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「半沢直樹」で久々注目 銀行、就活人気の倍返しは?

就活探偵団

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

この夏、TBS系で放映されたテレビドラマ「半沢直樹」が大きな話題になった。正義感の強い銀行員の主人公が闇を抱える巨大権力に立ち向かい、問題を次々に解決していく姿に爽快感を覚えた人も多かっただろう。一方でそこにはドロドロの人間模様も描かれていた。「本当にドラマのようになっているのか」と銀行自体を冷めた目で見る人もいるようだ。かつて就職先で花形とも言われた銀行は今、どうなっているのか。就活探偵団が探った。

「全体的にリアルに描かれていたが、違うところも結構あった」。あるメガバンク入行4年目の田中英太さん(仮名、28)は、同じバンカーである半沢直樹がドラマでどのように振る舞っているのか気になり、全編を細部にわたってウオッチした。

「出向を命ずる!」。劇中では常務などの上司が人事権を振りかざし、敵を追い落とす場面が数多く描かれる。しかし「人事権を盾に権力を振りかざすことはない」と一蹴する。左遷の代名詞として描かれた出向についても「キャリアの途中で経験を積むため、自ら希望する人も多い」のが実情のようだ。

親会社である「東京中央銀行」の行員がグループ会社「東京セントラル証券」の社員を露骨に見下すようなことも現実には起こらないという。「証券会社やリース会社の社員と一緒に顧客を回ることも多い」

居酒屋や料亭などで人目をはばからず融資の裏事情や社内政治を語る場面も多かった。これも現実には起こりそうもない。メガバンク入行1年目の畑中翔平さん(仮名、23)は「居酒屋などでは仕事の話をするのはご法度だと、新人研修で最初に言われた」と話す。

派閥争い、出世にも影響?

一方でリアルを感じさせる場面もあったようだ。劇中の銀行は「東京第一銀行」と「産業中央銀行」という大手都市銀行が合併してできた。現在でも「旧T(ティー)」や「旧S(エス)」と出身銀行の派閥に分かれ、派閥同士の争いが繰り広げられるという設定だ。

現実にもメガバンク3行はいずれも複数の銀行の合併によって生まれた。畑中さんは「今でも上層部の間では『どの銀行出身なのか』という会話が頻繁にあり派閥意識は残っている」と推測する。

畑中さんが出席した新人研修では「なぜ役員になれたと思うか」との質問に役員が「わからない。7割が運だと思う」と回答。畑中さんは「同じ派閥の上司が出世したから、その人も出世できたのでは」といぶかる。

ドラマを見た学生たちはどう感じたのか。あるメガバンクに内定した男子大学生は「半沢のように、自分の正義を泥臭く貫き通せる銀行員になりたい」と意気込む。学生時代に起業経験があり、資金集めに奔走。泥臭く熱意を伝えるうちに、事業を手伝ってくれる人に出会ったといい、半沢の粘り強さに自身の過去を照らし合わせる。

2013年放映の前回シーズンも含めて全話見てきたという早稲田大3年の男子学生は「このドラマを見て銀行志望になった。幅広い業界に身を置き、人とのつながりを大切にしながら仕事に携われるのが銀行員の魅力だ」と訴える。

しかし、そんな学生は一部なのかもしれない。2021年卒の学生を対象に実施したマイナビの「就職企業人気ランキング」によると、文系で最上位のメガバンクは三菱UFJ銀行で21位。三井住友銀行が35位、みずほフィナンシャルグループが58位だった。ほんの数年前までは上位の常連だったが様変わりした。

別の早稲田大3年の女子学生は「ドラマに影響されてか、メガバンクは何でもトップダウンで、自分の希望がかなわないイメージだ」と敬遠する。少子高齢化や長引く低金利の影響を受け、収益構造が悪化する銀行業界。就職先としての魅力を高めるためにも、メガバンクは旧来のイメージを脱し進化を遂げようとしている。

「社内兼業」を奨励も

硬直した人事制度にメスを入れたのはみずほフィナンシャルグループだ。19年4月に「新人事戦略」を策定。社員の成長や希望の仕事に応じて配置するのが特徴だという。

担当業務を手がけながら、興味ある業務やプロジェクトに手を挙げて参加できる「社内兼業」制度を始め、85人が活用する。応募者の36%を20代社員が占め、若手にも活躍の機会を与える。採用チーム次長の藤井秀明氏は「社員のバリュー(価値)を最大化したい」と意気込む。

フィンテックなどデジタル化も銀行業界が直面する大きな課題だ。三井住友銀行は19年入社からは総合職に「デジタライゼーションコース」を設け、主に大学院卒の理系学生を毎年約5人ずつ採用している。入社して半年から3年までの間に、デジタル系の部署に必ず配属される。

銀行はフィンテック分野のスタートアップ企業からの圧力を受けつつある。それでも「銀行には顧客との信頼をベースに培ってきた情報やネットワークなど、価値ある資産がある」(人事部採用グループ長の持田恭平氏)と分析する。

三菱UFJ銀行は専門部署「デジタル企画部」を作った。「若手も活躍できる人気の部署だ」(同行)といい、2~3年目の行員も在籍する。

19年からは「デジタルインターンシップ」として人工知能(AI)を用いたサービスや、デジタル技術を使用した新規事業を企画する有給の長期インターンシップを開く。採用面接でもデジタル企画部を志望する学生が多いという。

就活

転換期を迎えた銀行の実情を映すように、就活生の意識の変化も感じ取る。あるメガバンクの採用担当者は「これまでのように『メガバンクに入れば安泰だ』というマインドで入ってくる人は少ない」と語る。

メガバンク入行1年目の男性は「国内で稼ぐのは非常に厳しい」とみる。かつては本店の営業担当が出世コースだったが「今ではデジタル関係の部署が花形になっている」と明かす。

ドラマが描く世界はもちろんフィクションだ。それでも銀行にはいまだに保守的で硬直的、内向きな印象がつきまとうのは確か。人事のあり方を変え、新しい事業に果敢に挑み、これまでのイメージを打破することは、将来を担う若い人材をひき付ける上でも欠かせない。

メガバンクをはじめとする銀行は、就活をくぐり活躍の場を求めてくる若手の期待に「倍返し」できるだろうか。

(企業報道部 仲井成志、鈴木洋介)

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