/

ユニクロ、店舗数の日中逆転が示す強みとリスク

グロービス経営大学院教授が「CAGE」で解説

ファーストリテイリングの運営するユニクロの店舗数で、中国が国内(直営)を上回ったことが話題になりました。日中逆転が持つ意味やファーストリテイリングのビジネスモデルについて、グロービス経営大学院の嶋田毅教授が「アンゾフのマトリクス」「CAGE」の観点で解説します。

【解説ポイント】
・中国は低コスト生産拠点→巨大市場→IT先進地として活用
・企業のグローバル戦略では地理や政治、文化の影響も考慮を
ビジネススキルをもっと学びたい

【関連記事】ユニクロ店数、日中逆転 EC融合先行、国内の参考に

中国は生産地から消費地へ

まず、中国市場などへのグローバル展開の狙いを考えてみましょう。企業、特に上場企業は株主や投資家から成長を期待されますから、事業や収益の成長が必須となります。従業員の士気を高める効果も大きいです。中でもファーストリテイリングの創業者、柳井正会長兼社長は「世界一」を目標に掲げた経営に磨きをかけ、世界のファッション企業の売上高で「ZARA(ザラ)」を展開するスペインのインディテックス、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)に次ぐ規模に伸ばしてきました。

成長の方向性を考える上で役に立つのがアンゾフの(成長)マトリクスです。海外進出はマトリクスの中で左下の「新市場開拓」に位置付けられます。人口減少に悩む日本市場だけでなく、成長の一環としてグローバル化を図ることはもはや常識です。ファーストリテイリングの海外進出も同様です。

ただ、もう少し海外展開を詳しく見ると、いくつかの目的が混在することが少なくありません。海外展開、グローバル化の狙いを示したのが次の図です。

ファーストリテイリングはよく知られるように、1990年ごろから業態を製造小売り(SPA)に転換しました。それまでは主に国内で仕入れた衣料を販売する小売店だったのが、製品の企画から生産、販売まで一気通貫でするようになったのです。ただし、生産は取引先に外注しました。その取引先として選ばれたのが中国企業でした。これは図でいうと3の「効率性探求」に当たります。当時、中国の人件費は相当低く、「世界の中でも安い賃金の隣国で製品を作り、『ノンエイジ、ユニセックス、ベーシックカジュアル』の方針に基づく大量生産大量販売でさらにコストを低減する」というのが90代の戦略でした。だからこそ、一見安く見える価格でも営業利益率は25%程度あったのです。

その後、中国の位置づけは変わっていきます。徐々に購買力が増していく中で、市場としての魅力度も出てきたのです。図でいう1の「市場探索」の意味合いが生まれました。縫製工場も中国にありましたから、土地勘があり、物流コストなども安く済みます。こうして中国国内の店舗数は増えていきました。

ITなどの実験場にも

そして現在は、2の「資源探索」の要素が強くなっています。つまり、単に有望な市場として見るだけではなく、そこから新しいノウハウを得ようとしているのです。代表的なものが記事にもある電子商取引(EC)融合型のビジネスモデルです。

中国を含む新興国の特徴として、今までのインフラが脆弱であったがゆえに、一足飛びに最新のインフラが整備されることがあり、それと並行して新しいビジネスが生まれやすいことがあります。実際に中国はいまやIT(情報技術)に関して先進国であり、配車アプリのようなサービスも日本のはるか先を行っています。そこでさまざまな実験をして、「IT後進国」の日本にノウハウを還流するのが最近の同社の戦略なのです。

こうして眺めると、(どこまで最初に予測していたかはわかりませんが)、中国という国をうまく活用しながら全社の成長を加速してきたファーストリテイリングの戦略が非常によくわかります。ユニクロの出店は中国以外でもグローバルに進めていますが、現時点で中国(中華圏)以上に成長を果たしている地域はありません。

地理や経済の面にメリット

記事にもあるように、中国事業の重みは今後さらに増していくことが予測されます。しかし、中国事業に比重が移ることは本当に良いことでしょうか?

グローバル戦略を考える際のフレームワークに、CAGEというものがあります。文化的・政治的・地理的・経済的の頭文字をとっています。CAGEはより汎用的なマクロ環境を把握する時に使うPEST(政治・経済・社会・技術)分析の、各国版ともいえます。それぞれについて自国との隔たり(差異)を見たり、想定されるリスクを検討したりするのがフレームワークの典型的な使い方です。

このフレームワークで中国という国を考えてみます。好ましい点はGの地理的な近さ、そしてEの経済の大きさと成長性でしょう。経済の大きさと成長性はベトナムやフィリピン、インドネシアといった人口が多く成長している国全般に当てはまることですが、やはり中国の10億人を超える人口は魅力的です。また、成長率が穏やかになったとはいえ、中流層の消費意欲は旺盛で、ファーストリテイリングにとって好ましい点と言えます。また、Gについては、亜熱帯の南アジアや東南アジア諸国と異なり、気候が比較的日本に近く、体格が日本人に似ているという点で商品開発の負担を減らします。

Cの文化的な側面についても、日本について複雑な思いを持つ中国の人々はいるものの、一般の消費者はおおむね好意的で、日本製品の品質の高さは認められています。だからこそユニクロ製品は日本よりも高級感があるブランドとして受け入れられているのです。

見通しにくい制度面がリスク

最もリスクになりうるのはやはりAの制度的な側面でしょう。中国は良くも悪くも共産党の方針ですべてが変わる国です。ITのように国力や国防にセンシティブに関わる分野では政府の規制が厳しく、米中対立など何かの弾みでビジネス環境が急変してしまうリスクもあります。

生活必需品のアパレルは国策による影響を受けにくいように思われますが、微妙な問題を内包しているとも言われています。一例が新疆ウイグル自治区を巡る問題です。中国国外においては、ウイグル族の強制労働に関わったとみられる商品はボイコットしようという動きもあります。ファーストリテイリングは関連するような原材料を用いていないと回答していますが、大規模なサプライチェーンには捕捉しにくいことが起きる可能性もあるでしょう。気が付かぬところでこうした問題に巻き込まれるリスクはゼロといえないのです。

企業のグローバル戦略においては、地域や製品、事業を幅広く持つことでリスクヘッジができる側面もあります。ファーストリテイリングをこの観点で眺めると、GU(ジーユー)のような第2ブランドも順調ですが、基本的にアパレルの会社です。アパレルは比較的安定した需要が続く分野ではありますが、1つの事業領域にいるという意味ではリスク分散が弱いとも言えます。

リスクの高い国に過度に展開することは、リスクヘッジに貢献しません。本来は欧米のような比較的リスクの低い国に展開できればいいのでしょうが、これらの国々では必然的に後発企業となるため、地場の強い競合アパレル企業と戦わなくてはなりません。自動車などと異なり、必ずしも日本企業の強みが通用しません。ファーストリテイリングは「セオリー」のようなブランドも特に米国において展開していますが、売上比率は小さいものでしかありません。

東南アジアや南アジアに可能性

ではこうした状況の中、ファーストリテイリングはどうすればいいのでしょうか?

1つの王道的なやり方は、経済成長著しい東南アジアや南アジアの市場をよりスピーディーに開拓することです。こうした国々は親日国も多く、現地生産にしたときもコスト面を抑えられるメリットがあります。一方で政情が不安定な国もあり、気候や嗜好の違いから現地に根差した製品開発をしないと受け入れられにくい面もあります。ファーストリテイリングもそこは理解して、十数年前から市場開拓や現地に根差した製品開発を進めていますが、まだまだ十分ではないでしょう。ベトナムやインドのようにそもそも展開できていない地域もあります。東南アジアや南アジアに進出することは、単に成長やリスクヘッジのみならず、日本市場への新しいノウハウ(より高温多湿向けの製品開発など)の提供にも貢献するはずです。

ファーストリテイリングにおける中国事業の適正な規模がどの程度なのかは微妙ですが、やはり中期にわたって高すぎるのはややリスキーです。今後は、いかに地域バランスの良いグローバル展開ができるか注目されます。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「CAGE」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/847fc650(グロービス学び放題のサイトに飛びます)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン