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ゴール遠く実況者泣かせ 京都競馬場、改修で休催へ

筆者が今年ここまで実況したビッグレースは、いずれも初めて担当するものばかりでした。春は皐月賞と日本ダービー、4日は欧州最高峰レースの1つである仏G1、凱旋門賞の実況も初めて担当しました。国際映像をモニターで見ながらの実況でしたが、画面越しにもレースの伝統や重みが伝わり、ほどよい緊張感を感じながらの実況となりました。

この秋、筆者にはもう一つ「初めて」があります。クラシック最終戦、25日の菊花賞。舞台の京都競馬場は11月1日の開催を最後に改修工事に入り、2年5カ月という長い開催休止期間に入ります。休止前最後のG1となる菊花賞の実況を初めて担当することになりました。

京都のスタンド。右がビッグスワン、左がグランドスワン

ギネスブックにも載ったスタンド

今回の改修工事の目玉は、築40年を迎えるスタンド「グランドスワン」の改築です。京都競馬場にはゴールに近い側のグランドスワンと、4コーナー側の「ビッグスワン」という2つのスタンドがあり、京都馬主協会のウェブサイトにある京都競馬場の紹介ページによると、1980年に完成したグランドスワンは当時、世界最長のスタンドとしてギネスブックに掲載されたとのこと。同年版の「競馬年鑑」(日本中央競馬会発行)にも、「当時、ギネスブックに観客席の最も大きな競馬場として掲載されていた米ベルモントパーク競馬場よりもサイズが大きいスタンドである」とありました。

世界に誇るスケールのグランドスワンは、80年10月23日に竣工式が行われました。開場後初の重賞は、グレートタイタンが勝った京都記念(秋)。翌週には最初のクラシック、菊花賞が行われノースガストが制しました。以来40年、グランドスワンは天皇賞(春)や菊花賞を始め、関西を代表する大レースを見守ってきました。

グランドスワンは歴史を感じる、個人的にも大好きなスタンドです。しかし、実はちょっとした難点もありました。それは"実況者泣かせ"といえる放送席の位置にあります。

放送席から見たゴール前。ゴールポストははるか先に…

ひやりとしたレースも数知れず…

筆者が京都競馬場で初めて実況したのは2006年秋。放送席からコースを眺めると「ゴールが遠い!」が第一印象でした。各競馬場のラジオNIKKEIの放送席は、比較的ゴールに近いところに置かれています。ところが、グランドスワン7階の京都競馬場の放送席は、ゴールまで70~80メートルはあろうかという位置。ゴールの瞬間は馬を斜め後ろから、やや角度がついた位置から見る形になります。こうなると、接戦のゴールの場合、外側にいる馬の方が前に出ているように見えてしまうのです。

大レースともなると実力拮抗、接戦も多く、判別が難しくなります。筆者も実況中にひやりとしたことが何度もありました。初めて京都競馬場でG1を実況した10年のマイルチャンピオンシップは、ゴール前で4頭が並ぶ大接戦に。映像で見返すと内側から伸びたエーシンフォワードが前に出ているのがわかりますが、肉眼では外側から追い込む馬たちが有利にも見え、判別には大変苦労しました。また16年の天皇賞(春)は、歌手・北島三郎さん所有のキタサンブラック(名義は大野商事)と、13番人気の伏兵カレンミロティックが直線で激しく競り合い、ぴったり並んでゴールイン。写真判定の結果、鼻差でキタサンブラックが勝っていたのですが、ゴール寸前まで、外側にいたカレンミロティックが優勢に見えていたように記憶しています。

実況にとても苦労したことが思い出される一方で、この競馬場でなければ味わうことのできない瞬間もありました。筆者の中で一番の思い出はアーモンドアイが牝馬三冠を達成した18年の秋華賞。歴史的瞬間を伝えることができ、これ以上ないうれしさでした。こうした喜びや感動は、三冠レースの最終戦が行われる京都競馬場だからこそです。

個人的に94年、ナリタブライアンが三冠を達成した菊花賞をテレビ観戦したことが競馬ファンになるきっかけでした。今年は、コントレイルによる牡馬の三冠馬誕生の瞬間をお伝えすることになるのかどうか。今からドキドキとワクワクが胸の中を交錯しています。接戦で実況に苦労するようなことにはなりませんように……。

休催前にやっと観客も迎えられる

実況は難しく、放送席は手狭で、階段は長く、夏は暑く冬は寒く……。しかしそれを補って余りある独特の雰囲気と味わいがあり、ファンや関係者の思い出がたくさん詰まったグランドスワンも今月で見納め。京都競馬場開設100周年を迎える2025年の記念事業の一環として、グランドスワン改築、ビッグスワン改装のほか、円形だったパドックを楕円形にし、厩舎や装鞍所(そうあんじょ)などの業務エリア改築、コースの路盤改修など、21年2月から24年3月までかけて工事が行われます。改築後の新スタンドは現在と同じ高さ34メートルですが、7階建てから6階建てに。我々の放送席も今より広くなると聞いています。2年半後の春、装い新たなスタンドから見える風景は、果たしてどんなものになるのでしょうか。より見やすく、実況しやすくなっていることを願います。

新型コロナウイルスの影響で無観客開催が続いていましたが、10日からは約7カ月ぶりに、限定的とはいえ中央競馬でファンの入場が再開されます。秋華賞、菊花賞といったビッグレース、そして工事前最後の開催をファンの皆さんとともに迎えられるのが何よりです。来場がかなった方はぜひ、グランドスワンの勇姿を目に焼き付けてください。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小塚歩)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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