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大阪、なぜアメだけ「ちゃん」 他の食べ物は「さん」

とことん調査隊

大阪に赴任して1年。「アメちゃん持っていきや」と、もらったアメ玉は数知れない。気がつけば、かばんの中には、いつかどこかでもらったアメ玉が。そういえば、なぜ大阪人はアメだけ「ちゃん」付けするのだろう。「ガムちゃん」「せんべいちゃん」なんて聞いたことがない。

関西人は食べ物全般に「さん」付けする傾向がある。梅花女子大学の米川明彦名誉教授(言語学)によると、これは京都の「御所詞(ことば)」に由来するそうだ。室町時代に京都御所に仕えた侍女(女房)が使っていた言葉だ。女房ことばとも呼ばれる。用法の一つに「お冷や(冷や水)」や「おまん(まんじゅう)」など、食べ物の省略形の頭に「お」を付けることがあったという。

御所詞は、女性の間で使われたため「より丁寧に、美しくきれいに聞こえるように『さん』を付けるようになった」(米川名誉教授)。家庭のなかで男性にも定着し、江戸時代までに商人を通じて大阪にも広まっていったという。「お豆さん」「お稲荷さん」など食べ物にさん付けすることが多いのは、女房が公家や皇族への配膳を担当していたからだ。

ではなぜ、アメちゃんなのか。2016年まで「あめちゃん」という商品を製造していたパイン(大阪市)を訪ねた。開発部の木下堅太さんは「大阪人にとってアメ玉は大事なコミュニケーションツールだから」と指摘する。「安くて個包装のアメは人に薦めやすく、会話のきっかけに最適」という。人に渡す際に「アメさん」だとかしこまった印象だが、「アメちゃんならハードルが低い」。

「大阪のおばちゃん」の意見も聞いてみた。ご当地グループ「オバチャーン」の奥百合子さん(72)は「ちゃん付けは親しみの表れ。アメちゃんはそれだけ身近な存在や」と力説する。子どもの頃から慣れ親しみ、月に5~6袋は購入し、半分は他人に配る。「アメは幼なじみみたいな感じ。『さん』なんて付けたら距離感あるやろ」

他のメーカーにも聞いてみよう。製造会社を探していて気がついた。大阪にはアメ専業メーカーがやたらと多いのだ。「パインアメ」のパインに「のど黒飴」のノーベル製菓、「ぷっちょ」のUHA味覚糖や扇雀飴本舗など――。いずれも本社は大阪市にある。

なぜ大阪に。ヒントは原料の砂糖にあった。

「大阪は昔、砂糖の町だったんです」。大阪歴史博物館の学芸員、松本百合子さんが大阪と砂糖の関わりを教えてくれた。大阪が天下の台所と言われた江戸時代。国内外を問わず、ほぼ全ての砂糖は大阪に集まり、全国に出荷されていった。

特に砂糖問屋が多かったのが堺筋だ。砂糖はもともと滋養強壮の薬として販売されており、古くから薬局が多かった堺筋に問屋が集中した。国内生産が広まった江戸中期からは価格も下がり、消費量が増えた。最盛期には堺筋だけで約200軒の業者がいたという。

原料の砂糖を調達しやすかったことから、アメを含めた砂糖菓子の業者が大阪で増えたとみられる。全国の特産品を紹介した「日本山海名物図会」に大阪・平野の「平野飴」が登場する。江戸中期にはアメが名物として定着していた。松本さんは「大阪は最も身近に砂糖があった場所。他の地域よりアメの消費が根付く土壌があったのでは」と分析する。

さんざんアメについて調べてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大で外出が減り、最近ではアメをもらう機会も減った。パインによると、足元の売り上げは伸びていないという。「アメちゃん持っていきや」。大阪のおばちゃんの威勢のいい声を早くまた聞きたくなった。(平嶋健人)

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