ヤクルトを飲めなかったダノン、甘くなかった20年

日経ビジネス
コラム(ビジネス)
2020/10/22 2:00
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ダノンはヤクルト本社が持つ乳酸菌飲料の技術にも魅力を感じていた

ダノンはヤクルト本社が持つ乳酸菌飲料の技術にも魅力を感じていた

日経ビジネス電子版

仏食品大手のダノンが、6.61%保有していたヤクルト本社の株式をすべて売却した。2000年にダノンがヤクルト株を5%取得して始まった資本関係は、一時期ダノンが事実上の買収を画策し、ヤクルト側が抵抗するなど、決して良好なものとは言えなかった。ヤクルトの粘り強い抵抗戦が功を奏し、20年ぶりに完全に自由の身となった。

「当社とダノンは、今後も友好的な関係を維持し、プロバイオティクスの普及にともに取り組んでまいります」。10月7日、ヤクルトがダノンによる株式の完全売却を発表したリリースにはこう書かれているが、これは建前にすぎない。「この関係が友好的だと思ったことなど一度もない」(ヤクルト関係者)からだ。

ダノンによるヤクルト株取得が最初に明らかになったのは2000年春のこと。株式市場で5%の株をひそかに買い集めたダノンは、ヤクルトに提携協議を申し入れた。両社は原材料調達や販売、研究開発などを共同でできないか交渉を始めたが、協議はわずか3カ月あまりで決裂した。

その後、3年近く沈黙を保っていたダノンが動いたのが2003年春。いきなりヤクルト株を19%まで買い増し筆頭株主になったと発表した。提携協議の決裂以降、ダノンから何の接触もなかったヤクルトにとっては寝耳に水だった。

ダノンの狙いは明らかだった。スイスの食品大手、ネスレをライバル視していたダノンは、海外での売り上げを伸ばしつつあったアジアのヤクルトをグループに取り込むことで、ネスレに対抗する共同戦線を張ろうとしたのだ。ヤクルトが持つ「ヤクルト」など乳酸菌飲料の技術力も魅力的だった。当時のダノンは乳製品、菓子、「エビアン」に代表されるミネラルウオーターなどの事業を手掛けていたが、菓子部門の苦戦で乳製品と飲料に力を入れていたからだ。

改めて提携交渉に入った両社は04年、海外ビジネスでの提携を発表した。同時にダノンはそこから5年間出資比率を20%強から引き上げないという協定も結んだ。そしてヤクルトはダノンから取締役も受け入れた。ヤクルトからすると「仕方なく」(OB)結んだ提携だった。

その後、出資比率を20%強から引き上げない期間は09年から12年までに3年延長された。そしてその期限切れが迫った12年、ダノンは早速、株の買い増しをヤクルトに提案した。しかも拒否権がある35%程度を求めていた。

■「あのダノンを…」という評価に

その後は押したり引いたりの繰り返しだ。独立経営を望むヤクルトが猛反発すると、ダノンは出資比率の引き上げを3割弱と提案をトーンダウンさせた。それでもヤクルトは「経営への介入は望まない」(根岸孝成社長)と抵抗。するとダノンは敵対的TOB(株式公開買い付け)という強硬手段をちらつかせた。

ホクレン農業協同組合連合会がヤクルト株を買い増すなど、買収防衛のアシストとも受け取れる動きもあり、「TOBをかけられるものならやってみろ」(当時のヤクルト首脳)と両社の関係は悪化する一方だった。1年余り続いた交渉でも溝は埋まらず、両社はとうとう13年に提携を解消した。ダノンはその後も株を手放さず買い増さず、不気味な存在であり続けた。

先に転機が訪れたのはダノンの方だった。16年に米有機食品メーカーのホワイトウエーブ・フーズを1兆円以上で買収すると発表、巨額の借金に苦しみ始めた。そこに米アクティビスト(物言う株主)ファンド、コーベックス・マネジメントが株主として登場し、ダノンに借金返済のため事実上塩漬けとなっていたヤクルト株を売れと圧力をかけたのだ。

ダノンがヤクルトを支配することを諦め、15%程度の株を売ることを決めると、ヤクルトに追い風が吹く。ダノンは当初、複数の事業会社や投資ファンドにヤクルト株の買い取りを持ち掛けた。だが「あのダノンが15年以上かけても言うことを聞かせられなかったのだから買いたくない、と引き受け手が全くいなかった」(交渉に携わった投資銀行関係者)。国内ではキリンホールディングス(HD)などが話を持ち掛けられたが、いずれも応じていない。

結局、ダノンは18年に証券会社を通じて市場に株を放出する売り出しを選択せざるを得なかった。仮に第三者にまとめて15%程度の株が渡っていたら、第三者がダノンに代わる新たな筆頭株主としてヤクルト買収を狙ったかもしれない。ダノンにひるむことなく徹底抗戦し続けたことが、最終局面で吉と出た格好だ。

最近ではコロワイドが敵対的TOBを成功させて大戸屋ホールディングス(HD)を子会社にすることになったが、そもそもこれも大戸屋HDの経営陣と仲たがいした創業家の株式19%がコロワイドという第三者に渡ったことから始まった買収案件。ダノンの持つヤクルト株は分散し、市場に溶け出たことで、こうした懸念はなくなった。

10月7日、ダノンは残る株式もすべて手放したとヤクルトに連絡した。今後、ダノンには取締役候補の推薦権もなくなる。20年かけてもヤクルトを飲み込めなかったダノン。長期にわたって一度も甘さを見せなかったヤクルトの粘り勝ちとしか言いようがない。

(日経ビジネス 奥貴史)

[日経ビジネス電子版2020年10月19日の記事を再構成]

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