英国のパブが経営危機 大手チェーン、「政府規制は根拠ない」

小売り・外食
ヨーロッパ
2020/10/17 3:23 (2020/10/17 8:13更新)
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【ロンドン=佐竹実】英国を象徴する文化であるパブの経営が危機に陥っている。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出制限などで客が激減したためで、大手チェーンが16日発表した決算は36年ぶりの赤字になった。規制を厳しくする政府に対し、パブ側は「規制の根拠がない」として不満をあらわにする。

カウンターで注文するパブのスタイルは、感染防止のため規制された(12日、リバプール)=ロイター

ビールを手に談笑する人が店外にまであふれる――。こんなパブの風景は新型コロナで大きく変わった。ロンドンは観光客や会社員の数が減り、店内は人影まばら。パブ運営大手のJDウェザースプーンが16日発表した2020年7月期決算は売上高が前年比3割減の12億6千万ポンド(約1700億円)、税引き前利益は1億500万ポンドの赤字に転落した。赤字は36年ぶりだ。

新型コロナの感染拡大で英政府は3月下旬、飲食店の営業を禁じた。ロンドンでパブを運営するフード&フューエルは、直後に経営破綻した。飲食店は7月から営業が認められたものの、店内で1メートルの距離を保つなどの規制が敷かれた。約900店舗を持つJDウェザースプーンの場合、座席同士を仕切るアクリル板や消毒剤の設置などに1300万ポンドを投じた。

9月に感染が再拡大してきたことを受け、政府は規制を強めた。午後10時以降の営業を禁止し、12日には3段階の新たな規制ルールを発表した。ロンドンでは17日から警戒レベルが1段階上がり、室内での異なる家族との接触が禁じられる。飲食店などの業界団体UKホスピタリティーは新規制により、ロンドンだけで25万人が失業する可能性があるとしている。

「新規制は明確な科学的根拠に基づいていない」。スカイ・ニュースによると、JDウェザースプーンの創業者ティム・マーティン氏は16日、政府の規制に不満をあらわにした。パブは通常、カウンターで飲み物を注文して立ちながら飲んだり、座ったりするが、これが感染のリスクを高めるとしてテーブルで注文を取るスタイルが義務付けられた。マーティン氏は、「パブの本質的な性質が損なわれた」と話す。

新しいウイルスによる感染症のため、対策についての科学的根拠を示すことは難しいだろう。だが、ロンドン中心部の飲食店では10時の閉店と同時に客が路上にあふれて「密」になっており、規制の効果には疑問の声が出ていた。

欧米での感染は若者に集中していることもあり、春先のような規模の死者は出ていないが、このまま増えない保証もない。今後死者が増える可能性がある以上、政府としては規制に動かざるを得ないのが現状だ。

パブリックハウス(公共の家)の略であるパブは英国民にとっての社交場であり、文化そのものだ。近年では「家飲み」嗜好が強まったこともあり、英ビール・パブ協会によると00年に6万件だったパブは19年には4万7千件まで減った。コロナ禍でこの流れが加速するかもしれない。

飲食店の規制がいつ解除されるか、先が見通せない。解除されたとしても、その時にはなじみのパブはないかもしれない。新型コロナは人々の働き方にとどまらず、文化そのものにも大きな影響を与えている。

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