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ラグビー日本、収入100億円可能 大河正明氏が提言

2020/10/21 3:00
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昨年のラグビーW杯日本大会のチケット平均単価は2万円を超えた=共同

昨年のラグビーW杯日本大会のチケット平均単価は2万円を超えた=共同

ラグビー日本代表は100億円のビジネスになる――。こう分析するのはバスケットボールBリーグの前チェアマンで、サッカーJリーグの元常務理事でもある大河正明氏である。7月にびわこ成蹊スポーツ大副学長と大阪成蹊大スポーツイノベーション研究所所長に転じた大河氏に、ラグビービジネス発展の道筋を聞いた。

「ラグビーの代表戦はとにかくチケットの平均単価が高い」と大河氏は強調する。昨年のワールドカップ(W杯)日本大会はチケットの平均単価が2万1000円だった。2018年に東京・味の素スタジアムで行われた日本代表のニュージーランド(NZ)戦も観客約4万4000人の平均単価が約1万2000円に達した。「サッカー日本代表でも平均単価は推定4000円程度にとどまる。Bリーグのチャンピオンシップ決勝の単価は約9000円で日本のスポーツ界ではかなり高いが、ラグビーはさらに上回る」

NZ戦のようなカードを毎試合組むのは難しいが、「代表戦を年に5試合国内で開催し、チケットの平均単価を1万円、平均入場者数4万人にできれば、年間20億円の入場料収入を稼ぐことは十分に可能だ」。

びわこ成蹊スポーツ大副学長・大阪成蹊大スポーツイノベーション研究所所長の大河正明氏

びわこ成蹊スポーツ大副学長・大阪成蹊大スポーツイノベーション研究所所長の大河正明氏

大河氏はこの数字をさらに上げられると説く。そのカギが東京・神宮外苑地区に26年にもできる新秩父宮ラグビー場。収容人数は2万数千人だが全面屋根付き、人工芝のアリーナ型という特長を持つことになりそう。天候に左右されずに快適に観戦できるだけで客単価の上昇につながるが「(顧客単価が高い法人向けなどの)VIP用の席をどれだけつくれるかが重要」と指摘する。

■新秩父宮、1000席のVIP席可能

VIP席の数は競技場によってまちまち。収容5万人以上の大箱でもその比率が1%に満たないケースがある。逆にBリーグは26年から1部リーグのクラブに対し、VIP席の席数をアリーナの収容人数の5%以上に引き上げることを義務付ける。

その例を引いて「2万数千人収容の新秩父宮だと1000席程度のVIP席をつくることは可能」と大河氏。さらに、ラグビーの試合だけでなく全てのイベントを観覧できる年間利用権として販売すれば、売り上げは飛躍的に高まると説明する。「NBA(米プロバスケットボール)のアリーナのVIPルームは年間数千万円で販売されることもある。新秩父宮も10人が入れる部屋を1室1000万円程度で売ることができるだろう」。1000席分の計100室を売れば年10億円となる計算だ。

新秩父宮のもう一つの強みがアクセス。「東京のど真ん中のこのロケーションなら誰もが使いたがる。企業にVIPルームを売るときにも非常に有利だし、音楽などのコンサートを多く開催し、女子サッカーなど他競技にも貸すことで大きな収益を生める。(大河氏が日本協会の副会長を務めていた)バスケットもあの一帯に代表の拠点となるナショナルアリーナがほしいと思っていたくらい」。これほど至便な場所に本拠地を持つ競技団体は他になく、大きな武器になると強調する。

4日にラグビーの関東大学リーグ対抗戦の一戦が行われた秩父宮ラグビー場。26年にもできる新秩父宮ラグビー場は全面屋根付き、人工芝のアリーナ型になりそうだ=共同

4日にラグビーの関東大学リーグ対抗戦の一戦が行われた秩父宮ラグビー場。26年にもできる新秩父宮ラグビー場は全面屋根付き、人工芝のアリーナ型になりそうだ=共同

アリーナ型のもう一つのメリットが、スポンサー企業との連携のしやすさ。「雨や風に左右されないことでIT(情報技術)の実証実験などもやりやすい」。Bリーグ川崎もNTTドコモと提携し、5G(次世代通信規格)を生かしたアリーナでのエンタメ性強化などに取り組む。

「新秩父宮なら実証実験の権利を組み込んでスポンサーを募れば、通信事業者などと年20億~30億円で契約できる。他のスポンサーと合わせれば、代表の協賛金収入を40億~50億円に伸ばせる可能性がある」

そのための前提がある。「自由に新秩父宮を使えるよう、運営権は絶対に日本ラグビー協会が持つべきだ。民間会社と特別目的会社(SPC)をつくるなどの方法が考えられる」。新秩父宮の建設は日本スポーツ振興センターが担うが運営は民間への委託が検討されている。

■チームは親会社から独立した法人に

「代表の『聖地』を定めることもプラスになる」と大河氏。NZ戦のようなドル箱の場合は収容6万人の新国立競技場を使った方が稼げるかもしれないが、それ以外の試合は新秩父宮にある程度試合を集中させることでブランド価値や企業への訴求力を高められるとみる。

入場料収入を20億円以上、スポンサー収入を40億~50億円に増やせれば、「放映権や発展の余地が大きいグッズ販売、ファンクラブなどの収入と合わせ、ラグビー日本代表は100億円のビジネスにできる可能性を秘めている」。現在、日本ラグビー協会の年間の事業収益30億~55億円の過半が代表関連の収入とみられる。これを2倍以上に増やせるポテンシャルがあることになる。その資金はさらなる代表強化や普及活動などの原資になっていく。

代表以外でもラグビー界は1年後に岐路を迎える。現在のトップリーグを発展解消する形で22年1月に新リーグが誕生。プロリーグではなく、選手のプロ契約は求めない。チームの独立法人化も義務付けないが、大河氏はこの点に危険性が潜むという。「チームは親会社から独立した法人にした方がいい。そうでないと収支の責任がはっきりしない。人間は追い込まれないと必死にならない。チームを独立採算にしないと、スポーツマネジメントのプロがラグビー界から生まれないかもしれない」

「チームの法人化はリーグ全体でやらないと効果が薄い」とも指摘する。Bリーグの前身のナショナルバスケットボールリーグや、卓球のTリーグは実業団と法人化したチームが混在する形だが「どうしても中途半端になってうまくいかない」。

卓球のTリーグは実業団と法人化したチームが混在する=Tリーグ提供・共同

卓球のTリーグは実業団と法人化したチームが混在する=Tリーグ提供・共同

法人化はチームの消滅を防ぐ意味でも重要になる。「今の企業の経営層である50歳代半ば~60歳代は、新日鉄釜石ラグビー部の日本選手権7連覇や(日本代表のスターだった)平尾誠二さんをよく知っていて、ラグビーを愛する人がいる。その人たちがいなくなったときがピンチ」。休廃部になりそうなときや新型コロナウイルスのような大きな危機のとき、「(チームを別の企業に売るなどの)エグジットをするために法人化しておくことが必要」

1月に大阪成蹊大で社会人向けの公開講座「スポーツイノベーションアカデミー」を開講。「JリーグとBリーグで100以上のクラブを回ってきた経験も踏まえ、ラグビーも含めたリーグビジネスのあり方を伝える」と話す大河氏は、リーグの根本構造にも言及する。

■昇降格ない閉鎖型で投資呼び込む

ラグビーの新リーグは3部構成で昇降格を認める。リーグ間のチームの入れ替えがあるため「開放型」と呼ばれる方式。JリーグやBリーグもこの形を取る。全国にクラブをつくって競技を普及させる効果はあるが、チームの戦力を均衡させて試合の魅力を高めたり、1部リーグの収益を伸ばしたりするうえでは不利が多い。

「これから日本でつくるリーグは(昇降格のない)閉鎖型にすべきだ。開放型だとチームが下のリーグに落ちるリスクがあるから投資家もお金を出しにくい。ラグビーも1部リーグには条件を満たすチームしか入れず、降格をなくした方がいいのではないか」。同様に閉鎖型を取る米大リーグやNBAなどでは買収後にチームの資産価値を上げやすいため、多くの投資家が出資している。

「選手数が多い一方で試合が少ないラグビーはビジネス的に難しさもある。選手全員をプロ契約にすることはハードルが高いかもしれない」とも話す。「クラブの収入をサポートするため、協会が代表の収益の一定割合をチームに分配してもいい。例えば、1部リーグの10チームに5億円ずつ分配するなどの形があり得る」。代表の収益力を生かしてクラブを資金的に支援する形はNZなど一部のラグビー強豪国が実際に採用している。日本のスポーツ界では異例の方策だが、ラグビー界の強みと弱みを考えれば検討の価値があると大河氏は提言した。

(谷口誠)

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