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進む競馬ファンの「現場」離れ 入場再開で明らかに

2020/10/17 3:00
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久々に入場したファンが見守る中、パドックを周回する毎日王冠出走馬(11日)

久々に入場したファンが見守る中、パドックを周回する毎日王冠出走馬(11日)

中央競馬は10月10日の東京、京都、新潟開催から、コロナ禍で取りやめていた観客の競馬場入場を限定的に再開した。本来なら、8月15日の新潟から始めるはずだったが、当時の感染拡大で2カ月近く先送りされていた。ただし、極めて小規模で、最大収容数は3場合計で2446人。既に各会場の収容人員の50%まで入場数を拡大しているプロ野球やサッカーJリーグとは比較にならない。

だが10、11の両日、実際の入場者数は、上限の7~8割程度だった。9月以降、勢いが加速している売り上げとは裏腹で、コロナ下の「ニューノーマル(新常態)」は、観戦型スポーツとしての競馬に新たな課題を突きつけている。

約7カ月半ぶりにファンが競馬場に足を踏み入れた10日は、台風14号の影響で京都が雨模様。接近中だった東京は朝から激しい雨に見舞われた。それでも、開門時間の午前9時には約50人が並んでいた。開門とともに入場者は、入り口で検温と手の消毒を済ませ、購入した席に移動していった。昨年末に場外発売中の東京を訪れて以来という50代の女性会社員は「久しぶりの芝コースを見て泣きそうになった」と感慨深げだった。

競馬場入場の際は、一人ひとりが検温を済ませる

競馬場入場の際は、一人ひとりが検温を済ませる

今回、東京で事前購入を受け付けたのは、メインスタンド5、6階に位置するA、B、C3種類の指定席。価格はAが2000円、Bが1500円、Cが1000円(別に入場料が200円)で、11月1日の天皇賞・秋当日は価格がそれぞれ倍になる。事前予約の段階では、席数1047(うち車椅子席12)に対して、応募は10日が5865件(車椅子席1件)、毎日王冠のある11日が8543件(同2件)。車椅子席を除く競争率は5.7倍と8.3倍という狭き門だった。

だが、実際に当選者が権利行使して購入したのは、車椅子席を除き10日が723件(69.9%)、11日が837件(80.9%)。土曜で3割以上、日曜で約2割が権利を放棄した。京都、新潟の競争率をみると、京都(778席)は10日が3.6倍で、11日(京都大賞典=G2を施行)が5.4倍。重賞のなかった新潟は1.3倍と1.5倍だった。一方、実際の購入率は10日が70%前後で、11日は京都78.5%、新潟72.4%。11日の新潟がやや低いほかは、似た傾向だった。

この歩留まりをどうみるか。指定席発売の対象は日本中央競馬会(JRA)の指定席ネット予約会員に限られ、購入は1人1席。転売は難しく、JRA関係者も権利放棄の理由については首をかしげる。

■制約多い競馬場、雰囲気を楽しめず

競馬場入場者は、野球やサッカーの観客とは、相当に異質だ。今ではスマートフォン一つでどこでも馬券が購入できる。競馬場に足を運んで、「できること」といえば、パドックや走路の外柵沿いで競走馬を間近に見て、レース終盤に開かれた空間で大声を出すことだが、コロナ下の「新しい日常」では、声を出すのはご法度。この点は野球やサッカーと同じだが、観戦者は試合本体を見るのが主目的で、多様な応援はトッピングといえる。

競馬場に朝からとどまると最大6~7時間に及ぶが、レース本体の時間は合わせて30分にも満たない。間が持たないのだ。コロナ禍以前に競馬場を訪れていた人は、200円の入場料だけで広大なスペースを縦横に動き回り、雰囲気を満喫したい人と、指定席を取り、快適なスペースで「腰を据えて」馬券を買い続ける人に半ば両極化していた。

ところが、7カ月余りに及ぶ無観客態勢の下で、「徹底馬券派」の人々は、コロナ禍以前にも増して在宅購入になじみ、あえて現場に行く理由が薄れた。一方、雰囲気を楽しみたい人には、現在の競馬場は制約があまりに多い。ゴール前の広大なスペースは立ち入り禁止で、パドックや発売窓口でも人が密集しないよう、場内整理員が待機している。実際に東京のオープンスペースは人もまばらで、係員の方が目立つ。

閑散とした東京競馬場のスタンド

閑散とした東京競馬場のスタンド

イベントの類いもまだない。飲食物を扱う店舗も8カ所が営業しているだけで、選択の幅は狭く、「競馬場に来た」という高揚感とは程遠い。店舗側も入場者が少ないと売り上げも期待できないので、営業再開に二の足を踏む。

野球やサッカー程度に入場者数が増えれば状況も変わってくるが、JRAは従来「席を売る」考え方の対極に立っていた。競馬法の規定で入場料を取っているが、本音は「無料でもいいから現場に来てほしい」。だから、2005年の法改正で、各競馬場が年に1度、入場無料の「フリーパスの日」を設定できるようにした。今回、販売されたスペース以外にも、1人掛けの席はあるが、実際に番号をふり、指定席販売システムにひも付けしないと、販売対象にできない。

無観客ではなくなったが、静かな環境でのレースに変わりはない。場内実況の音声が響き、最後の直線では各騎手が打つムチの音が鮮明に耳に入る。違いといえば、レース後の散発的な拍手。観客が戻ったことを実感するのは、重賞のパドック程度だ。今はともかくトラブルのない発進が最優先で、JRAは入場申請者に対し、「後日、感染が判明した場合、個人情報を含まない事実の公表や近隣座席を購入されたお客様へ個別のお知らせを行うことがあります」とクギを刺した。

■「非接触化」、予想外の速さで進む?

小規模でも入場者を入れて安定的に運営したという実績を積み重ねない限り、入場者数拡大もままならない。G1のファンファーレに合わせて、大観衆の手拍子が起こる以前のスタンド風景は、海外の競馬関係者を驚かせるが、感染拡大防止という観点でみれば、他競技以上に危険千万で、そんな風景が戻るには3~5年程度はかかるかもしれない。

半面、売り上げは相変わらず好調で、秋競馬に入って加速がついた。9月2週に始まった中山、中京開催(延べ18日間)の総額は実に前年比7.3%増(JRA全体では今年は1.5%増)。興味深いのは、東京、京都が雨に見舞われた10月10日の売り上げだ。かつて雨は興行の大敵だったが、同日は東京が8.5%、京都が11.5%という大幅な伸びを記録した。

東京は肌寒くて視界も悪く、不良馬場に脚を取られた人気馬が次々に馬群に沈んだが、そんな空気感とは無縁の在宅プレーヤーの購買意欲は旺盛なまま。予想外の速さで、競馬ファンの「非接触化」が進んでいる表れと思えてくる。

(野元賢一)

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