「大戸屋には変革が必要」 株を売却した創業家三森氏

日経ビジネス
2020/10/14 2:00
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三森智仁氏は創業家出身。コロワイドに大戸屋HD株を売却し今回、取締役候補になっている

三森智仁氏は創業家出身。コロワイドに大戸屋HD株を売却し今回、取締役候補になっている

日経ビジネス電子版

9月9日、外食大手、コロワイドによる大戸屋ホールディングス(HD)へのTOB(株式公開買い付け)が成立した。コロワイドは創業家から昨年取得した大戸屋HD株を土台に、今回のTOBで持ち株比率が46.77%に高まった。これを受けてコロワイドが開催を求めた臨時株主総会では、経営陣を刷新する取締役選任議案を諮る。取締役候補には大戸屋HDの実質的な創業者である三森久実氏の長男で、かつて同社の常務を務めた三森智仁氏が名を連ねた。そもそも創業家はなぜコロワイドに株を託したのか。智仁氏に聞いた。

――創業家として保有していた19%弱の大戸屋HD株の売却を考えたきっかけはなんだったのですか。

「2015年に亡くなった父(久実氏)の遺産を承継するために相続税を納める必要がありました。創業家として株を守る必要があったので、大戸屋HDの保有株を1つも手放さずに遺産を相続したかったのですが、そのために必要な資金が4億円ほど不足していました。相続のために、母(久実氏の妻・三枝子氏)の保有株を担保に金融機関から4億円の融資を受けていたのです。その返済のために株の売却を考えた、というのがきっかけでした」

――久実氏への「功労金」の支払額を巡って、創業家と現経営陣は対立し、16年に「お家騒動」に発展しました。当初8億円ともいわれていた功労金は結局、17年の株主総会で2億円の支給が決議されましたが、それも関係しているのでしょうか。

「『功労金』の2億円も半分ほどは相続税として国に納める必要がありました。残りは1億円。これでは融資を受けた4億円の返済には足りません。金融機関としては、『功労金で融資は返済されるだろう』という見通しもあったのでしょうね。功労金の支給額が確定してからは『どのように(4億円を)返済するのか』いう圧力が強まりました。それで残りの3億円をどうするのか、考える必要に迫られたというわけです。そこで当初は3億円分の株式の売却を考え始めました」

――当初は大戸屋HD側に自社株買いを提案していたと聞いています。

「最初は大戸屋HDの現経営陣にコンタクトを取りました。それまで、コミュニケーションが取れていませんでしたから、金融機関を間に入れて最初に現経営陣と会ったのが18年の夏ごろです。結局は正式に自社株買いを進めるという段階まで話は至りませんでしたが」

――当初は大戸屋HDに株の売却を検討していて、それも3億円分だけだった。それがどんな理由で創業家として保有する19%弱の株を売却するという方針に転換したのですか。

「きっかけは19年2月にあったバイトテロ(従業員が不適切動画をSNSに投稿していたことが発覚した問題)です。今後大戸屋に、より大きな問題が押し寄せる前触れなのではないかと感じたのです。当初、大戸屋HDの現経営陣からはバイトテロについて何の説明もなく、私はネットニュース、母はテレビの報道で問題を知りました。それまでの5年近く、業績も悪く、こちらには決算の説明にも1度も来なかったこともあって、母は『これ以上株を保有し続ける自信がない』と漏らすようになりました。株を一括で手放そうと考え出したのはそれからです」

「あとは正直、筆頭株主といっても保有比率が2割弱では現経営陣をけん制することもできない。株主としての権利をしっかりと行使できるところに創業家の株を保有してもらったほうが、大戸屋の将来にとってもいいのではないかと思いました。創業家として株を買い増すことも現実的ではないですから」

「バイトテロが起きた後にも、大戸屋HDの現経営陣とは会いましたが、その頃にはもう当初のように3億円分を売却するという気持ちではなく、まとめて株を売却したい意向も伝えました。先方(現経営陣)は『難しい』という態度でした。創業家としての保有株は当時の時価で25億円以上でしたから、大戸屋HDの財務状況では自社株買いはどの道、難しかったのだと思います」

――その後、他社への売却に動き出したということですか。

「19年春ごろ、証券会社を通じて同業の外食や食品関係の企業など10社ほどをリストアップしてもらい、それを基に大戸屋HDの経営陣に『リストの中に適切な売却先があれば選んでほしい。無ければ、そちらから他に適切な企業を教えてほしい』と伝えました」

「でも、大戸屋側からは『適切な企業はリストにはなく、他に適切な企業も現時点ではない。株の売却は株主の自由である』という旨の回答を証券会社を通じて伝えられたのです。『それなら、自分で関心のある会社と話を進めてみよう』と思い、5月ごろから動き出しました」

「最終的に売却先となったコロワイドとは、もともと私が現在手掛けている事業でのお付き合いがありました。お話をしている中で、コロワイドの野尻公平社長から『日本一の定食屋にするから(株を)託してほしい』と言われました。母も野尻社長と会って『この方に託したい』という気持ちになり、売却を決意したのが6月ごろでした」

■すべてをぶっ壊すのではない

――コロワイドによるTOBの成立を受けて11月4日に開かれる予定の臨時株主総会では、経営陣を刷新するコロワイドの株主提案が審議されます。取締役選任議案には三森さんも候補として名を連ねていますが、これはいつごろ打診されたのですか。

「今年の1月に野尻社長から声をかけていただきました。6月に開いた大戸屋HDの定時株主総会で、取締役を刷新する株主提案をコロワイドが提出することを聞かされていました。その話を進めていく中で、取締役として来てほしいと言われました。大戸屋の創業理念を継承するほか、超高齢化社会に対応する新規事業として、私がトップを務めるスリーフォレスト(東京・新宿)のノウハウがほしいということでした」

「スリーフォレストは高齢者施設向けの食事の宅配などを手掛けています。コロワイドも今後は給食や病院食事業に注力するということでしたから、そこでお役に立てればいいですね」

コロワイド傘下に入ることで、セントラルキッチンの導入など経営の見直しが始まる

コロワイド傘下に入ることで、セントラルキッチンの導入など経営の見直しが始まる

――コロワイドは大戸屋を買収した後、セントラルキッチンを導入することを明らかにしています。買収に至るまでの一連の動きは「店内調理の大戸屋VSセントラルキッチンのコロワイド」という対立構図で報じられることもありました。三森さん自身はセントラルキッチンの導入の是非についてどうお考えですか。

「父は1店舗だった大戸屋を400店舗以上まで増やすにあたってセントラルキッチンを導入しませんでした。ただ、時代はその頃と大きく変わっています。労務環境にメスを入れる必要があることは大戸屋のお客さんも感じていることでしょう。大戸屋も今ではカット野菜を導入しているようですし、セントラルキッチンの導入は時代の流れだと思います」

「そして、大戸屋にはゼロからセントラルキッチンを立ち上げるノウハウも時間もありません。コロワイドも全て(の工程)をセントラルキッチンで行うべきだというような主張をしているわけではない。『手作りがうまいのは当たり前』という(大戸屋の現経営陣側の)印象操作があると感じましたね」

「変えていい部分、守り続けなければいけない部分を選別すべきだと思います。最後はお客さんが判断することですが、セントラルキッチンを導入して味も栄養価も変わらないというのであれば、現状の店内調理に変化が必要であることは明らかです。食材の加工技術も昔に比べれば進歩していますし、セントラルキッチンの導入など大戸屋も新たなことにトライすべき時期を迎えています」

「コロワイドに今の大戸屋の全てをぶっ壊すというつもりがないことは、私が取締役選任議案に名を連ねていることからも明らかでしょう。11月以降、お客さんにもそれが分かってもらえると思います」

――創業者が亡くなって以降、大戸屋の業績は年々下降線をたどっています。変化が必要であることは確かでしょうね。

「会社を離れてからも、私は毎日大戸屋に通い続けています。でも、一時は看板を見ることがつらいと感じることもありました。それはQSC(クオリティー、サービス、クレンリネス)や価格、雰囲気に変化が出たことで『大戸屋は変わってしまった』と、大戸屋からお客さんの心が離れてしまっていると感じていたからです。私自身、会社を去ってからもずっと危機感を持ち続けていました」

――お家騒動からTOBまで5年。紆余(うよ)曲折あり、大戸屋はコロワイドの傘下に入ることになりました。今はどんな気持ちですか。

「父が生きていればこんなことにはなっていなかったかもしれないですね。『ああしていれば買収されることはなかった』といった仮定の話は考えることも難しいですが、こう帰結する運命だったのではないでしょうか」

――将来的な話として、大戸屋の経営で再び中心的な役割を担うつもりはあるのですか。

「それは私が決めることではないのでノーコメントですね。大戸屋の看板が残ることになったのは純粋にうれしいですから、その一翼を担えるようにはなりたいと思っています。『こんな手法を使って、大戸屋に戻ってきた』などとネガティブな見方をする人もいるでしょうが、この立場に固執しているということは全くないです。『必要ない』と言われれば、それまでですし。創業精神の継承など、期待されていることについては力を発揮できればと思います」

――現経営陣について、どんな感情を持っていますか。

「大戸屋が今後どうなるか、どうすればお客さんの期待にこたえられるのか、私なりに考えていたことを否定されたので16年には会社を去ることになりました。でも、今の取締役の人たちがいなくなることについては特に何の感情もありません。今更何を言っても仕方のないことですから。そこに感情は必要ないと思います。今はコロワイドと一緒に、いやコロワイド主導で業績をV字回復させて、お客さんの支持をいただき、社員にも還元する。それに向かって尽力することが肝要です」

(日経ビジネス 神田啓晴)

[日経ビジネス電子版2020年10月12日の記事を再構成]

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