芝野王座vs.許八段 最年少対決、囲碁王座戦23日開幕
20歳の二冠対22歳の実力者 次代の覇権争う五番勝負

囲碁・将棋
2020/10/21 2:00
保存
共有
印刷
その他

芝野虎丸王座(20、十段)に許家元八段(22)が挑む第68期囲碁王座戦(日本経済新聞社主催)五番勝負が23日開幕する。最年少で三冠となった芝野王座は名人位を失ったものの、王座初防衛と二冠維持を目指す。許八段は読みが鋭く、戦いが得意な実力者だ。年齢は2人合計で42歳と、七大棋戦の最少記録だった2014年本因坊戦の44歳を塗り替える若手対決だ。対戦成績は芝野王座の4勝2敗。次世代の覇権を争う注目の五番勝負となる。

■芝野虎丸王座、盤面に集中 初防衛狙う

しばの・とらまる 1999年神奈川県生まれ。洪清泉四段の洪道場に学ぶ。2014年入段。17年竜星戦優勝、新人王戦優勝。18年日中竜星戦で中国・柯潔九段を破って優勝。19年、史上最年少19歳で名人、九段。同年王座。20年十段。現在は二冠。タイトル獲得数は5。

しばの・とらまる 1999年神奈川県生まれ。洪清泉四段の洪道場に学ぶ。2014年入段。17年竜星戦優勝、新人王戦優勝。18年日中竜星戦で中国・柯潔九段を破って優勝。19年、史上最年少19歳で名人、九段。同年王座。20年十段。現在は二冠。タイトル獲得数は5。

前期の王座戦は、開幕直前に名人を獲得できたので、自信をもって戦えた。井山さん(裕太四冠)との五番勝負は、いま思ってもどれも結果が逆でもおかしくないほど難しかった。奪取できたのは運が良かったとしか言いようがない。テレビ出演などで注目されたのも新鮮だった。

新型コロナウイルスで4~5月、対局が停止された間は、家でゆっくりしていた。ネットでの研究会やイベントの団体戦のほか、中国・韓国勢とのネット対局を少なくとも1日3局、日によって10局以上はこなしたので、勉強は質量ともに問題なかったと思う。

それでも再開後、なぜか調子を崩した。勝率は悪くなくて、十段も獲得できたのだが、井山さんに挑戦した本因坊戦は内容がひどすぎて苦しかった。途中からは負けたものとして、番勝負を楽しもうと切り替えた。盤面に集中できるようになり、名人戦も敗れはしたが、調子は良くなってきたと感じている。

許さんとは院生になったのが同期で、プロ入りは私が少し遅れた。昔から読みが早くて強く、レベルが高かった。布石はどうかなという点もあったが、戦いの破壊力はとんでもない。2年前に碁聖を獲得してからタイトルを取っていないのが不思議なほどだ。

中国の乙級リーグに日本チームで一緒に遠征し、碁の検討や食事をともにしていた。許さんと一力さん(遼碁聖)は、同い年のライバルと言われてきて、私は身近な先輩として2人の背中をずっと追いかけてきた。許さんと五番勝負という大きな舞台で戦えるのがとても楽しみだ。

■許家元八段、自分の打ちたい手打つ

きょ・かげん 1997年台湾・台北市生まれ。高林拓二七段門下。2013年入段。14、16年、若手世界戦のグロービス杯世界囲碁U-20で準優勝。15年新人王戦優勝。18年、井山裕太七冠(当時)を3連勝で破って碁聖獲得、八段。タイトル獲得数は2。

きょ・かげん 1997年台湾・台北市生まれ。高林拓二七段門下。2013年入段。14、16年、若手世界戦のグロービス杯世界囲碁U-20で準優勝。15年新人王戦優勝。18年、井山裕太七冠(当時)を3連勝で破って碁聖獲得、八段。タイトル獲得数は2。

前期は挑戦者決定戦で敗れて残念だった。今期トーナメントは大変で、特に山下敬吾九段との準決勝は最後まで少し押されていたが、少しミスがあって運良く逆転できた。結城聡九段との2回戦でも、優勢だったのに無理な仕掛けをして自爆しそうになった。

ただ自分では人工知能(AI)に評価されなさそうでも、打ちたい手を打つようにしている。結果的に負けることもあるが、善悪がわからなければ、戦いを挑む自分の棋風に合っていれば採用している。それで挑戦にこぎ着けたのだと思う。

台湾で生まれ、3、4歳の頃に兄の囲碁教室について行ってルールを覚えた。ネット対局で腕を磨き、王立誠先生(九段)の勧めもあり日本にきた。いまひとつだった布石をAIで鍛えて棋力が上がったと実感したが、2018年碁聖戦で七冠独占中の井山さんに3連勝してタイトルを奪ったのは自分でも驚いた。力を試すつもりでベストを尽くしたのが良かったのだろう。

ふだんの勉強はAI分析とネット対局、詰碁をしている。コロナ禍の対局停止中は動物の癒やし系の動画鑑賞や料理でリラックスしていたら、再開後は負けが込んでしまった。7~8月には4連敗し、自分を見つめ直した。序中盤で長考して時間がなくなってしまっていたので修正した。

芝野さんは打つのが早く、安定して大きなミスがない印象がある。前期の王座戦の挑戦者決定戦や、本因坊戦のプレーオフなど大きな舞台で負けている。気負うことなく、自分の力を全力で出し切ればいい勝負ができるはず。

■展望を聞く 芝野、戦いの碁に自信 許、AIの布石に精通

五番勝負の展望を一力遼碁聖(23)と河野臨九段(39)に聞いた。

――許が勝ち上がり、若手同士のフレッシュな顔合わせとなった。

河野 井山四冠が登場しない王座戦五番勝負は9年ぶり。両者に一力碁聖も含めた3人は、今後、間違いなく囲碁界の覇権争いに加わる人材であり、その最初の戦いとして、大いに注目している。

一力遼碁聖

一力遼碁聖

一力 今期は本戦に多くのベテラン陣が駒を進める中、若手の許が地力を発揮して勝ち上がった。準決勝の剛腕・山下とのねじり合いはすごかったし、張との決勝も、挑戦者になるにふさわしい内容だった。

――許の碁の特徴は?

一力 基本的には戦いの碁で、攻めでもシノギでも読みに絶対の自信を持っている。

河野 若手の中では長考派で、局後の感想戦で感じるのは、普通は気付かないような手をいろいろ考えていること。発想力の豊かさには驚かされるが、アイデアをまとめるのに苦労しているときもあるようだ。

――一方の芝野の調子をどう見るか。

一力 夏に2局打った感じでは、調子は悪くない。コロナによる対局自粛が明けてから、本因坊戦、名人戦の七番勝負で井山相手に苦戦しているが、それ以外ではあまり負けていない。

河野 井山とタイトル戦を戦うと、たいてい毒気にあてられて調子がおかしくなる(笑)。それがちょっと心配だ。

――どんな碁になりそうか。

一力 許の方がAI(人工知能)の布石により深く精通している感じがある。芝野もAIは研究しているが、布石は自分の好みを優先しているようだ。

河野臨九段

河野臨九段

河野 仕掛けるとすれば許の方だろう。反発されるリスクを覚悟のうえで、素直に受けにくい手を繰り出してくる。

一力 芝野も戦いには自信を持っており、戦いの碁になるのは間違いないが、以前のように「実利対模様」「攻めとシノギ」のような、見た目わかりやすい戦いにはならないかもしれない。

河野 多分AIの効果だろうが、「この分かれなら黒が勝ち」という形勢判断が対局者同士で一致することが増えてきた。しかも両者は互いに半目差の勝負を読み切れるくらい計算もしっかりしている。少し得をするために、水面下で激しい殴り合いをするような感じの碁になりそうだ。

一力 いずれにしろ秒読みには突入すると思う。長考派の許に対し、最近は芝野も長考が増えてきた。2日制の碁ばかり打っているせいかもしれない。

――ずばり勝敗予想を。

一力 過去の対戦成績は芝野の4勝2敗。トップクラスで活躍している両者にしては対戦そのものが少ないのが驚きだが、昨年の王座戦の挑戦者決定戦や今年の本因坊戦の挑戦者決定戦という大一番でいずれも芝野が勝っており、負けた許の方に苦手意識が生じている可能性はある。3勝2敗で芝野の防衛とみている。

河野 芝野が名人戦で井山に苦しんでいる間に、許は芝野対策を十分に練ってくるのではないか。大一番でやられている芝野へのリベンジの意欲にも期待し、許が3勝2敗で奪取するとみる。=文中敬称略

◇ ◇ ◇

■ベテラン勢 気を吐く

人工知能(AI)をうまく取り入れた若手が各棋戦で活躍するなか、ベテラン勢が気を吐いた。58歳彦坂や48歳結城、42歳秋山ら、ベスト8のうち5人を40代以上が占めた。

前期、芝野にタイトルを奪われた第一人者の井山が、挑戦者争いの本命とみられた。地力の違いを見せて1、2回戦は危なげなく勝ったものの、張との準決勝は激しい乱戦になって押し切られ、9年連続の番勝負出場はならなかった。

その張との挑戦者決定戦に臨んだのは、2年連続でここまで駒を進めた若手の許だった。許は難しい戦いのなかでじりじりとリードを広げ、前期の壁を乗り越えた。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]