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中国「デジタル人民元」実験 資金の流れ監視、G7警戒

【深圳=川上尚志、北京=川手伊織】中国は「デジタル人民元」の発行に向け、広東省深圳市で市民5万人が参加する実証実験を始めた。2022年の北京冬季五輪までに正式発行する。デジタル化で資金の流れを「監視」する狙いだが、先行する中国の取り組みに日米欧は警戒を強める。

中国・深圳市では抽選で5万人にデジタル人民元が配られ買い物に使われた(13日、市内の「ウォルマート」)

13日、深圳市羅湖区のスーパー、ウォルマート。市内の60歳代夫婦は洗剤などを購入するため、慣れた手つきでスマートフォンでQRコードをセルフレジにかざした。支払ったのは、12日から実験が始まったデジタル人民元だ。「日ごろスマホ決済を利用しているが、より安全な気がする」

実験ではデジタル人民元を1人200元(約3100円)ずつ抽選で配った。総額1000万元分で、同区のスーパーや飲食店など3389店で使える。使い方は、中国で普及するスマホ決済の「支付宝(アリペイ)」などと基本的に同じだ。

実験期間は19日午前0時まで。これまでも公的機関などが運用実験を実施してきたが、一般市民向けの大規模な取り組みは初めて。無料とあって応募した市民は191万人を超え、当選確率は3%だった。

中国工商銀行など中国四大銀行に専用の「デジタル財布」をつくり、口座とひもづければデジタル通貨が足りなくなっても口座から引き落とせる。中国人民銀行(中央銀行)はスマホを近づけるだけでデジタル人民元の受け渡しができる仕組みも検討している。

中国が発行を急ぐ狙いは何か。表向きは国際化や利便性を掲げるが、資金の流れを捕捉しようとする思惑も透ける。人民銀は18年、全スマホ決済が経由するよう義務づけたシステム「網聯」を稼働した。これと合わせてデジタル人民元が普及すれば、技術的にはほとんどの取引を当局が把握することが可能になる。国民のお金のやり取りが丸裸になり、一挙手一投足が筒抜けになるとの見方もある。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は14日、深圳市の式典で「未来の産業を育成し、デジタル産業を発展させる」と述べ、デジタル人民元の振興に意欲を見せた。

先行する中国に対し、日米欧は懸念を強める。

「『中国さん、あんた透明性は大丈夫?』という話だ」。麻生太郎財務相は13日の主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で明言した。黒田東彦日銀総裁も「G7以外の国も(デジタル通貨を)発行するなら透明性などを備えた形で発行する必要がある」と述べた。

デジタル人民元は利用する個人や企業の取引データが中国当局に筒抜けになる可能性があり、データの管理や利用がどうなるのか見えない面がある。こうした懸念を踏まえ、運用実態を透明にするよう訴えた形だ。

中国への懸念の背景には、世界に先駆けて実用化を進めるデジタル人民元への警戒感がある。

デジタル人民元が中国国内での利用にとどまらず、貿易決済などを通じて世界的に普及すれば相対的に基軸通貨ドルの地位が低下する。米国が敵対国にドル取引を禁じるといった金融制裁の効力も弱まりかねない。もしデジタル人民元が技術面で国際標準を握れば、各国が実際にデジタル通貨を発行する場合の足かせになる恐れもある。

先進国もデジタル通貨発行を見据えた取り組みを急ぐが、一足飛びに実証実験に踏み切った中国との差は開く。日米欧の主要7中銀と国際決済銀行(BIS)は9日公表した報告書で、発行時の基本原則を示した。物価や金融システムの安定を損なわないことや、現金など他の通貨と共存することなどを掲げた。

日銀は実証実験を3段階に分けている。来春にも発行・流通などの基本機能を閉じたシステム内で検証する第1段階を始めるが、中国のように消費者や企業も参加するのは最終の第3段階だ。原則を確認したうえで実証実験に進み、利用者保護などの影響を慎重に見極めようとする日銀などと中国との差は大きい。

G7は13日の共同声明で、国際通貨システムの信認は透明性や法の支配が支えていると強調し、中国をけん制した。だが、中国が参加しないG7の声明の影響力は見通せない。日米欧中がそろう20カ国・地域(G20)の場などを通じて、デジタル通貨の枠組みの共有を促せるかが焦点になる。

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