフォルニア州で防衛戦を行ったときの報酬は18万2500ドル(当時約1970万円)。バンタム級に上がってからの爆発的な強さ、昨年のワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)優勝で一気に世界の評価も高まった。「ミリオンダラー」はスーパースターのひとつの証しである。

しかも大橋会長によると、当初4月に数千人の観客を入れて開催する予定だったイベントがコロナ禍で無観客興行になったにもかかわらず、井上のファイトマネーは維持されたという。「30~40%ダウンは仕方ないかなと思っていた」という大橋会長も驚く厚遇だ。ちなみに、当初対戦予定だった世界ボクシング機構(WBO)王者のジョンリール・カシメロ(フィリピン)は条件のダウン提示を受けたらしく、今回は井上との対戦を拒否。相手はWBA2位、IBF4位のジェーソン・モロニー(オーストラリア)に変わった。

半年遅れでも調整は怠りなく

それだけの期待と注目を集めるラスベガスデビュー戦。当の井上本人も準備に抜かりはない。「この状況(コロナ禍)で試合ができることに感謝している。海外の(試合への)不安はない。むしろ楽しみの方が大きい」。3月以降は試合延期、緊急事態宣言、練習再開、相手変更と揺れる時間を過ごしてきたが、その一挙手一投足を見てきた大橋会長は言う。「常に普段通り。モチベーションが上がらないとか、集中できていないということが全くなく、この半年もずっと緊張感を保ってきた。尚弥の強さはこういうところにあるんだなと再発見する思いだった」

コロナ禍により、同じジムの選手を中心にスパーリングを重ねた=大橋ジム提供・共同

10月18日に現地入りした井上は日本をたつ際、「気持ちの面でも肉体的にも仕上がっている。コンディションはいつも通り。コンディション調整に失敗したことがないので」と自信の言葉を残している。今回はコロナ禍で海外からスパーリングパートナーを呼ぶことができず、弟の拓真、元世界挑戦者の松本亮ら大橋ジムの選手を中心にスパーリングを重ねた。普段ほとんど手合わせをしない選手とのスパーリングは緊張感があり、より実戦に近い感覚をつかめるものだ。もともと意識の高い井上のことだから、抜かりはないだろう。父の真吾トレーナーも「攻撃力、防御、出入りのスピードと完璧に仕上がった」と太鼓判を押す。

井上は「全ては自分の仕上がり次第」と語るが、その上で当然、挑戦者についても分析は怠らない。大橋会長は「相手を軽く見ているということはない。今回は特に研究している印象がある」と話す。実はモロニーは昨年のWBSSに参戦しており、井上が準決勝で2回TKOで一蹴したエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に僅差の判定で敗れている。三段論法を持ち出さなくても井上の断然優位は動かないが、それでも相手の研究に余念がないのはなぜか。理由は「KO」にありそうだ。

キャリアの折り返しに「いい試合をしたい」

「タフでスタミナがあって技術もある。総合力はカシメロより高いと思っている」というのが、井上のモロニー評。4月に対戦予定だったカシメロは野性味にあふれ、一発の意外性や破壊力が脅威だった。スピード、パワー、技術と全てが平均点以上の印象のモロニーにカシメロのような不気味さはない。ただ、「穴が少ない。倒しにいくぞといって(簡単に)倒せる選手じゃない」と大橋会長はみる。

挑戦者のモロニーも21勝(18KO)1敗と高いKO率を誇る(大橋ジム提供)

「KOなら序盤か中盤かなと思うが、相手もスタミナがある。後半にもつれこんだら、お互い精神的な戦いになる」。はっきりとKO狙いを明言しなくとも、井上の求める終わらせ方がそこにあるのは間違いない。早い段階でモロニーのパワーやスピードといった戦力値、タイミングや動きのクセを把握できれば、序盤からでも強引に仕掛けていくかもしれない。得意とする距離感も似ていて、かみ合うタイプだろう。

井上はかねて自身の将来について「35歳まで現役でいたい」と語っている。2012年に19歳でプロデビューして8年が経過し、35歳まで残り8年となったいまを「折り返し地点」と表現する。日本最高ボクサーの地位を固めたのがここまでなら、この先はボクシング界で「パウンド・フォー・パウンド」と呼ばれる世界最強の称号への挑戦となる。「ここからがキャリアの第2章ととらえてもいい。その1発目にいい試合をしたい」

当初、トップランク社は20年に2試合を米国で、1試合を日本で行う計画だった。今後は間違いなく米国が主戦場になる。試合を中継するWOWOWのインタビューなどでも「この先、ラスベガスでやっていくことを考えると大事な試合になる」と井上も自覚している。やはり怪物が求めるのはKOのみだろう。

(山口大介)

「バブル」空間での無観客試合
 今回のタイトルマッチは新型コロナ対策で無観客興行となる。会場のカジノホテル「MGMグランド」はマイク・タイソン(米国)、フロイド・メイウェザー(米国)、マニー・パッキャオ(フィリピン)といった王者たちが戦った舞台として有名だが、今回は1万6000人収容のアリーナではなくスタジオタイプのカンファレンスセンターで行われる。
試合が行われるラスベガスのMGMグランド・カンファレンスセンター(Mikey Williams/Top Rank)
 トップランク社は6月に興行を再開してから一貫してこの会場で試合を行い、ウィズ・コロナのイベント経験を積んでいる。巨大なホテル内の施設で宿泊、食事、トレーニング、PCR検査、計量から試合までが全て完結するように運営され、一般人と断絶した「バブル」空間で感染対策に万全を期している。
 既にラスベガスに入っている井上は、27日にMGM入りの予定。その後は毎日のようにPCR検査を受けながら試合に備えることになる。
 試合決定当初、井上が「ちょっと引っかかる」と話していたのが無観客。昨年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦では2万人の大観衆の声援を背に激闘を制しただけに、イメージがわかないようだった。ただ、これまでのトップランク興行の映像などを見るにつれ、違和感も薄れてきた様子。日本出発前には「ライティング(照明演出)も、人の声もある。問題ないと思う」と話した。

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