/

車のオンライン購入、コロナ禍とスタートアップが促す

CBINSIGHTS
新型コロナウイルス禍で直接ディーラーに出向いて車を買う顧客が減る中、スタートアップの技術を活用し、購入をオンライン化する動きが加速し始めた。自宅での在庫検索や支払いシミュレーションに加え、契約書の署名や融資審査をデジタル化する動きもある。コロナ禍でそもそも購入をためらう人向けに、サブスクリプション(定額課金)サービスにも注目が集まっている。米国を中心とする最新動向をまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

自動車ディーラーのデジタル化は総じて、他の小売業界よりも遅れている。昔ながらの販売方法や規制のせいで、自動車の購入プロセスをデジタル化するのは難しかったからだ。だが新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、この分野にデジタル化の新たなニーズが生じている。

パンデミック(世界的な大流行)の真っただ中には外出制限令により自動車を買おうとしても販売店に行けず、ディーラーは接触せずに済むデジタル販売手段の導入を迫られた。

デジタル化、ディーラーの最重要課題に (決算発表でオムニチャネル<ネットと実店舗の融合>/オンラインでの自動車の購入について言及された回数)

さらに、コロナ禍により自家用車への関心も高まっている。新世代の買い手は従来の買い手よりも、購入手続きや価格の手ごろさを重視し、その多くは安全な代替移動手段や、郊外に引っ越した際の主な交通手段として自動車を求めている。今では自動車のオンライン購入に抵抗がない消費者は61%に上り、パンデミック前の32%から大きく増えた。

ディーラーは店舗とネットを融合したオムニチャネル機能を強化し、消費者が自動車を手に入れやすくなるようにし、新世代の買い手に応じたサービスを提供するためにスタートアップに目を向けている。

今回のリポートでは、自動車の売買に影響を及ぼすデジタル化の3つの方法について取り上げる。

1.電子商取引(EC)の強化

自動車購入の大部分はこれまで販売店で行われていた。だが新型コロナの感染拡大により、多くのディーラーがオムニチャネルの購入体験を提供できるデジタル化の導入を余儀なくされた。

こうしたサービスは定着する可能性が高い。オンライン販売やリモート融資などのテクノロジーは自動車購入を便利にし、ディーラーの業務を効率化するからだ。

◇オンライン販売

ディーラーは自動車購入をオンライン化するため、消費者の購入体験の改善に向けてディーラーのEC構築を支援するスタートアップに頼っている。

米ロードスター(Roadster)や米デジタルモーターズ(Digital Motors)などのスタートアップはディーラー向けのデジタルツールを手掛けている。同社のツールを導入すれば、買い手はオンラインで在庫を検索し、様々な車両の仕様情報にアクセスし、支払価格や下取り価格を計算できるようになる。

(出所:デジタルモーターズ)

米カーラブズ(CarLabs)などは顧客サービスの一部を自動化する音声AI(人工知能)プラットフォームを開発している。このプラットフォームは、買い手に車両価格や燃費効率、馬力などの情報を提供する。

◇リモートのローンと保険

自動車のオンライン販売では融資ツールも重要となる。

ローンと保険(F&I)のプロセスをデジタル化すれば、買い手はオンラインでローンの申し込み、貸し手からのオファーの受け取り、車両保険の選定ができるようになる。

独BMWや米フォード・モーターが出資する米オートファイ(AutoFi)は、ディーラーの既存サイトに自動車の販売とローンのプラットフォームを統合し、ほぼ完全に非接触で販売できる手段を提供する。同社は最近、フランチャイズ販売店の10%以上と提携しており、2020年の顧客の伸びは125%に上っていることを明らかにした。

リモートでの電子署名(リモート署名)もローンと保険を完全にデジタル化するのに必要だ。ただし、一部の州法にある、書類へのリアルな署名に関する規定を考慮すると、これは難しい問題だ。もっとも、買い手の家に自動車を届けられるのなら、自宅で署名してもらえばよい。

多くの大手ディーラーは既にリモート署名ツールを導入している。独フォルクスワーゲン(VW)、独ダイムラーの乗用車事業会社メルセデス・ベンツ、米自動車販売大手オートネーションはディーラー運営システムを手掛ける米CDKグローバルと提携し、CDKのリモート署名サービス「サイン・エニウェア」を使っている。

米スタートアップ、ルートワン(RouteOne)が提供するローンと保険のリモート署名サービスの需要も急増している。同社は4月の電子署名のセッション数が前月比400%増えたことを明らかにした。

2.AIを活用した新たな形の融資

審査を自動化すれば融資の可否の判断にかかる時間を節約でき、ディーラーが顧客をつなぎとめたり、新たな顧客を引き付けたりしやすくなる可能性がある。

AIを活用した審査システムを手掛けるスタートアップは続々と登場している。貸し手はこれまで審査に使われていなかったデータを活用して新旧の自動車ローンを的確に提供できるようになる一方、融資の判断速度も上がる。

米アップスタート(Upstart)はローン申込者の信用履歴が不十分で、信用スコアが基準を下回っている場合でも、職歴と学歴も考慮して審査する融資システムを開発した。同社は米ニュー・エンタープライズ・アソシエーツ(NEA)や米コースラ・ベンチャーズ、米クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)など多くの有力ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けている。

(出所:アップスタート)

米レンドバズ(LendBuzz)は信用履歴が全くないか不足している外国人居住者に特化している。AIを活用して借り手の学歴や職歴、今後の収入の可能性、現在の収支状況など他の入手可能な基準を分析する。

申し込みの維持に取り組む企業もある。米クル(Curu)はローン申込者に信用スコアを高める方法を助言することで、貸し手の融資先の構成を改善する。これにより貸し手は融資の提供対象を広げ、新規顧客の獲得コストを削減できる。

3.デジタル対応のサブスクサービス

自動車の購入検討者の多くはパンデミックに伴う経済や社会の先行き不透明性から、大きな買い物に二の足を踏んでいる。

そこで、柔軟性がありシンプルな月額制の自動車サブスクリプションサービスを手掛けるスタートアップがここ数カ月、投資家の関心を集めている。利用者はモバイルアプリにアクセスするだけで、プランをすぐに変更できる。

サブスクサービスの英ドローバー(Drover)は、パンデミック突入直後から需要が顕著に増えている。5月の新規会員数は前年同月の2倍以上に達し、4~6月期の売上高は過去最高を記録した。同社は7月、シリーズAの資金調達ラウンドで2580万ドルを調達した。

さらに、ソフトバンクグループが出資する米フェア(Fair)はこのほど、長期リースサービスを投入した。リース期間を2~3年にする代わりに、月額制よりも料金を抑えられる。同社はこのサービスの開始から30日足らずで、長期契約を選んだ顧客が最大35%に上ったことを明らかにした。

投資家はこの分野に注目している。8月だけで、モバイルを活用した自動車サブスクサービスを提供するスタートアップ2社が資金調達を果たした。独クルーノ(Cluno)はシリーズBの追加ラウンドで1470万ドル、スイスのカーボリューション(Carvolution)はシリーズCで5470万ドルをそれぞれ調達した。

自動車メーカー各社もサブスク事業を強化している。独アウディはこのほど、サブスクサービス「アウディセレクト」に月額995ドルの新たなプランを設けると発表した。費用は月995ドルと、従来のプランよりも400ドル安い。

今後の見通し

自動車のオンライン販売と新たな形の融資は消費者とディーラーの双方に恩恵をもたらしている。

オムニチャネルのサービスで消費者の利便性は高まり、自動車を購入しやすくなっている。そしてオンライン販売により、ディーラーの運営コストは減少している。取引に費やす時間も減り、少ない人員でより多くの車を販売できるようになった。取引完了までにオンラインで大半の作業を済ませることができ、取引1件当たりにかかる時間を大幅に節約できるからだ。

新たな形の融資モデルや様々な所有方法も、パンデミックを受けて消費者の好みが進化するなかでディーラーと自動車メーカーが自動車購入プロセスの柔軟性を高め、より多くの選択肢を提供し、売り上げを増やす機会を生み出している。

これらのメリットを考えると、こうしたデジタルサービスの多くは定着する可能性が高い。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン