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羽根で装う虫の脚 兵庫県西脇市の播州毛鉤

匠と巧

虫の脚をまねた「ミノ毛」は指の爪を針先に当てながら均一に並んでいるか確認する=笹津敏暉撮影

いかに魚を欺き針に食いつかせるかは、釣りの醍醐味の一つだろう。江戸時代にはすでに、装飾を施して水生昆虫に似せた毛針を使っていたという。中でも兵庫県西脇市で作る「播州毛鉤(けばり)」は実用性と芸術性を兼ね備え、国の伝統的工芸品に指定されている。横山禧一さん(77)は技を受け継ぐ一人。1センチメートルに満たない針に命を吹き込んでいく。

山あいを流れる加古川のそば。集落の一角に横山さんの自宅兼作業場がある。10畳ほどの作業場の中央に置いた大きな机には、毛針の製作に使う工具や色とりどりの鳥の羽根がずらりと並んでいた。製作歴は50年を超える。

ヤマメやオイカワなど様々な川魚に合わせ毛針を作るが、伝統的工芸品はアユ用だけ。大きさが8ミリメートルほどと小さく工程が複雑、高い技術が求められるためという。「200以上ある全国の伝統的工芸品の中でも最小ではないか」と横山さん。J字形の針を精巧に飾り付け、カゲロウやカワゲラなどの幼虫を模す。

飾りの肝はスズメやクジャク、ヤマドリといった鳥の羽根だ。ペンチのような道具の先端に針を固定して、指先の感覚を研ぎ澄ませて羽根を巻く。虫の胴体にあたる針の中央部分は複数の種類の鳥の羽根をらせん状に巻き付ける。

最も熟練の技が必要なのは名古屋コーチンの雄の腰毛を使って虫の脚をまねる工程だ。脚の数に合わせて先端がきれいに6つに分かれるように、羽根を巻く角度や絹糸による締め具合に細心の注意を払う。「角度をつけすぎるとうまくいかない。経験と勘が頼り」

金箔や漆による細工を含め1つ作るのに十数分。1日で50~60本を作ることもある。全国の釣り具問屋に卸し、店頭には1つ数百円と手ごろな価格で並ぶ。様々な種類の針をずらりと並べて装飾品の形で飾りたいという声もあるが、「人から見て美しくても魚が釣れるとは限らない」と笑う。

水質や天候、季節に応じて色や形は500種類を超える。流れが澄んでいる時は地味な色の「黒髪」や「二日月」、深場なら派手な「赤熊」や「暗ガラス」を釣り人は好む。各地の川に足を運び、現場の生の声を新たな針の開発に生かす。昨年は緑色の帯がアクセントの「令和」を発表した。

西脇市の毛針づくりは200年以上の歴史がある。京都から職人を呼び寄せたのが始まりで、農閑期の副業として広がった。明治時代に水産博覧会などを通じて全国で評価を高め、現在は国内の毛針の生産量のうち9割のシェアを誇る。

釣り人の間では知られた播州毛鉤だが、後継者不足は深刻だ。製作ノウハウを持つ伝統工芸士は5人のみで、4人は70歳を超える。技の習得には最低5年かかるとされるが、弟子入りしている人はいない。

それでも、小学校への出張授業など魅力を伝える活動は続く。「令和も次の時代も播州毛鉤が西脇の誇りであり続けてほしい」。横山さんは願っている。(苅野聡祐)

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