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F1撤退のホンダ 来季の集大成へ「現場」疾走

アイフェルGPで優勝し、表彰台で喜ぶメルセデスのハミルトン(右から2人目)、2位のレッドブル・ホンダのフェルスタッペン(左端)ら=ロイター

ホンダが2021年限りでのF1参戦終了を発表した10月2日の翌週、本来であれば日本グランプリ(GP)が開催されるはずだった。代わりに行われたのは、圧倒的な速さを今季も見せているメルセデスの地元ドイツのニュルブルクリンクを舞台にしたアイフェルGP。このレースでルイス・ハミルトン(英国)は「皇帝」と呼ばれたミヒャエル・シュマッハー(ドイツ)に並ぶ最多勝利記録の通算91勝を達成した。

レース後のインタビューで、ハミルトンがシューマッハーの息子で現在はF2(F1の1つ下のカテゴリー)で活躍するミックからシューマッハーが使っていたヘルメットを贈られ、「彼は僕のアイドルだった」と感無量の面持ちで答えたのが印象的だった。

一方でレッドブルのマックス・フェルスタッペン(オランダ)が2位に入り、ホンダ勢として10戦連続の表彰台となった。アルファタウリのピエール・ガスリー(フランス)も6位入賞。フェルスタッペンは最終周では互いが最速ラップを狙う展開の中でハミルトンを上回るタイムをたたき出してボーナスの1ポイントを獲得した。予選でもポールポジション(PP)のメルセデス、バルテリ・ボッタス(フィンランド)に対し、今季最小の0.293秒差の3位という結果を残し、フェルスタッペンは「一歩前進できた」と手応えを口にした。

アイフェルGPで走行するフェルスタッペン=AP

参戦終了を発表した直後のレース。メルセデスに迫る速さを示しての2位という結果に、ふだんは淡々とレースを振り返るホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは「ボロボロになってしまうような結果だと、いろんな話も出てきてしまいます」と安堵の言葉を口にし、その上で「一戦一戦、今までとまったく変わらず、きちんとやっていくということは変わりません」と続けた。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で開幕が7月までずれ込み、今季は変則的な過密日程となっている。その異例のシーズンでも6年連続でコンストラクターズ(製造者)部門とドライバーズ部門の2冠を制しているメルセデスが圧倒的な速さを見せている。ここまでの11戦で9勝(ハミルトン7勝、ボッタス2勝)をあげ、予選ではすべてのレースでPPを獲得。製造者部門ではアイフェルGP終了時点での獲得ポイントは391点と2位レッドブルを180点も引き離している。

必死にメルセデス追うフェルスタッペン

また今季は長く3強の一角を占めていたフェラーリの不調が顕著だ。シャルル・ルクレール(モナコ)が開幕戦のオーストリアGPと英国GPで表彰台に上がったものの、スピード不足で3次予選に進めないこともしばしば。一方で開幕戦でマクラーレン・ルノーのランド・ノリス(英国)が3位に入るなど、レーシングポイント・メルセデス、ルノー、アルファタウリといった中団グループの追い上げは急で拮抗した争いとなっている。

突出した速さを持つメルセデスの2台をフェルスタッペンが必死に追いかける。今季はここまでこんな構図のレースが繰り返されている。その中でホンダ勢のエースはタイヤ戦略がはまった70周年記念GPの優勝をはじめ、2位5度、3位2度と奮闘している。ただ総合的な速さという点ではメルセデスに及ばない。

アイフェルGPで走行するハミルトン。今季はメルセデスが圧倒的な速さを見せている=AP

開幕前は2月のスペインでのテストで好結果を残したこともあり、山本雅史マネージングディレクターが「充実した日々を過ごした」と手応えを口にしていた。だが蓋を開けてみればメルセデスは圧倒的な速さを見せつけた。そのため第6戦スペインGP後の記者会見で田辺氏はコロナ禍で開幕が遅れる間に「(チーム全体のパッケージとして)メルセデスとの差は開いている」との認識を示したほどだった。

それでも基本的なパワーユニット(PU)の仕様が開幕戦時と変更できないという制約がある中、「セットアップなどデータの見直し」などに努め、車体の改良も進んだ。その結果、徐々にではあるがレッドブルとメルセデスとの差は縮まってきた。また赤旗中断やセーフティーカー導入など荒れたレースとなったイタリアGPではガスリーが優勝、アルファタウリに08年(トロロッソ時代)以来の勝利をもたらした。このレースではホンダのスタッフの発案でアルファタウリと提携して50戦目という記念のステッカーを用意するなど、士気もこれまでになく上がっていた。

現場は複雑「ファンに申し訳ない」

それだけに21年限りでの参戦終了に現場では複雑な思いが渦巻く。昨年11月の参戦延長の発表後からF1活動の方向性についての話し合いにも参加してきた山本氏は本社の方針を理解できるとした上で「ファンの方に申し訳ないし、裏切る形になってしまって非常に悲しい。個人的には悔しい。これからレッドブルと飛躍するベースがやっとできたところ」と正直な胸の内を明かす。

ホンダは一時期を除き、PU、エンジンの供給という形でF1に参戦してきた。だがPU供給だけではF1の分配金は受け取れない。分配金はあくまで車体をつくるチームが対象だ。メルセデスやフェラーリ、ルノーといったメーカーは自らのワークスチームを持つとともに年間数十億円とされる値段で独立系のチームにPUを供給している。

だが、ホンダはレッドブル、アルファタウリの両チームをPU供給先の顧客としてではなく「パートナー」として位置づけている。年間数百億円とされる費用をかけて「最高の技術を追求する場」であるF1に参戦してきたホンダは、独自のスタンスをとり続けた。

実はレッドブルの正式名称は英国の高級車ブランドを冠した「アストンマーティン・レッドブル・レーシング」でホンダの名前はない。アルファタウリは「スクーデリア・アルファタウリ・ホンダ」となっているが、トップチームでのホンダの存在感は薄れがちだったことは否めない。その点についてホンダの渡辺康治ブランド・コミュニケーション本部長は「(PUだけの参戦では)マーケティング上なかなか使いづらいというのは事実としてあった」と認める。

新型PUで「来季は勝って終わりたい」

次世代の環境対応車に経営資源を集中するという参戦終了の理由は、リーマン・ショックが引き金となった08年の3度目の撤退表明とよく似ている。当時は車体も製造するワークスチームだったこともあり、ホンダはチーム代表を務めていたロス・ブラウン氏にチームを売却。ブラウンGPと名を改めたチームは翌シーズン、ホンダが開発していた車体にメルセデスのエンジンを積み2冠を達成した。そのブラウンGPがメルセデスに買収され、最強チームとなったのは歴史の皮肉だろうか。

今回は参戦終了まで1年余りの猶予がある。来季は集大成となる新型PUを投入する予定で、山本氏は「田辺とタッグを組んで、やっぱりホンダだねと言われるようなレースを死に物狂いでやりたい」と力を込める。渡辺氏も「来シーズンは勝って終わりたい。勝利に向けて今(F1の現場に)いる人は動かさず、体制を維持したい」とバックアップを約束。その上でレッドブルらとの関係についても「今後も活動を続けやすいよう、協力したい」との立場を示している。

F2で活躍する角田=ホンダ提供・共同

そしてホンダが支援するドライバーでF2で活躍する20歳の角田裕毅が11月、アルファタウリでF1のテスト走行を行う。F2で現在総合3位につけている角田は来季のアルファタウリのドライバー候補の一人。ホンダは22年以降も世界を目指すドライバーの支援は継続することを明言しており、角田がシートを獲得すれば14年の小林可夢偉を最後に途絶えていた日本人ドライバーがF1に久々に誕生することになる。

(馬場到)

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