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厚生年金、パートも入りやすく 大企業以外に適用拡大

変わる働き方の法律(中)

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高齢者雇用について話し合った翌日の筧家のリビング。残業を終えて帰ってきた恵は「年末を前にパートの人たちが意図的に働く時間を減らす就業調整をしていて人手不足で」と疲れた様子です。良男が「税金や社会保障の壁を意識しているんだな」と応じます。

筧(かけい)家の家族構成筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

良男 社会保障の壁も法律が変わったんじゃなかったか。

幸子 その通り。5月に年金制度改正法が成立したわ。パートタイマーなど短時間労働者を念頭に、厚生年金保険や健康保険の適用範囲を拡大するという内容も盛り込まれているの。

 確か年収でいうと106万円を超えると厚生年金の加入対象になるんだっけ。適用範囲はどう拡大されるの。

幸子 強制的な適用対象には大きく分けて2つ基準がある。1つ目は「週の労働時間が30時間以上」とフルタイムに近い働き方。2つ目は「週労働時間が20時間以上」かつ「月収が8万8000円(年収換算で106万円)以上」など5つの要件を満たす場合よ。5つのうちには「事業所の規模が501人以上」という要件もあるけど、これが2022年10月に101人以上、24年10月には51人以上と段階的に対象を拡大するのが大きな変更点ね。

良男 大企業以外に勤める人も加入対象になるんだな。

幸子 厚生労働省は適用拡大の目的として「被用者にふさわしい保障の実現」を掲げているわ。働いているのは同じでも、会社の規模で厚生年金に入れたり入れなかったりするのは不公平という考え方ね。17年4月には500人以下の事業所でも労使の合意があれば任意適用できるようになったけど、厚生年金の保険料は会社と従業員の折半負担。会社の負担が増えるから、義務でないと導入が広がらないとの見方もあったわ。

 他に変更点はあるの。

幸子 5つの要件には「雇用期間が1年以上見込まれること」もあるけれど、撤廃されてフルタイムと同じ2カ月以上になる。法人以外だと、強制適用の対象である個人事業所(5人以上)に弁護士や税理士といった士業が加わったわ。

 入りやすくなるけど、厚生年金に加入すると保険料が増えて手取りが減るから就業調整する人がいるのよね。

幸子 全員がそうだというのは誤解よ。厚労省によれば、現行の基準で厚生年金に加入しておらず、新たに対象となる週20~30時間・月収8万8000円以上のパート労働者のうち、44.6%は自営業者の配偶者など国民年金の第1号被保険者と呼ばれる人たちよ。納めている国民年金保険料は月1万6540円(20年度基準)。厚生年金に入ると保険料は会社が半分負担するから、月収が8万8000円の場合、月8052円で済むの。負担が減るうえ、厚生年金の報酬比例部分が乗って将来の年金額は多くなる。

良男 会社員の配偶者で、パートをしている主婦(主夫)だと事情は違うだろう。

幸子 第3号被保険者と呼ばれる人たちね。第3号の人たちは保険料を自分で納付する必要がないから、元はゼロ。厚生年金に加入すると折半とはいえ保険料負担は増えるわ。

良男 いくら年金の受取額が増えるといっても、場合によっては損なんじゃないか。

幸子 月収8万8000円で10年間厚生年金に加入したと考えると、月々の年金受取額は約4600円増える。65歳から受け取り始めると、保険料の元を取るにはおおむね18年、つまり83歳までかかる計算ね。ただ、厚労省の「簡易生命表」(19年)で65歳時点の平均余命を見ると女性が24.6年、男性でも19.8年。女性なら受給額が負担額を上回ることは十分に期待できそうよ。

 終身で受け取れるから、長生きや働けなくなることに備えるという意味でも加入を検討する意味はありそう。

幸子 公的年金は足元のコロナ禍や過去のリーマン・ショックのような状況でも滞りなく支給されている。ファイナンシャルプランナー(FP)の高橋義憲さんは「元を取る発想ではなく、将来の安心感を得るための保険と考えるべきだ。民間保険よりまずは公的保険を活用したい」と助言していたわ。

 友達の間だと自分たちがもらう頃にはどうなるか、と心配する子もいるけれど……。

幸子 19年には5年に1度の年金制度の財政検証があった。そこで適用拡大で厚生年金の加入者が増加すれば、基礎年金部分の所得代替率(現役世代の収入に対する年金額の割合)が改善するとの試算が示されたの。FPの高橋さんは「社会全体にメリットがあり、将来は年金制度に支えられる若い層にも関係がある」と指摘していたわ。

良男 とはいえ、やっぱり手取りが減ると困るという人もいるんじゃないかな。

幸子 働く時間を延ばして収入を増やす考え方もあるわ。18年の労働政策研究・研修機構の調査では、以前の適用拡大の際に「働き方が変わった」と回答した人のうち、労働時間を延長した人が半数を上回ったの。

 厚生年金だけでなく、健康保険料の負担も気になる。

幸子 厚生年金と健康保険はセットの加入となるから、扶養に入っていた会社員の配偶者は単純に負担増になるわね。ただ、傷病手当金のような所得保障制度もあるから、もしもの際に備える点では単純に損とはならないとの見方もできるわ。

企業も人材確保でメリット


社会保険労務士 原佳奈子さん
 適用拡大が決まった短時間労働者に対する企業規模要件は、当分の間の経過措置となっています。従って、できる限り早期の撤廃に向け速やかな検討開始が求められています。保険料の増加は特に中小企業には負担となるため時期は慎重な検討が必要ですが、今後も適用拡大が進むとみられます。
 加入対象の従業員が増えると、とりわけパート従業員の比率が高い業種は負担感があると思われます。ただ、企業側としてもそうしたマイナスイメージばかりではありません。制度に加入できる環境を整えることはよい人材の確保と長期定着、従業員のモチベーション向上などにもつながると考えられます。活用できる助成金制度などもあり、最初は大変でも前向きに捉えて準備をしていくことが望まれます。

(聞き手は三好理穂)

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