学術会議の会員人事 政府、推薦通り「義務でない」
「学問の自由」侵害あたらず 野党「ゼロ回答」

与野党は7日、衆院内閣委員会の閉会中審査で、日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を政府が拒んだことを巡り論戦した。政府は会員を「特別職の国家公務員だ」と説明し「推薦通りに任命しなければならないわけではない」との見解を示した。
学術会議が推薦した会員候補105人のうち、菅義偉首相が1日に99人を任命した。内閣府の大塚幸寛官房長は首相が任命を拒否した6人について「手続きは終了した」と語った。
三ツ林裕巳内閣府副大臣は「任命権者の首相が法律に基づいて任命した。法律違反との指摘は当たらない」と述べた。「会員が個人として有する学問の自由への侵害になると考えていない」とも言及した。
野党側は日本学術会議法の解釈を変更したのではないかと追及した。立憲民主党の今井雅人氏は1983年に首相の任命権について「形式的なもの」とした国会答弁との矛盾をただした。
内閣法制局の木村陽一第1部長は83年当時の内部資料に「推薦に基づいて全員を任命する」との記述があったと明らかにした。この後、加藤勝信官房長官は記者会見で、資料の記述で「法制局が『全員』と申し上げたのは『会員』の読み間違いだった」と訂正した。
衆院内閣委で三ツ林氏は学術会議の会員が特別職の国家公務員だと指摘した。「公務員の選定、罷免は国民固有の権利」と定める憲法15条を根拠に「首相が推薦の通りに任命しなければならないというわけではない。考え方を変えたわけではない」と説いた。
15条は「すべて公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」とも明記している。
立民の柚木道義氏は6人を任命しない理由を明確にするよう求めた。三ツ林氏は「具体的な選考過程については差し控えたい」と答えた。
加藤氏は6日の記者会見で公務員の個別人事の選考過程について「政府としてコメントを差し控えるということでこれまでも取り組んできた」と発言した。
内閣府は6日、同会議会員の任命を巡り、2018年に作成した文書を公開した。7日の内閣委では同会議の福井仁史事務局長が文書を作成した経緯に関し「官邸の指示に基づき始めたものではない」と話した。
同委終了後、立民の枝野幸男代表は国会内で記者団に「解釈変更も、任命しなかった理由も全くのゼロ回答だ」と批判した。立民など野党4党の国会対策委員長は学術会議の歴代会長から意見聴取する方針で一致した。
野党は8日の参院内閣委の閉会中審査でも学術会議会員の任命拒否問題を取り上げる。
▼日本学術会議 行政や産業などに科学的な知見を反映させるため1949年に設立した。首相が所轄し政府への提言などを担う。会員は210人で任期は6年。3年ごとに半数が入れ替わる。日本学術会議法で規定し運営経費は国庫で負担する。
菅義偉首相は政府の機関であり年間10億円の予算を使っていると説明した。事実上、会員が自分の後任を指名することが可能な仕組みと指摘し「推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲していいのかと考えてきた」と語った。