動き繊細 ロボは分身 人機一体の人型重機
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関西
滋賀
2020/10/19 2:01
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「人機一体」が開発している人型重機。独自のトルク制御で操縦者に力の感覚が伝わる=松浦弘昌撮影

「人機一体」が開発している人型重機。独自のトルク制御で操縦者に力の感覚が伝わる=松浦弘昌撮影

ジムのトレーニングマシンのようなコックピットに座り、レバーを握った左右の手をゆっくりと上げる。台に載った上半身だけのロボットが同じようにバンザイした。こちらが手の力を抜くと、ロボットの腕は自重でだらりと下がる。スタッフがロボットの手をつかんで上下に振ると、その感覚がレバーに伝わってきた。ゴーグル型のディスプレーを装着すると、ロボット目線の視界が広がる。

立命館大学発のスタートアップ企業、人機一体(滋賀県草津市)は「人型重機」と呼ぶロボットの開発を手掛ける。操縦者の動きを光ファイバーで伝え、上半身に17カ所ある関節のモーターが作動してロボットが動く。外から受ける力はセンサーで測って操縦者に返す。独自のソフトによって人の直感的な操作が可能になり、微妙な力加減をリアルタイムに再現できる。

製造現場に広がっている産業用ロボットは、関節の位置をあらかじめ座標でプログラミングして制御する。高速で同じ作業を繰り返すのに向いているが、臨機応変に人の意思を反映するのは難しい。建設機械などの重機は人が目で見ながら、油圧を使って大きな力を出せるが、複雑で繊細な作業はできない。

「あらゆる肉体的な苦役から人類を解放したい」。社長の金岡博士さん(49)は大きなミッションを掲げ、人型重機の社会実装を目指す。人の意思の伝達と力加減の制御という研究課題について「すでに実験レベルのハードルは越えた」という。

重労働などの課題を持つ企業と連携して用途ごとの専用機を開発する。思い描くのは工場内での重たい部品や材料の搬送、過酷な環境にあるインフラの補修・維持管理などだ。

社会実装の第1号は鉄道の保守・点検になるかもしれない。JR西日本グループから出資を受け、作業の省人化と安全性向上を探るプロジェクトが動き出した。例えば高所にある架線の深夜の切り替え作業。熟練した保線員が人型重機を駆使すれば、効率よくこなせるようになる。

ロボット工学の純粋な研究者だった金岡さんを変えたのは2011年の東日本大震災だった。原発事故の危険な現場でロボットはほとんど役に立たなかった。「先端工学が社会でまったく活用されていない。必要なのは社会実装だ」。科学技術は人を幸せにするためにあるという思いが根底にある。

開発拠点は夢を形にする現場だ。立命大のびわこ・くさつキャンパス(BKC)に近い本社を「秘密基地」と呼ぶ。国の構想に基づいて整備された福島ロボットテストフィールド(福島県南相馬市)にも開発拠点を置く。

マジンガーZ、ガンダム、エヴァンゲリオン――。世代によって思い浮かぶロボットは違うだろう。人の身体能力を超えた力を自在に操る世界。侵略者との戦いを豊かな生活の実現に置き換え、幼い頃に夢見た未来は確実に近づいている。

(木下修臣)

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