インド新興、Googleに反旗 Paytmがアプリ配信

スマートフォンアプリのルールの運用を巡って、インドのスタートアップが米グーグルへの反発を強めている。手数料の徴収や賭博防止の規則を巡るグーグルの一方的な行動が火を付けた。独自にアプリを配信して課金する動きもある。グーグルやアップルの市場支配力に反発する動きが、欧州連合(EU)や米国だけでなく世界中に飛び火する兆しかもしれない。
■課金システムの利用義務付け
「グーグルによるルールの恣意的な運用は、開発者や利用者を傷つけかねない危険な独占力の乱用だ」――。
インドのモバイル決済最大手、Paytm(ペイティーエム)の創業者で最高経営責任者(CEO)のビジェイ・シェカー・シャルマ氏は7日、公式ブログで手厳しくグーグルを批判した。
まず同氏の怒りに火がついたのは9月18日。グーグルのアプリストア「グーグルプレイ」から突然Paytmのアプリが削除され、新規ダウンロードやアップデートができなくなった。グーグルはブログで「賭博行為防止の規則違反」と説明したが、どこがどう違反しているか細かい説明はなく「事前の説明がなく一方的に突然削除された」(シャルマ氏)と受けとめられた。
問題になったのは、当たると現金がもらえる販促用スクラッチゲームとみられる。この機能を削除したところ数時間後に削除措置は解消された。
料理宅配ゾマトなど複数の消費者向けアプリが同じ規則に関連して警告を受けたり、一方的な削除措置を受けてたりしていたことが判明。シャルマ氏の反発に同調する意見が盛り上がった。
そして9月28日。今度は売り上げの30%の手数料がかかるグーグル課金システムの利用を義務付けると宣言した。インドでは各アプリが独自に課金しても放置していたが、新規配布アプリについては2021年1月20日から、既存アプリについては21年9月30日から、厳格に執行するとした。
義務付けの対象は、アプリそのものの有料販売と、アプリ内のデジタルコンテンツやサービスへの課金。手数料を避けるには「プレイ」を通じたアプリの普及・配布をあきらめるしかない。
■「グローバル企業に支配されてはならない」
シャルマ氏は「インドのデジタル経済の夢を1、2社のグローバル企業に支配されてはならない」と、新しいロビー団体の設立を呼びかけた。先週末までに120社超のスタートアップが合意した。米国の巨大プラットフォーマーの支配を許さぬようインド政府にも働きかけるという。
グーグルは10月5日、既存アプリについては課金ルールの施行時期を22年3月31日まで半年延期すると発表したが、反発の火は消えない。

Paytmは同じ5日、同社のアプリ内で各事業者がウェブサービスの入り口を設けられる「ミニアプリ・ストア」を立ち上げた。そこから各事業者のウェブサービスに誘導し、「グーグルを通さず自由に課金方式や事業モデルを選べる」(シャルマ氏)ようにする。
8日までにすでに5000社が参加への関心を表明し、宅配ピザ大手ドミノ・ピザやオンライン薬局大手の1mgなどが「ミニアプリ」をPaytmのアプリ上のリストに載せている。
独自のアプリ配信サービスは、韓国サムスン電子などの端末メーカーや、APKピュア・ドットコムなどの独立系サイトも手掛けている。ただ、グーグルプレイの利用者数は圧倒的に多いため、アプリ提供企業が効率よく利用者を集めるには不可欠の存在だ。
■市場支配力問題、追求が本格化

スマホアプリの配信プラットフォームを巡っては、米ゲーム大手エピックゲームズが人気ゲーム「フォートナイト」などに独自課金システムを導入したところ、アップルのアプリストアから削除され、エピックが裁判に訴える係争に発展した。
9月には同社や音楽配信大手スポティファイ・テクノロジー(スウェーデン)などアプリ事業者が、アップルのアプリ集中管理やアプリ内課金のやり方に反対する団体を立ち上げた。エピックはグーグルとも課金を巡って係争中だ。
各種調査によるとインドでは5億台超の稼働中スマホの97%程度が基本ソフト(OS)にグーグルの「アンドロイド」を使っており、アップルの「iOS」は1%に満たない。このため、反発の矛先は今のところグーグルに集中している。
中国を除く世界中のネット検索で圧倒的なシェアを握るグーグルは、すでに独占禁止法違反の罪でEUに3度、合計80億ユーロ(約9900億円)に上る罰金を科されている。米議会では同社を含む「GAFA」の市場支配力について本格的な追及が始まりつつある。
中国の8億人超に次ぐ5億人超のインターネット利用人口が今なお増加中のインドは、GAFAにとっても今後の成長に死活的に重要な市場だ。思わぬところで湧いてきた反プラットフォーマー運動への対応が注目される。
(編集委員 小柳建彦)
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