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自浄作用なき相場 調整後は新産業の芽も(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信会長

投資業界のカリスマの一人、澤上篤人氏が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

説明がつかない米国の株価

澤上篤人(以下、澤上) ひと頃ほどではないが、米ハイテク企業の株価上昇がすさまじい。市場参加者は異口同音に「バブルではない」と言っているが、そういった過信ぶりこそ、まさにバブルの証しなのだがね。米ナスダック市場などのすさまじい高値追いに「一体どこまで上がるのだろう」と思った読者も多いのではないかな。それにしても、市場関係者や投資家は、やたらと強気なことを言っている。

草刈貴弘(以下、草刈) ナスダックの勢いもすごいですが、S&P500種株価指数もすごいと思います。なんだかんだで史上最高値を更新していますから。9月に入ってから多少、調整しましたが、ここぞとばかりに買おうと思っている人が殺到している感じでした。

指数が勢いよく上昇していますが、全体の株価が上がっているというより特定の企業の株価が指数を押し上げているのが実態です。コロナ禍で仕事も買い物もネットの比重が高まりましたから、EC(電子商取引)関連、情報通信関連、その周辺のハードウエア関連などが注目されるのは分かりますが、本当にごく一部の企業の株価がとんでもなく上昇しています。

澤上 そういった株高大歓迎の賛歌が聞こえてくるというのは、バブル相場も最終局面が近いというシグナルなのだろうね。いつのバブルもそうだが、バブルがはじけた後になって「あれはバブルだった」という話になる。もちろん、その話をする頃には株価大暴落で全員大損してしまっているがね。

草刈 一部報道によると、S&P500の構成企業の経営幹部が9月から株を売りまくっているそうです。その額なんと1000億円。自社の事業環境を一番理解している幹部たちの行動だと考えると複雑な気持ちになります。「うちの株価は高過ぎるのではないか」と思っている経営幹部がたくさんいるということを示唆しているのではないでしょうか。

バブルがはじけた後に残るのは?

草刈 ナスダックに話を戻しますが、2020年の話題株は何といっても米テスラですね。そして米ニコラ。共に次世代自動車メーカーになるわけですが、とんでもない株価になりました。ニコラは特別買収目的会社を使っての上場で、まだ1台もトラックを売っていないにもかかわらずです。

コーポレートファイナンスで有名な米ニューヨーク大学のアスワス・ダモダラン教授は、ニコラはテスラが割安に見えるために存在しているようなものだ、と2社とも切って捨てていました。

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上面白いねえ。普通、そういった話はバブルがはじけてから「実はね」と言って語り草になるものだ。今回はバブルの真っ最中に話題となっていて、それを投資家が皆で笑い飛ばしている。

これなどは「先進国を中心に各国はまだまだ金融緩和を続けるぞ」と皆が確信しているからなのだろう。ゼロ金利もカネ余りも、まだまだ続く。従って、この株高は崩れっこないと安心し切っているのではないかな。

ただ、恐らく、そう遠くない先に、このカネ余りが演出するすさまじい株高は大崩れとなるだろう。その時、今、高値を追っている企業のうち何社が生き残り、高成長企業として買われ続けるだろうか。

案外、主役交代が起きるのではないかな。実態とは関係なく、株価上昇の勢いが高成長企業としての幻想を創り出していた。そういった事象はよくあることだよ。

かつての高成長企業が主役の座を譲り、バブル後の経済成長を担う企業群が台頭してくる。我々長期投資家が今から焦点を当てているのは、そういった企業群である。

草刈 もはや誰がどのような基準で評価しているのか分からないほど株価が上昇している企業は、いずれ調整するしかないと思います。ただ、やはり高い評価になる理由はありますよね。

アマゾン・ドット・コムはこの10年間、売上高を毎年20%成長させています。あれだけ巨大な企業になっているのにです。米アルファベットや米フェイスブックも同様です。売上高が巨大で、利益率も高い企業がこのペースで成長を続けているのは恐ろしいことです。

結局、その分野で激しい競争が起きていないということなのでしょう。新規参入がほぼなく、独占状態で成長を続けてきた。他の産業分野では考えられません。ですが、その理屈で株価が上がり続けるのを正当化するのは、もう難しくなると思います。

澤上 ひとつ、ハッキリしていることがある。例えばアマゾンのような驚異的な高成長企業も、バブルが崩れた時、株価はドスーンと下がる。そして大きく売り込まれた水準から、新しい株価の上昇が始まることになる。

カネ余りの株高バブルは吹き飛んでしまい、新しい上昇相場では、その企業の将来の可能性を織り込んだ水準の株価となっていこう。いわゆる実力相場というのに移行していくはずだよ。

大きな調整で市場は本来の姿に

草刈 リーマン・ショック後の10年間、凸凹がありながらも株価は上昇してきました。中央銀行からの巨額のマネー供給で金利が抑えられたことや為替の是正が大きかったと思います。

問題は市場の自浄作用が損なわれ、新陳代謝が働かなくなってしまったことです。駄目な企業が淘汰されなくなってしまった。成長には無頓着、現状に対する危機感も薄い。そんな駄目経営者でも、それなりに企業のかじ取りができてしまいましたから。

大きな調整や、それによって本来、市場が持つ機能が復元されるのは、とても意味のあることだと思います。早くそうなってほしいという願望さえあります。

加えて大きな暴落の後、新しい産業の芽が生まれるのも楽しみではあります。この10年間はスマートフォンでしたが、次の主役は自動運転なのかドローンなのか次世代エネルギー自動車なのか、エネルギーそのものか。こういった次の時代を見据えておくという作業も長期投資の醍醐味ですね。

澤上 まさしくだよ。それから市場が持つ自浄作用だけど、その機能を国や中央銀行が踏みにじってきた。しかも、ここ10年ほどで、どんどんひどくなっている。いずれ世界全体がしっぺ返しを食らうことになるだろう。

草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2020年12月号の記事を再構成]

日経マネー 2020年11月号 年末高の波に乗れ! 年後半の稼ぎ方&勝負株

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/9/19)
価格 : 750円(税込み)

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