「別役戯曲」新演出で継ぐ ピッコロ劇団
文化の風

関西タイムライン
2020/10/23 2:01
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岩松了はあえて別役作品のイメージを裏切るような仕掛けを加えて演出した=森口ミツル撮影

岩松了はあえて別役作品のイメージを裏切るような仕掛けを加えて演出した=森口ミツル撮影

兵庫県立ピッコロ劇団が3月に亡くなった劇作家、別役実の戯曲「ホクロのある左足」(1998年初演)を2~7日、本拠地ピッコロシアター(兵庫県尼崎市)で上演した。「不条理劇」で知られる別役は2003年から6年間、劇団代表を務め、今作を含む11の書き下ろし作品を残した。後を継いだ現代表の岩松了は今回が別役戯曲の初演出。従来の別役作品のイメージを裏切る演出に挑んだ。

世界観を再構築

 とある町の路上。事故を起こした車を見せ物に商売をしようとするヨシ。妊娠したミヨコを連れて東京への逃亡を企てるミッキー、祖母の香典泥棒を画策するサナエ。

不穏な男女の行動が親や警官も巻き込み、それぞれのすれ違いが笑いとその先の悲劇を生む……。「ここではないどこか」を目指す若者の姿が関西弁の会話で描かれる青春群像劇だ。

今回、岩松はあえて別役作品のイメージから離れる舞台空間を構築した。作品世界を象徴する舞台美術「電信柱一本」は別役不条理劇の代名詞だが、今作では舞台を横断する形で高い土手を思わせる大きなセットを組んだ。

「別役さんの作品じゃないみたいと感じる人もいた方がいいと思って」と岩松。台本にない動きやセリフも加え「自分の脚本を演出するような手触りでできた」と言い、ささいな会話や関係性の肌理(きめ)を重んじる岩松らしさを感じさせた。

■尼崎への思い

 論理や意味では捉えきれない表現を追求した「不条理劇」の作家として知られる別役の戯曲。登場人物は名前を持たず、いつの時代どこの国かわからない世界で日常の不条理を標準語の会話であぶり出す。

そんな強固な世界を持つ別役作品の中にあって「ホクロ」は名前が割り振られた若者が関西弁を話す「リアリズムに接近した珍しい作品。そこに惹(ひ)かれた」。岩松はそう話す。

別役は140を超える戯曲を残したが、うち11を占めるピッコロへの書き下ろし作品ではその作家性を逸脱する要素も多い。「若かった当時の劇団員に合わせ、飛んだり跳ねたりのアクティブな作品がたくさんある」と晩年まで別役と交流した劇団員、平井久美子。

ピッコロとの関わりは、それまで標準語で書いていた別役が方言を使った表現に取り組むきっかけにもなった。平井は「豊かさとわい雑さ、明るい人と社会の暗部。そうした境界線が曖昧な尼崎という土地への興味、愛着もあったのでは」と振り返る。

「林檎(りんご)が美しいのではない。それがそこに在ることが美しい」。別役の直筆色紙が上演会場のロビーに展示されていた。演劇を成立させるのは戯曲に書かれた言葉(りんご)ではない。言葉が舞台空間に放たれることで生まれる関係性(りんごがそこにあること)である。そんな別役の演劇観は日本演劇界に今に続く大きな流れをつくり「人は言葉では真実を語らないし、語れない」と身体をこそ重視する岩松とも重なる。

別役が追求したものは何だったのか。岩松は「つかめない、わからないものを中心に据えていた節がある」とみる。「例えば、震災を描いても、震災全体を捉えることはできない。でも震災の局部を微細に見ることでそこに別のもの、コロナ禍の一部とか、共通したものが見えてくる」

社会が複雑化し、混迷を深める現代。謎や曖昧さに満ちた社会の「わからなさ」を捉える別役作品の役割は高まっているようにみえる。演出を手掛けなかった別役は「書き下ろし作品が劇団への一番のプレゼントと話した」(平井)。多くのプレゼントを贈られ「別役作品を根付かせる責務がある」(岩松)ピッコロ劇団は、その魅力を様々な形で社会に投げかけることだろう。

(佐藤洋輔)

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