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心得守れば山は優しい 持ち運ぶ体力に見合う装備を

今夏、コロナ禍の下界を離れて北アルプスを走った

この夏はコロナ禍で富士山への登山禁止や山小屋の営業縮小などもあり全体として登山者数も減った。そのためか全国の山岳遭難は直近5年間では最も少なかったようだ。

遭難者の4割近くは60~70歳代だという。かくしゃくとした足取りで急登を登る高齢者も見かけるけれど、ルートの難易度に体力レベルが追いついていないのが明らかな人々も多い。今年の夏山でも何度か危ないと感じる場面に出くわした。

夕暮れ迫る稜線を高齢の男性が一人でたどっていた。ただ、その足取りが鈍い。「大丈夫か」と声掛けすると「ありがとう」との返事。そのまま下山したものの、無事だったか、遭難していないかと気が気でなく、そのようなニュースがないのを確認してほっと胸をなで下ろした。

最近の登山者で気になるのは荷物が重すぎることだ。もちろん必要な装備を不足なく準備することは非常に重要なのだけれど、行程を考慮した上でそれを持ち運ぶ体力に見合った装備がやはり望ましい。

トレイルランニングスタイルでは、その装備が実際に必要かどうか、見極める力が養われる。山を駆けるのだからある程度は荷物を軽量にする必要があるためだ。レース経験を通じて想像力を育んだおかげで、必要装備を見極める能力が身についた。最小・最少の装備である分、相当に慎重な行動をするよう心がけている。天候の崩れなど少しでも懸念事項があれば、来た道をすぐに折り返して下山する。良い意味での臆病さが、自分の身をかなり助けてくれた。

今年も遭難の一番の原因は道迷いだったという。山道は、舗装された下界の道と違って明確でなく、霧などの天候不順に遭遇するとどんなメジャールートでも迷う可能性がある。またルートミスした前の人の踏み跡が多くなると、誤った道を信じて引き込まれ、さらなる遭難を引き起こす危険もある。ロストしても土壌を踏んだ際の柔らかな感触や、行く手をさえぎる枝の多さなどの「異変」を敏感に察知し、できるだけ早い段階で来た道を戻れるかどうかが大事故を未然に防ぐポイントとなる。

また、意外に注意すべきなのが山頂だ。ピークを踏んだ満足感からなのか、意図しないルートへ下ってしまうケースが多々ある。今はスマホでの全地球測位システム(GPS)機能が発達し、リスク軽減に大いに役立っている。とはいえ機械に頼り切っていると、得てしてメカトラブルなどの思わぬ落とし穴にはまる。GPSの性能がどれほど上がっても山地図の基本的な知識は必要だし、どんなに頻繁に通うルートでも地図を持参してほしい。分岐や山頂ではその都度、指差し確認するぐらいの慎重さを忘れてはならない。

今年の山は、例年よりも人の優しさを感じる。トレイルランスタイルに多くの人々から「頑張って」と声をかけられた。山道での挨拶も相手を気遣う気持ちが伝わってくるようだった。2011年の東日本大震災の時と似ている。殺伐とした俗世を離れたからには互いに気持ち良くふるまいましょう、とのメッセージを感じる。山には人を寄せ付けぬ厳しい一面もあれば、人を優しく包み込んでくれる温かさもある。山の魅力は実に奥深い。

(プロトレイルランナー)

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