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米大統領選、最高裁はどう出るか(The Economist)

The Economist

トランプ米大統領は9月23日の会見で、「(大統領選の結果は)連邦最高裁に持ち込まれることになるだろう」と述べ、同29日の民主党のバイデン大統領候補との第1回テレビ討論会でも同じ趣旨の発言を繰り返した。

23日の会見では大統領選挙前に「最高裁判事が9人そろうことが非常に重要だ」とも語り、「票集計の判断を(最高裁判事に)託す」との考えも示した。世論調査による全米支持率ではバイデン氏に9ポイントの差をあけられたままのトランプ氏は、根拠も示さずに郵便投票は信頼できないと批判し、選挙で負けた場合に平和的な政権移行を約束することも拒否している。

トランプ氏は自分が敗北しそうになったら何がなんでも最高裁に持ち込むつもりとされる=ロイター

そこには投票日の11月3日にもし明らかな勝利を収められなかった場合には、米最高裁が救いの手を差し伸べてくれるとの考えがある。だが、たとえ先に死去したギンズバーグ連邦最高裁判事の後任にトランプ氏が指名した保守派のエイミー・バレット氏を大統領選前に最高裁に送り込めたとしても、最高裁が最後は自分を助けてくれるというトランプ氏の期待通りにはならないかもしれない(編集注:10月9日時点で共和党上院議員3人の新型コロナ感染が確認されているが、大統領選投票日前にこの3人が回復し、かつさらに感染者が共和党上院議員から出なければ、バレット氏承認投票が行われる可能性はあるとされる)。

トランプ氏は何としても最高裁に持ち込む意向

(バレット氏も承認された場合)トランプ氏が指名した最高裁判事は3人になるが、それでも最高裁が同氏の再選を阻むのではないかと考えられる理由が複数ある(編集注、バレット氏が大統領選前に承認されなかった場合には、最高裁判事全8人のうち5人が保守派、同氏が承認されると9人中6人が保守派となる)。

第1は、2000年の大統領選で共和党のブッシュ(子)候補と民主党のゴア候補が大統領選の結果を巡って法廷闘争を繰り広げ、投票から36日後に最高裁がブッシュ氏勝利への道を開いた例は今回の選挙の参考にはならないからだ。

あの時はフロリダ州の25人(当時)の選挙人票を巡って大接戦となったが、今回はそうなる可能性は低い。エコノミスト誌の予測モデルでは現在、バイデン氏が全米538人の選挙人のうち335人を獲得して勝つとみており、接戦にはなりそうもない。

しかし、トランプ氏は投票当日に負けが濃厚になったとしても、あるいは、莫大な量の郵便投票の集計が終わる――9月29日の討会でも結果が「確定するまで数カ月かかる可能性がある」と嘆いた――前に自分の有利が判明したとしても、あくまで最高裁に決着を持ち込む構えのようだ。

同氏は、本人いわく「前代未聞の不正」と闘うため、弁護士らを動員して自分が優勢な州の郵便票の集計を打ち切らせるつもりだ。9月29日の第1回討論会で、「民主党が支配する」州の規則では投票日から7日後に到着した不在票も集計の対象とするとしており、これは茶番だと切り捨てた。

こうした集計を巡る争いの一部法廷闘争は連邦裁判所で展開され、残りは州の裁判所で争われることになる。だが、トランプ氏はそれらの結果に不満を持てば、2016年以降、自らが判事の構成を変えてきた最高裁に結論を出すよう求めるだろう。

最高裁が再選を阻止するかもしれない理由

だがトランプ氏が最高裁にまで持ち込んでも、そのもくろみは阻まれるかもしれない。彼らが第1に忠義を尽くすべきはトランプ氏ではなく法だからだ。郵便投票で十分に問題があると考えられるケースがあれば審理が開かれる可能性はある。しかし、トランプ氏が18年の中間選挙でフロリダ州の上院選と知事選の開票過程で共和党候補の優勢が僅差になるや再集計の中止を求めた時のように、今回も集計に時間がかかりすぎだとか根拠も示さず不正があったと大声で繰り返しても、法に基づいた議論に持ち込むのは難しいだろう。

ジョン・ロバーツ最高裁長官は、そうした乏しい根拠をもってトランプ氏に勝利宣言をさせたりはしないだろう。他の最高裁判事も同じだろう。トランプ氏が既に最高裁判事に任命したゴーサッチ氏も、カバノー氏もトランプ氏の過去の財務記録を巡る訴訟で記録提出を求めていたニューヨーク州連邦検察局の訴えを今年7月、おおむね認め、中立の立場を示した。

バレット氏も、客観性を示せるかが重要なポイントになる。同氏が大統領選挙前に承認され就任したとして、そのわずか数週間前に自分を指名したトランプ氏の再選を支持する判決を下して共和党の意向に沿う姿勢を見せれば、最高裁判事としての評判に傷がつくことになる。就任直後であればなおさらだ。

そのため、バレット氏は自分には「バイアスがかかっている」と思われる可能性を排除すべく、最高裁判事としてその判決には参加しないと決めるかもしれない(編集注、判事はしかるべき理由や根拠を示せば、特定の判決に関与しない=recuse=ことが認められている)。

支援するとすれば選挙前

もし最高裁がトランプ氏を援護射撃するとすれば、それは投票の数週間前になる可能性が高い。共和党は現在、いくつもの州で郵便投票の拡大を抑え込もうとしている。

具体的には、投票用紙に記入する際に公証人を同席させることや、郵便の消印の有無に関する条件の強化、不在票の投函(とうかん)できる期間や不在票受取期間の短縮化、投票回収箱の削減、障害者といった人々が車から降りなくても投票できる場所の限定化などを巡って法廷闘争を繰り広げている。

これまで共和党の大統領が指名した最高裁判事5人は投票権の確保や、有権者の投票権を確保しつつ新型コロナウイルス感染から投票者を守るために緩和した投票ルールに関する法的な争いについて、しっかりした実績を持っているわけではない。

4月にはウィスコンシン州の予備選で郵便投票による期日を延期するという下級裁判所の判決について、この5人は否決に回った(編集注、5対4の評決で延期が認められなかったため、投票者は新型コロナがまんえんする中で投票所に足を運ばなければならなくなった)。最高裁はロードアイランド州では州裁判所による投票ルール緩和を認める判決を認めたが、アラバマ州については似た判決を覆した。

9月28日には2人の共和党議員がそれぞれ、投票日から3日後に到着した消印がない不在者投票も集計の対象とするよう命じたペンシルベニア州最高裁判所の判決を無効にすべきだとして連邦最高裁に訴えた。

連邦最高裁がこの2つのケースにどう対処するかで、トランプ陣営が今後も持ち込み続ける訴訟の行方を占えそうだ。だが、州の裁判所が認めた投票ルールの緩和を覆すことと、選挙が終わった後に票の集計に異議を唱えたり、票集計を中止させたりするのは全く別問題だ。

もしトランプ氏が負けて最高裁が救いの手を差し伸べない場合、問題は同氏がおとなしく敗北を認めるかどうかになる。9月29日の討論会では、同氏はこの点について安心できるような発言はしなかった。「今回(の選挙)は、簡単には終わらないだろう」

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. October 2, 2020 All rights reserved.

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