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実りと発見のオランダ遠征 サッカー代表の存在感示す

新型コロナウイルスの脅威がいまだ衰えない中で、サッカー日本代表が10月9日と13日に、オランダのユトレヒトで強化試合を行った。今回は代表史上初めて欧州組だけでチームを編成、強化と感染予防を両立させ、代表の存在感も久しぶりにアピールできた。その試みを高く評価したいと思う。

日本への長旅も時差ボケもない欧州での試合は、日本で大勢のサポーターの前で行う試合とは異質の緊張感があった。9日のカメルーン戦(0-0の引き分け)、13日のコートジボワール戦(1-0の勝ち)とも、日本と対戦相手のコンディションが良く、試合の強度は高かった。おかげでリモートマッチ(無観客試合)であったことを除くと、ニュートラルな場所でのワールドカップ(W杯)の一戦のような緊張感があったように思う。

海外組を交えての日本代表の活動は昨年11月以来だった。約1年のブランクがあったわけだから、10日間ほどのキャンプの間にリアルで直接的なコミュニケーションを本当はたっぷり取りたかったはずだ。しかし、コロナ禍ではそれもままならず、3密を回避するためにテーブルを囲んで食事をすることもできなかった。

センセーショナルといえた守備の安定

そんな条件下で、いかに効率的に練習して短期間にチームを熟成させるか。森保一監督をはじめスタッフは頭を悩ませたことだろう。

成果は十分にあったと思う。中でも2試合を無失点で終えた守備の安定感は特筆ものだった。特にCBの吉田麻也(サンプドリア)と冨安健洋(ボローニャ)、SBの酒井宏樹(マルセイユ)の鉄壁ぶりはセンセーショナルと表現したくなるほど。試合の強度が高かったからこそ、その評価は掛け値無しのものになった。

2試合とも無失点。吉田、冨安、酒井宏らによる守備の安定感は特筆ものだった=共同

2戦目で使われたGKのシュミット・ダニエル(シントトロイデン)も判断ミスがなかった。197センチの長身を生かしたキャッチングが相手のクロスを脅威と感じさせず、自分が起点になって味方につなぐフィードもまずまず。

7人招集された東京五輪候補では中山雄太(ズウォレ)が2試合にフル出場した。中山は守備のユーティリティー性が武器で、来年の東京五輪で軸になるべき一人。複数のシステム、複数のポジションをこなせる選手として先々キーマンになると読み、同じく東京五輪の支柱となる冨安とここで一緒に使って経験を積ませ、さりげなく、未来を見詰めた投資をしているように感じた。

MFではシュツットガルトでレギュラーを張る遠藤航の成長を感じた。同じくボランチの柴崎岳(レガネス)も2試合目で本来の力を発揮した。柴崎を2試合ともフル出場させたのは彼への信頼とともに「ここでコンディションを上げて自チームでレギュラーを確保せよ」という監督からのメッセージだったのではないか。

ゴール近辺へ侵入する回数を増やしたい

守備に比べて攻撃は課題が浮き彫りになった。それでもMF鎌田大地(アイントラハト・フランクフルト)はもう少し代表戦に慣れたら、ドイツで鍛えられた駆け引きをもっと生かせそうだった。欧州最高峰のリバプールでもまれている南野拓実はプレーのスピードが他の選手とひと味違う感じ。伊東純也(ゲンク)もプレーに緩急をつけられるようになった。守備面もチームで相当注文されていることが習慣化し、プレスにいくタイミング、速さが増していた。

個々の能力は見るべきものがあるだけに、当面の課題はそれらを連動させてペナルティーエリアに侵入する回数を増やすことだ。限られた練習時間の中で一番難しいところで、それができればゴールチャンスもおのずと増えるだろう。FKでもCKでもスルーパスでもドリブルでも何でもいい。とにかく、どれくらいペナルティーエリア内に侵入できるかをもっと意識する必要がある。

コートジボワール戦で相手のペナルティーエリア内に入った回数は鎌田が一番多かった。アフリカ勢のコンタクトに苦労した期待の久保建英(ビリャレアル)もペナルティーエリア内でボールを持つと、いろいろ面白いことができていた。

1戦目のカメルーン戦は4バックを後半から3バックに変えて流れを引き寄せた。両サイドにウイングバックを置くこのシステム、攻撃の際に裏を狙う、バイタルエリアを狙う、それでも無理な時はサイドにボールを運んで前向きな起点をつくれる、というのが利点になる。

カメルーンやコートジボワールのような圧の強い相手に簡単にボールを後ろに下げると、余計にカサにかかってプレスをかけられてピンチを招く。いいウイングバックがいるとサイドで相手に背中を向けず、前向き、悪くても横向きでボールを持って起点になってくれる。カメルーン戦の伊東はその役割を見事に果たした。

相手エンドでの課題は確かに出たが、力関係からして日本が欧州でカメルーンやコートジボワールと戦って、やすやすとゴールができると考える方が非常識というものだろう。

今回は自陣に攻め込んで来た相手をしっかり跳ね返せたことで、まずは良しとしたい。吉田のように後ろから的確なコーチングができるリーダーがいて、守備の組織化はかなりできていた。連続して「やられた」という感じはなく、室屋成(ハノーバー)らSBの中に絞る動きも利き、単調なクロスに破られる心配もなかった。

欧州組、すぐ通常練習に戻れるメリット

オランダでの強化試合は、ある意味でコロナ禍の副産物として実現したものだ。日本国内で代表戦を行おうとしたら自主待機期間が発生する海外組を招集できない。国内組を欧州に連れていけば、今度は彼らが日本に戻った後で待機を強いられる。それならば、欧州組だけで欧州で戦った方が得るものは大きい。そういう決断を元に実行に移された。

いろいろな面でメリットと発見があった今回、欧州組は試合後も恩恵を感じたことだろう。あっという間に自チームに戻って通常の練習に参加できたことで。

代表戦で日欧を往復する選手は、代表と所属チーム、どちらに合流しても長旅と時差ボケで最初の練習は調整主体になる。そんな彼らにすれば、日本国内の代表戦に参加するより、今回は2日間ほど早く自チームに合流できた感じではないか。

欧州を活動拠点とする南米の選手は同時期、W杯カタール大会予選を戦うために自国と欧州を往復していた。今回に限れば、日本の欧州組は所属チームでレギュラー争いをする南米の欧州組より、良いコンディションでチームに合流できたことだろう。

余儀なく実現された形ではあるが、欧州組の意見を丁寧に聞き取って今回の代表戦を精査すれば、日本代表の強化のための新たな戦略が見えてくる気がする。

コロナ禍は依然、心配の種である。欧州では再び感染が拡大しているが、日本代表は11月にオーストリアでメキシコと対戦することが決まっている。ユトレヒトで日本サッカー協会は、欧州サッカー連盟(UEFA)が定めるプロトコルにさらに付け足す形で感染防止に細心の注意を払い、無事に2連戦を終わらせた。過信は禁物だが、10月に踏み出した再起動の一歩は、今後の日本代表の活動に大きな手応えをもたらしたように思う。

(サッカー解説者)

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