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赤土の王者は「強さ」の証し 全仏で無敵のナダル

スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ

衛星放送「WOWOW」の中継で全仏オープンテニスに行ってきた。先日帰国し、もうしばらくは自宅待機が続く。異例ずくめの状況の中、大きなトラブルもなく大会を運営したフランステニス連盟(FFT)に感謝と賛辞を贈りたい。

例年の中継では40人程度のスタッフが現地に赴くが、今回は10人程度。パリからの出演は僕ひとりで、アナウンサーや解説者は日本のスタジオからコメントした。現地では5日ごとにPCR検査を受けていた。

11日の男子シングルス決勝ではラファエル・ナダルが4年連続13度目の優勝を飾り、ロジャー・フェデラー(スイス)が持つ四大大会通算20勝の史上最多記録に肩を並べた。決勝では世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)にストレート勝ち。接戦の予想を覆す圧倒的な強さを見て、赤土とそれ以外では同じテニスといえども、違うスポーツなのだと感じた。

FFTのベルナール・ジウディセリ会長によると、ローランギャロスは四大大会のうちのひとつというより、「赤土の頂点を決める大会」なのだという。欧州や南米の赤土はおおむね日本のクレーコートよりも球足が遅く、高く跳ねるが、天候や湿度にも大きな影響を受ける。刻々と変わる様子は生き物のようだ。

持久力試すクレーコート

男子ダブルスの元世界王者トッド・ウッドブリッジ氏(オーストラリア)は赤土で勝つための4つのカギを挙げている。フォアハンドでは強烈なトップスピンで角度をつけ、相手をコートの外に追い出すこと。2つ目はバックハンドで深いボールを打つこと。3つ目は強烈なスピンサービスでバネのように跳ねるボールを打つこと。そして4つ目は強い耐久力を身につけること。

テニス雑誌の技術論を読むと、ハードコートでのストロークでは肩を中心に回すのに対し、クレーでは肘が中心になると書いてある。フォアで強烈なスピンをかけるには強靱(きょうじん)な下半身、前腕、手首が欠かせない。スピンサービスを打つには強い背筋や腹筋、柔軟性が必要だ。球足が遅いクレーではラリーも長い。瞬発的な出力と持久力が求められるプレーを何時間も続けるのは、400メートル走を繰り返し走るようなものだ。タイミングや技術、読みなどが重要になるハードや芝でのテニスが「技」の競い合いだとすれば、赤土は「強さ」を試している。

心身の強さにおいて、ナダルは当代随一の存在だ。そのうえ彼は、小さい頃からクレーの頂点に立つために鍛えられてきた。コーチでもあった叔父のトニさんはナダルを赤土で勝てる選手にするために、生来の右利きからサウスポーに変えた。トップスピンの利いたフォアのクロスで右利きの選手のバックを突けば、ラリー戦で優位に立てるからだ。才能豊かなナダルは他のサーフェスでも活躍するようになったが、赤土での圧倒的な強さは群を抜いている。ローランギャロスのナダルを見ると僕はいつも、ギリシャ神話に出てくる牛の頭を持つ怪物ミノタウロスを思い出す。

大坂も全仏の優勝候補

いつの日か、日本からもローランギャロスを制する選手が出るだろうか? 男子は簡単ではない。結果を出すには、ナダルのように赤土に特化した育成が必要になるだろう。徹底的な筋力アップ、様々なコート状況に対応するための実践練習。欧州や南米では初夏のクレーコートシーズン以外にもクレーでの大会が開かれているから、そうした試合を優先的に回るスケジュールの組み方も有効かもしれない。

男子に比べると、女子のタイトルはより多くの選手にチャンスが開かれている。実際に最近も毎年違う選手が優勝している。ドロップショットやスライスの使い方、攻守の切り替え、ネットへの出方などが他のサーフェス以上に重要になるが、大坂なおみ(日清食品)も近い将来の優勝候補だろう。プレーの引き出しをもう少し広げれば、可能性はさらに広がる。彼女の父親が生まれたハイチの公用語はフランス語。優勝スピーチをフランス語でする彼女の姿を見てみたい。

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