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前向いて生きれば機会生まれる

村上睦美さん(4)医療ジャーナリスト

2019年春に出版した闘病記を読んだ人からのはがきは励みになっている

がんの再々発や2つの難病を経て46歳で息子を出産後、私の体はつきものが落ちたように回復した。体調が良くなると、気持ちが前向きになる。「娘に遺したい」と書き続けていた闘病記を完成させた。

書き終えると「どなたかの役に立つかもしれない」という考えが頭をよぎり、2016年に開高健ノンフィクション賞に応募。最終候補の3作に残った。受賞には至らなかったが、最終選考会のため書き直す作業は新聞記者時代を思い起こさせた。「もう一度社会に出よう」という気持ちになった。

 むらかみ・むつみ 1964年札幌市生まれ。92年北海道新聞社入社、2003年に悪性リンパ腫を発症し翌年退社。がんの再々発や難病を克服し、17年からフリーの記者として活動を再開。「がんと生き、母になる―死産を受け止めて」(まりん書房)を19年3月に出版。

まずは大学の生涯学習に通った。経歴を話す機会があり、講師から元日本テレビ解説委員の倉沢治雄さんを紹介された。倉沢さんはウェブメディアに医療記事を書く機会を私に与えてくれた。さらに「闘病記を出版した方がよい」と勧められた。

自費出版では届けられる範囲が限られるため、自分で出版社を立ち上げて流通させることにした。何から何まで初めての体験で戸惑ったが、なんとか出版にこぎ着けた。

初版の日は父の命日にした。最初に本を贈ったのは娘。インターナショナルスクールに通い、母語が英語の娘は「ママ、ありがとう」と本棚に並べた。米国人の夫と小学1年の息子も礼を言って本棚へ。苦笑した。

読者からは「病気に立ち向かう気持ちが生まれた」「元気をもらった」と書かれたはがきが届き、多くの図書館から注文をもらった。励みになった。

発信を始めると、医療を体系的に学ぶ必要性を痛感した。19年1月に聖路加国際大学公衆衛生大学院に出願、合格。50代半ばからの勉強は大変だが知見を広げられてうれしい。同年11月には元日本経済新聞編集委員、故小河正義さんの遺志を受け継ぎ設立された「小河正義ジャーナリスト基金」から活動助成金をいただいた。前を向いて生きていれば、誰かが見ていてくれ、チャンスをくれると思った。

がん発病から17年。この間、「天国の息子の側に」と思い詰め、病気の連鎖の中でもがき続けた。でも、生きていてよかったし、記事を書く仕事に戻れ、学び直しもできて幸せだ。今後も患者経験と大学院で得た知識を生かして、発信し続けたい。私の経験が悩み苦しんでいる方の役に少しでも立てればと願っている。

(この項おわり)

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