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「スガノミクス」の規制改革で日本企業は変わる

広木隆のザ・相場道

安倍晋三前政権の経済政策「アベノミクス」を市場はどう見たのか。総括すれば、第1・第2の矢である金融政策、つまり総需要管理政策は成功したが、第三の矢である成長戦略は不十分だった。菅義偉首相は「アベノミクスを継承する」と宣言したが、新政権はアベノミクスがやり残した成長戦略に注力することになる。

異次元緩和に代表される金融・財政政策について、打てる手は全て打たれたという感がある。コロナ禍への対応もあり、2020年度の国の一般会計歳出は160兆円超と前年度に比べ約6割も膨張した。ただ、金融・財政政策は限界に近い。政権は今後、おのずと成長戦略に向き合わざるを得ない。

菅政権で高まる規制改革への期待

しかし、それは単なる消去法的選択ではない。規制改革を志向する菅首相にとっては、この状況は望むところだろう。

菅首相は縦割り行政や携帯電話3社の寡占体制がもたらした弊害に触れ、「規制改革を政権のど真ん中に置く」と語った。民間企業の競争を促し消費者の利便性を向上させるとともに、企業の新陳代謝を高め経済を活性化させる。それが菅政権による成長戦略の中核だ。

規制改革は長きにわたってその必要性が叫ばれてきたが、一向に進まなかった。それは首相が頻繁に交代していたからだ。内閣は本来官僚に対しにらみを利かせ、規制改革の旗振り役とならねばならない。しかしそれが頻繁に代わっては規制改革など進みようがない。

本来なら長期政権となった安倍政権下でもっと規制改革が進んでもよかった。しかし前述したように第3の矢は不発に終わり、宿題は菅政権に持ち越されたのである。

菅政権でこの規制改革が進む期待がある。菅首相は官僚をうまく使いながら国益を増大させるしかないとの持論がある。実際、菅首相の著書『政治家の覚悟』のサブタイトルは「官僚を動かせ」だ。安倍政権時代に築いた官邸主導の政治体制がそれを可能にするだろう。

「菅首相のアプローチは、小泉純一郎元首相に近い」という声もある。確かに菅首相の「省庁の縦割りをぶち壊す」という言葉は、小泉氏のキャッチフレーズ「自民党をぶっ壊す」に通じる面がある。だが、決定的に違うのは改革の本丸の不在だ。小泉改革には「郵政民営化」という目玉政策があったが、菅政権はより広範だ。

菅首相の「スガノミクス」はアベノミクスとも違う。「経済再生・デフレ脱却」というマクロ目標を掲げたのがアベノミクスとするなら、スガノミクスは携帯料金値下げや地銀再編など、より個別でミクロ的な政策を重視している。

スガノミクスで新陳代謝は加速へ

それは悪いことではなく、むしろ逆だ。個別案件の積み重ねという「ヒット」は、郵政民営化やデフレ脱却といった「ホームラン」より成果が出やすい。そのヒットの積み重ねが大きな成果となり、進まなかった規制改革を進めるだろう。

早速成果は見え始めた。NTTNTTドコモを完全子会社化すると発表したが、この背景の一つには菅首相が求める携帯料金引き下げがあったといわれる。シングルヒットでも4兆円規模の企業再編劇を生むのだ。スガノミクスの規制改革で日本企業が変わる事例が積み上がれば、海外投資家からの資金流入も加速するだろう。

菅政権の肝煎り政策がデジタル庁の創設だ。日本が向かう先は、様々な分野で規制緩和が進み、同時にデジタル化が加速する社会だ。そこから導き出される答えの一つは、新技術で社会を便利にする新興のテクノロジー企業が活躍する場が増えるということだ。その期待がIPO(新規株式公開)企業や東証マザーズの伸びに表れている。

規制改革への市場の期待は、史上最高値を更新した日経500種平均株価にも出ている。この指数は日経平均株価より構成銘柄の入れ替えが頻繁に行われているため、産業構造の変化が反映されやすい。この「勝ち組インデックス」が最高値ということは、産業構造が一段と変わる期待の強さを示している。

規制緩和とデジタル化が加速すれば、企業間の優勝劣敗は明確になる。米国の「GAFAM」を見ても分かる通り、コロナ禍では強い者がさらに強くなる。その中で推進されるスガノミクスは、既存の勝ち組企業と新興ハイテク企業の隆盛を後押しし、企業の新陳代謝を加速させることになるだろう。

2020年度の日経平均予想
2万3000~2万6000円
【ここに注目】
4~9月期決算発表で業績の底入れを確認。米大統領選後は不透明材料がなくなり年末株高へ。
広木 隆(ひろき・たかし)
国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。2010年からマネックス証券で顧客向けに情報を発信。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評がある。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。

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