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水はけも弾力も 甲子園球場の土、配合の妙

とことん調査隊

高校球児の憧れである甲子園球場(兵庫県西宮市)の土。今年、春夏の甲子園大会が中止となり、阪神球団などが全国の高校3年生の球児らに土入りのキーホルダーを配布したことで話題を集めた。甲子園の土といえば抜群の水はけで知られるが、少々の雨なら問題にしない理由は何か。また、どこから運ばれてくるものなのか。

甲子園のグラウンド整備を手掛ける阪神園芸(同市)の金沢健児・甲子園施設部長によると、現在の甲子園の土は鹿児島県志布志市の黒土と京都府城陽市の砂を6対4の割合でブレンドし、内野一面に約30センチの深さで敷き詰めている。土の下は砂利の層になっているという。

土の総重量は700~800トン。土は雨で流出し、風で飛ばされもするほか、例年多くの球児が持ち帰るため毎年10トン程度を追加。春夏の高校野球で一塁側、三塁側の仮設ブルペンをつくる際に使った土を大会後に補充している。

黒土、砂ともに産地は何度も変遷している。金沢さんが入社した1988年は黒土が大分産だったが、かつては岡山産なども使われた。90年代前半に鳥取産に変わり、現在の鹿児島産になったのは90年代後半だ。砂は以前は地元の香櫨園浜(同市)で採取していたが、88年前後に中国・福建省産に。甲子園球場が改装した2009年ごろから現在の京都産になったという。

産地の変更には、採取ができなくなったことなど様々な背景があるという。切り替えの際はサンプルを取り寄せて手触りなどを確かめ、似た土と砂を採用してきた。こうして質を維持し続けてきた甲子園の土。取り寄せた後は「管理ノウハウが重要になる」と金沢さんは説明する。

火山灰を主成分とし、山や畑で採取できる黒土。粒子が細かく、よく水を含む性質を持つ。黒土が適度な量の水を含むと野球のプレーに適した弾力になるが、水の量が多すぎるとぬかるむほか、水を通さなくなる。砂は水はけがいい一方、砂だけでは走りにくく、ボールも転がりにくい。「砂浜で走りにくいのをイメージしてもらえば分かると思う」(金沢さん)

そこで黒土と砂を混ぜ、双方の性質のいいとこ取りをしている。黒土が水を適度に含み程よい弾力になることで、乾ききった状態よりも打球速度が遅くなり、内野手が守りやすくなる。試合前にホースで散水するのはこのためだ。一方、大雨が降ってもすぐに水がはけるのは砂が混ざっているおかげ。「黒土6、砂4」は弾力性と水はけのよさを両立できるとして、経験則から導き出した最適な比率だ。

9月上旬の巨人戦の試合前に突然、大雨が降った。午後4時25分にグラウンドは水浸しとなったが、雨脚が弱くなると5時前には水が引き始めた。さらに約30分後、雨がやむと目立った水たまりは二塁ベース後方だけに。少々の雨なら試合を成立させる阪神園芸のグラウンド整備術は、土づくりがベースにある。

雨や散水によって粒子の小さい黒土が下に潜り込み、砂が表面に浮き出てくる。そこで毎年1~2月に深さ30センチの大半を掘り返す「天地返し」と呼ばれる作業を実施する。黒土と砂のバランスを元に戻すことで、野球に適した土によみがえらせている。

土の整備では現場の要望に合わせることもある。俊足の赤星憲広選手が活躍した00年代、阪神の監督やコーチを務めた岡田彰布氏の依頼で一塁と二塁を結ぶ動線の土を通常より固くし、盗塁がしやすいようにしていた。金沢さんは「土を固めると打球が速くなって守りにくくなるため、赤星選手は二塁手が守る手前は固めなくていいと我々に申し出た。チームメートの守備を心配していた姿が印象深い」。こうした裏話を聞くと、甲子園の土の見方ががらりと変わってくる。(田村城)

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