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「日本一安い」銭湯、番台の笑顔に集う 佐賀・唐津

壁に並ぶ鏡には近所の商店の広告が残る。電話番号の市内局番は1桁のままだ。

唐津焼や呼子のイカで知られる佐賀県唐津市。JR唐津駅から約10分の住宅街に「恵びす湯」はひっそりとあった。外観は民家のよう。小さな看板を見逃せば通り過ぎてしまいそうだ。だが入浴料が日本一安く、佐賀県唯一の銭湯であることで知られ、愛好家が全国から足を運ぶ隠れた人気スポットでもある。

番台に座るのはオーナーの島崎羊子さん(72)。1960年に夫の両親が前のオーナーから引き継ぎ、島崎さんが嫁いだ70年に建て替えた。創業年は不明だが「100年ぐらいの歴史があるはず」。3分10円のマッサージチェア、古びた木箱のロッカー、1本100円のラムネ。内部はレトロな雰囲気に満ちている。

脱衣所に掲げられた料金表示には「入浴料 大人 金二百八拾円 洗髪料 金五十円」とあった。銭湯は公衆浴場法に基づく「一般公衆浴場」で、料金の上限は都道府県が決める。佐賀県は大人の入浴料が全国で最も安く、県内唯一の銭湯である恵びす湯は全国最安値ということになる。

目に留まったのは「洗髪料50円」の存在だ。厚生労働省生活衛生課によると、洗髪料は昔、全国にあった料金区分という。だが時代とともに廃止が進み、残るのは佐賀県のみ。他県は廃止に合わせて入浴料を値上げしたが佐賀は据え置いた。とはいえ、恵びす湯の洗髪料は自己申告制だ。料金を払わずに髪を洗う客がいても島崎さんが注意することはないという。

脱衣所に掲げられた料金表示。セッケン貸料、タオル貸料は今は無料だ。

過去には何度も値上げを考えた。70年代は内風呂がない家やアパートが多く、家族連れでにぎわった。現在の客は高齢者を中心に1日10人ほどになった。

原油高でボイラー重油が高騰した時期もあり、営業時間を短縮したり、定休日を増やしたりして乗り越えてきた。「生活が大変な人もいる。安心して来られる銭湯でありたい」と島崎さんは語る。

今年は新型コロナウイルスの影響で4、5月は休業となり、毎年朝風呂を用意する秋の例大祭「唐津くんち」も曳山巡行が中止となった。それでもこの日、午後5時の開店を迎えると常連客が次々にのれんをくぐり、番台で島崎さんとあいさつを交わした。「できるところまで続けたいですね」。島崎さんは優しく笑った。(高岡憲人)

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