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「広域避難」どこへ、どうやって 19年台風19号の宿題

(更新)
台風19号による大雨で広域避難を実施した埼玉県加須市では渋滞が発生した(2019年10月13日未明)=同市提供

2019年の台風19号上陸から12日で1年。東日本に深刻な被害をもたらした巨大台風は、自治体をまたいだ「広域避難」を現実の課題として浮かび上がらせた。災害発生が不確実な段階で多数の住民をどこへ、どうやって逃がすのか。従来の枠組みを超えた制度づくりが必要となっている。

台風19号が関東を北上した19年10月13日未明。埼玉県加須市の県道では、避難所へ向かう車の列が約10キロにわたって続いた。利根川の水位上昇を受け、市は浸水想定区域に住む約3万人に初めて広域避難を呼びかけ、約9500人が一斉に市内外の避難所に向かった。

結果的に水害は起きなかったが、市が後日実施したアンケート調査では、避難した4人に1人は避難所到着までに2時間以上かかり、渋滞を理由に避難を諦めたケースもあった。

市は20年5月にまとめた報告書で、幹線道路に車が集中しないよう住んでいる地区ごとに避難経路を細かく設定。7月以降、計46回にわたって住民説明会を開くなど「次」への備えを急ぐ。

台風19号の際は東京都東部の江東5区(墨田、江東、足立、葛飾、江戸川)でも、荒川の水位上昇などを受けて広域避難が一時検討された。

5区の大部分は満潮位より低い「ゼロメートル地帯」。最悪の場合、深いところで約10メートルの浸水が2週間以上続くと見込まれている。5区が18年に策定した計画では、区外への避難を呼びかける対象住民は最大約250万人に上る。

大規模水害の際は近隣の自治体でも被災の恐れがある。台風19号を機に改めて「住民はどこに避難すればいいのか」という課題がクローズアップされることになった。

5区のうち江戸川区は、東北や中部地方など遠方の自治体に避難受け入れを打診することも検討している。だが、避難先が遠くなればより早期の避難が必要となる。「災害発生が不確実な段階で実施するには影響が大きすぎる」と区の担当者は頭を抱える。

災害対策基本法は災害発生後に他の市区町村の住民を受け入れる「広域一時滞在」を規定しているだけで、発生前の広域避難を想定していない。15年の関東・東北豪雨を機に三大都市圏の荒川、木曽川、淀川流域などで広域避難の検討は進んできたが、自治体主導での計画・対応には限界が見えてきた。

19年の台風災害に関する政府の検証チームは3月、大規模広域避難の仕組みづくりの検討が必要とする報告書をまとめた。国が自治体間や公共交通機関の調整などを担えるようにするため、災害の発生を待たず、発生の恐れがある段階で国の対策本部を設置できるよう災害対策基本法を改正する方向となっている。

気候変動を背景に水害の大規模・広域化が懸念されており、米国では17年に大型ハリケーンが襲来した際、避難命令を受けてフロリダ州の600万人以上が州内外に避難した例がある。

兵庫県立大の木村玲欧教授(防災学)は「避難先となる自治体との連携や移動手段の確保など、乗り越えるべき課題は多い。高層階の住民は自宅にとどまり、高齢者や低層階の住民を優先して域外に逃がすなど、避難全体のあり方から考えていく必要がある」と話している。

(朝倉侑平)

2019年の台風19号


 19年10月12日午後7時前、大型の強い勢力で静岡県の伊豆半島に上陸し、13日未明にかけて関東地方を通過した。各地で記録的大雨となり、気象庁は13都県に大雨特別警報を発表。阿武隈川や千曲川など多数の河川で堤防が決壊した。総務省消防庁によると、災害関連死を含め104人が死亡、3人が行方不明となった。14都県の390市区町村に災害救助法が適用された。

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