量子革命の先頭走る75社 計算機や通信・センサー進化 - 日本経済新聞
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量子革命の先頭走る75社 計算機や通信・センサー進化

量子力学の応用が様々なテクノロジー分野に広がっている。米グーグルや米IBMなど大手企業も熱心に取り組んでいる量子コンピューターに加えて、最近は通信やサイバーセキュリティー、センサーなどでも量子理論を応用する研究が進んでいる。革命の先頭を走るのが、量子技術の商用化に取り組むスタートアップだ。CBインサイツが自社のデータに基づき約75社に注目した。

専門家は何十年も前から、量子技術は経済や安全保障、医療などに変革をもたらすと予測してきた。本格的な量子革命にはまだ至っていないが、この分野の勢いは増している。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米グーグルや米IBMなどのテクノロジー大手は量子コンピューティングの壁を打ち破ろうと巨額の資金を投じ、米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムはクラウドで量子コンピューターのプログラミングツールの提供を始めている。一方、米政府は量子インターネットの開発計画を策定している。

こうした活発な活動を支えるのが、量子技術の商用化に取り組むスタートアップだ。

例えば、米イオンQ(IonQ)などは量子計算を実現するハードウエアの開発に取り組み、英ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング(Cambridge Quantum Computing)は従来のシステムでは不可能な量子ソフトウエアの開発に力を入れている。

各社は計算だけでなく、通信(例:カナダのクオントロピ、Quantropi)、サイバーセキュリティー(英ポストクオンタム、Post-Quantum)、センサー(スイスのQナミ、Qnami)など新たな分野にも乗り出している。

投資家も注目している。2019年の量子技術スタートアップへの投資件数は40件、投資額は4億ドル以上といずれも過去最高に達した。

今回のリポートではCBインサイツのデータに基づき、量子技術を利用して計算や創薬、財務モデルの作成、データの暗号化などに変革をもたらそうとしている未上場企業約75社に注目する。

この市場マップでは主な事業に応じて未上場企業を区分した。この分野の企業を網羅するのが目的ではなく、カテゴリーは一部重複している場合もある。

カテゴリーの内訳

量子計算のハードウエア:このカテゴリーの企業は量子コンピューターの開発に取り組んでいる。従来のコンピューターが「0」と「1」の組み合わせで計算するのに対し、量子コンピューターは「0であり、かつ1でもある」という状態(量子ビット)を利用して計算する。これにより新たな計算方法が可能になり、既存のコンピューターよりもはるかに強力なコンピューターが実現する。

このカテゴリーには米サイクオンタム(PsiQuantum、調達額2億7900万ドル)、カナダのDウエーブ(D-Wave、2億3900万ドル)、米リゲッティ(Rigetti、1億9800万ドル)など資金調達額が最も多い量子技術スタートアップが名を連ねている。

量子計算のソフトウエア:このカテゴリーの企業は量子コンピューター用のソフトウエアを開発している。

例えば、米ザパタ・コンピューティング(Zapata)とカナダの1Qビット(1QBit)は企業と提携し、特定のビジネスニーズに応じた量子ソフトウエアを開発している。さらに、創薬(カナダのプロテインキュア、ProteinQure)や金融(カナダのアダプティブ・ファイナンス・テクノロジーズ、Adaptive Finance Technologies)、製造業(カナダのソリッドステートAI、Solid State AI)など量子計算を各業界の用途に適用している企業も含まれる。

量子通信:この分野の企業は安全なメッセージを送信するために量子技術を利用している。主な応用先は相互作用による量子状態の変化を利用して暗号鍵を伝送する「量子鍵配送(QKD)」で、これにより誰かがメッセージを傍受したかどうかを把握できる。

米スペクトラル(SpeQtral)やカナダのQEYnetなどQKDを手掛ける一部の企業は、衛星を使ってこの技術を活用できる距離を延ばそうとしている。米Qunnectなどは量子通信ネットワークのインフラ部品の開発に取り組んでいる。

乱数生成器:このカテゴリーのスタートアップは量子理論に基づき、アルゴリズムで推測できない乱数を生成する。これによりセキュリティーを高めることができる。

英クリプトクオンティーク(Crypto Quantique)は量子理論に基づく乱数性を利用し、IoTサイバーセキュリティープラットフォームの暗号鍵を生成する。一方、スペインのキューサイド(Quside)などは他のシステムに組み込めるモジュール化した乱数生成器を販売している。

ポスト量子暗号:現在送られている暗号化されたメッセージの多くは一種の数学の問題に基づいており、将来量子コンピューターによって簡単に解読されるとみられている。この脅威に対処するために、代わりの暗号形態の開発に取り組んでいるのが「ポスト量子暗号」企業だ。

例えば、カナダのアイサラ(Isara)は量子コンピューターでも破れない「耐量子」セキュリティーインフラへの企業の移行を支援する。米Cyphは遠隔医療などでの利用を対象にしたビデオ通話やデータ保存の耐量子プラットフォームを提供している。

量子センサー:量子ビットなど量子の性質は周囲の環境によってすぐに変わる。これは量子コンピューターにとっては難題だが、より優れたセンサーを開発する上ではメリットになる。

ドイツのエヌビジョン(NVision)や米QDTIなどは磁気共鳴画像装置(MRI)のスキャナーなど医療用画像機器の精度を高めるため、量子技術を使って磁場を見つけようとしている。

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