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芯までほぐし、手と一体 野球グラブの湯もみ型付け

匠と巧

ボールなども使いグラブをもんで型をつけていく=大岡敦撮影

新品のグラブを手にしたとき、野球愛好者の胸は高揚感で満たされる。ただし未使用品は硬く、ほぐそうにも素人の手に余る。そこで頼りになるのが手の延長のように軟らかくし、型付けまでしてくれる職人の存在。野球用品店、センナリスポーツ(大阪市)の技術主任、荻野優二郎さん(36)は湯で軟らかくする「湯もみ型付け」を手掛けている。

バケツに張った約50度の湯に1分ほどグラブを浸した後、木づちでたたいて革を伸ばす。続いて「土手」と呼ばれる最も硬い手首付近や、親指以外の4指の付け根部分を中心に手でもみほぐしていく。

一通り硬さを取り除いた後、ボールを捕る箇所になる「捕球ポケット」をつくる。野球では親指と人さし指の間のウェブ(網)の下部、いわゆる「ウェブ下」で捕るのが一般的とされるが、センナリスポーツで取り扱う久保田運動具店(同市)製ブランド「久保田スラッガー」は手のひらがメインの捕球ポケットだ。

木づちやソフトボール、軟式球と様々なものを挟んで外側から押しつけ、革の凹凸をなくしながら「ボールを捕る部屋をつくる」(荻野さん)。ウェブ下を含め2つの捕球ポケットをつくることで、直ちに送球する必要があるゴロは球を持ち替えやすい手のひらで、ライナーやフライはウェブ下でと、プロと同じ使い分けが可能に。型付けをしたグラブは2~3日間、自然乾燥と機械乾燥を繰り返した後、スチームサウナで再び湿らせ、捕球面にオイルを塗って完成となる。

荻野さんは大阪・上宮高、阪南大を経て独立リーグの愛媛と長崎で左腕投手として活躍した。2008年の現役引退後は、少年野球の元監督で光山英和・楽天バッテリー兼守備戦略コーチや金城龍彦・巨人3軍野手総合コーチを教え子に持つ父、勝彦さんが営むセンナリスポーツで働くことに。

型付けに習熟するため久保田運動具店の福岡支店で6カ月間修業した。師匠は湯もみ型付けの考案者で西武・辻発彦監督ら多くのプロから信頼を集め、厚生労働省の「現代の名工」に選ばれた江頭重利さん。江頭さんの弟子はほかにもいるが、半年の長期にわたり修業したのは「自分くらいではないか」と荻野さん。

長く学んだ分、品質を見極める眼力が養われ、ひもなどの状態を即座に把握できるように。湯につける前にグラブのひもを外し、仮ひもを通す作業は独自に考えついた。グラブと同じ牛革製のひもは湯につけると変色や劣化がしやすい。湯づけ時は仮ひもでしのぎ、最後に元のひもに戻すことで商品全体の価値を落とさないようにしている。

5本の指を自在に操れる仕上がりが評判を呼び、関東や四国からも来店客が訪れる。店で販売する久保田運動具店とハタケヤマ(同市)のグラブ、ミットのほかに、客が持ち込む他社製品も型付けをする。あまねく手掛けるのは「正しい捕り方で早く上手になってほしい」から。親身に寄り添う姿勢で客の心をキャッチしている。

(合六謙二)

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