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レース前の塗り絵も仕事 馬主が決める騎手の勝負服

出張の際には移動中の新幹線車内で「塗り絵」作業にいそしむ

レース実況の前の欠かせない作業に、レースごとの服色表作りがある。アナウンサーが俗に「塗り絵」と呼ぶ作業だ。レースで騎手が着る上着、いわゆる勝負服の色を塗って、実況する前に頭にたたき込み、実況の際は時折この表に目を落として確認することになる。

実況前に欠かせない服色表づくり

勝負服のデザイン、配色は中央競馬のレースなら、レーシングプログラムと呼ばれる冊子の出走表(出走馬を番号順に並べ、様々な情報を記したもの)に記載されている。かつて、「塗り絵」はレース当日朝に配布される出走表で確認し、レース直前に行うしかなかったため、実況アナウンサーの朝はとても慌ただしかった。30年ほど前からレース前日に放送関係者などに服色表がファクスなどで配布されるようになり、前日からの作業、予習が可能になった。

筆者の場合、金曜日は色々と仕事が多いので、土曜の実況を担当する場合、塗り絵作業は夜になる。出張する際は移動中の車内、機内で作業を行っている。新幹線なら、移動距離が最も短い福島までの約1時間半でも、作業は終わる。飛行機の場合は搭乗前にラウンジなどで準備作業を進めておけば、函館への短い飛行時間でも作業は終了。移動中に作業をしていると、隣に座った方に興味を持っていただき新しい人間関係ができたり、それまで話したことのなかった騎手や厩舎関係者との会話のきっかけになったりと、たまに楽しいことも起こる。

色とデザインに決まり事あり

中央競馬では、騎手の服色(デザイン)は馬主が登録するとされている。日本中央競馬会競馬施行規程によると、馬主が服色として登録できる色の種類は、赤、桃、黄、緑、青、水、紫、薄紫、茶、えび茶、ねずみ、黒、白の13色。デザインは、輪、一文字(胴と袖に共通する一本輪)、帯(胴の下の部分の太い輪)、山形(単純な山形、ひし形の山形、のこぎりの歯状の輪や帯)、たすき、縦じま、格子じま、元ろく、ダイヤモンド、うろこ、井げたかすり、玉あられ、星散らし、蛇の目または銭形ちらしの14種類と、そのバリエーションが認められている(無地も可)。大きさも、輪は幅6センチ以上、たすきは幅9センチ以上、星は直径9センチ以上などの決まりがある。

レーシングプログラムや出走表には服色が、全体→細部の順に記載されている。基本となる服地に細部の模様を貼り付けていくイメージだ。色塗り作業の場合、貼り付け(上塗り)は油絵の具などでは可能だが、我々の商売道具である色鉛筆では難しい。そこで服色は後ろ(細部)から読んで塗って行く形になる。菊花賞の大本命馬コントレイルは、「水色、赤十字たすき、赤袖水色三本輪」。袖を3本分水色に染め、袖の残りを赤に。次に胴の部分に赤のたすきをクロスさせて、残りの部分を水色に染める。

コントレイルの勝負服は「水色、赤十字たすき、赤袖水色三本輪」だ=JRA提供

馬主によって服色が決まっているのは、ほぼ世界共通。海外の主要な競馬場に置いてある出走表には服色(英語colors、仏語couleurs)が記載されている。全体→細部という書き方も同じ。数年前まで日本で種牡馬として暮らしていた米国の名馬シルバーチャームの現役時代の服色は「Green, Yellow Hoops, Yellow Sleeves, Yellow Cap」(緑、黄色の数本の輪、黄袖、黄色の帽子)。フランスのレースを走った時のエルコンドルパサーの服色は「Jaune ceinture bleue m rouges t rouge et bleu」。mは袖(manches)、tは帽子(toques)の略なので(黄、青ベルト、赤袖、帽子は赤と青)ということになる。色やデザインを翻訳するために辞書を持って行くなど、ネットが発達する前の海外での実況はそれなりに大変だった。前日に服色を知る方法は、主催者から教えてもらうか、まれにプレスルームに張り出されるタイプ印刷の紙からメモするしかなかった。

海外や地方にはユニークなデザインも

海外にはユニークなデザインの勝負服がある。印象に残るのは1984年の第4回ジャパンカップに来日したオーストラリアの名馬ストロベリーロード。初めてコンビを組んだ英国の伝説的騎手レスター・ピゴット(英ダービー9勝など)が着ていた緑地の服には、金色のボクシングするカンガルーが描かれていた。米国ではこうしたイラストなどのほか、文字(アルファベット)を描いたものも多い。

地方競馬は基本的には騎手によって服色が決まっている。デザインの基準はほぼ中央と同じ。騎乗騎手がわかった時点で塗り絵作業を始める。1990年ごろまで地方競馬の一部では、枠番によって騎手の服が決まっていた。大ベテランの某騎手によると、騎手によって服色が決まることになった時は中央の馬主の服色などを参考に、騎手同士で色々と意見を出し合って決めたという。

1982年のレディースカップのプログラム写真(上段中央が土屋さん)。海外の騎手には鮮やかでユニークな勝負服が多い(土屋薫さん提供)

81年に国内で初めて、国内外の女性騎手が覇を競う「レディースカップ」が米国から5人の騎手を招いて岩手の水沢競馬場などで行われた(大会は84年まで続いた)。第1回から参加した土屋薫さん(後に北米でも活躍)は「外国騎手の服色がどう決まったのかは知らないが、すてきなデザインだな」と思ったそうだ。当時の写真を見ると、たすきに複数の色を使うなど日本の勝負服にはないとてもカラフルなデザインだったことがわかる。

地方競馬でも北海道・道営競馬では2016年から、特定の競走で馬主が登録した服を騎手が着用できるようになった。その後、地方競馬の馬主服は限定的ながら、徐々に各地に広がっている。風水で有名な小林祥晃さんは、中央では「黄、赤一本輪、黄袖」でおなじみだが、道営での服色は「黄、赤玉あられ」。「玉あられ」は水玉模様を全体に数個ちりばめたデザインが大半だが、小林さんのそれは米国で言う「disk」または「ball」に近い大きな円盤状。地元の子供たちには「おいしいオムライスみたい」と好評だそうだ。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 佐藤泉)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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