石破氏「トランプ氏のサスペンスに乗ってはならない」

日経ビジネス
2020/10/9 2:00
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石破茂(いしば・しげる)氏
1957年生まれ、63歳。鳥取県八頭(やず)郡八頭町郡家(こおげ)出身。79年、慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)入行。86年、旧鳥取県全県区より全国最年少議員として衆議院議員初当選、以来11期連続当選。農林水産政務次官や農林水産総括政務次官・防衛庁副長官、防衛庁長官を経て、2007年に福田内閣で防衛大臣に。今年9月に実施された自民党総裁選には4度目の出馬(写真 的野弘路)

石破茂(いしば・しげる)氏
1957年生まれ、63歳。鳥取県八頭(やず)郡八頭町郡家(こおげ)出身。79年、慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)入行。86年、旧鳥取県全県区より全国最年少議員として衆議院議員初当選、以来11期連続当選。農林水産政務次官や農林水産総括政務次官・防衛庁副長官、防衛庁長官を経て、2007年に福田内閣で防衛大臣に。今年9月に実施された自民党総裁選には4度目の出馬(写真 的野弘路)

日経ビジネス電子版

4年前の大統領選前に「もしトランプが当選したら」──という仮定で、石破茂衆院議員に話を聞いた。石破氏は、選挙前に「トランプは『トランプ』を演じている」、そして選挙後に「トランプ大統領は豹変する」と、日米の安全保障を中心に予想を展開した。4年ぶりの登場で、今後をどう見ているのか。自民党総裁選に立候補したこともあり「もし石破氏が首相になったら」の仮定も含めて聞いた。

――4年前の米大統領選でもご登場いただきました。大統領選まで1カ月を切りました。改めて伺いたく……

「もう、前回と同じでいいですよ(笑)」

――そうはおっしゃらず(笑)。トランプ政権の4年を石破さんはどう見ますか。

「サスペンスとディールを具現化した。疑心暗鬼を意図的に作りあげ、相手を不安や緊張といった安定しない心理状態に追い込んで取引する。再選に向けて功績を自画自賛していますが、少なくとも世界が前よりよくなったと考える人は少ないでしょう」

「新型コロナウイルスの大流行への対策も、米国が成功しているとは思えない。イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンとの国交正常化や、台湾へのチェコの代表団の公式訪問、ソマリランドによる台湾の代表機関の設置……。背後には米国の影が見えます」

「新型コロナに関連して中国に厳しい姿勢を見せるのは、国内対策の失敗を認めず、再選するためのアクションでしょう。ただ、ビジョンがないままに行動を起こし、世界が混乱に陥るという構図はどの問題でも変わりません」

――日米関係の現状と今後をどう見ますか。

「日米関係は良好だと言われています。安倍晋三前総理がトランプ大統領と親密な関係を構築したこと自体は日本にとって有益であったと思います」

「ただ、何かが本質的に変わったわけではありません。日米同盟の本質としての防衛力、抑止力は維持されていますが、強化されたとは言い難いのが現状です。日本のミサイル防衛態勢は、一応最低限の能力をそろえたところで足踏みしています。イージス・アショア(陸上配備型ミサイル防衛システム)の配備が停止され、周辺国の新型ミサイルへの対策もまだ決まっていません」

「日本が位置する東アジア地域で、中国の存在は意識せざるを得ません。中国の航空母艦『遼寧』や『山東』は、単体ではいまだ米軍の第七艦隊(ハワイに司令部を置き、日付変更線以西の西太平洋やインド洋が担当海域)の能力を上回るものではありませんが、人民解放軍の海軍総体としての能力はもはや日本を凌駕し、日米同盟との差をも急速に埋めつつある」

「中国は、香港はアヘン戦争で英国に取られた地域、台湾は日清戦争で日本に割譲した地域と思っている。香港国家安全維持法で一国二制度を事実上なきものにしようとしたら、次のターゲットは台湾。そしてその先にあるのは沖縄や南西諸島です。日本はその時どうすべきかを、真剣に考えなければいけません」

■3選なく「やりたい放題」に

――トランプ大統領はイラクやアフガニスタンなどから撤退し、世界への関与を減らしつつあります。

「米国第一、損得がすべて、ということですね。同盟国に対してもケンカを売るような言動は大統領としては初めてでしょう。ルールを壊し、秩序を乱し、自画自賛はするが、それが本当に米国の国益にかなっているのか。北朝鮮問題を含め、極東アジアの安全保障バランスについても、どこまで真剣に考えているのかは分かりません」

(写真 的野弘路)

(写真 的野弘路)

――在日米軍駐留経費を決める実務者の準備会合が近日中に開かれます。トランプ政権はこれまでも駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を、現在(今年度は1993億円)の4倍以上に当たる年間80億ドル(約8400億円)に増やすよう求めたとされます。

「トランプ大統領は今回の選挙で当選すれば2期目。3選はないので、次を気にする必要がない。そうであれば、もっと思いきった要求をするかもしれません」

「日本に対して、もっと金を払えと言ってきたときに、我が国が「恐れ入りました。これくらいで手を打ってください」と言うのか、それとも『ちょっと待ちなさい』と言えるのか。そこが問われることになるでしょう」

「在日米軍基地は日本のために置かれているわけではなく、米国の世界戦略のために置いているものです。軍事アナリストの小川和久さんの言葉を借りれば、『在日米軍基地は野戦基地でも前線基地でもない。本拠地だ』ということです」

――どういう点で本拠地なのでしょう。

「米軍にとって海外で最大の燃料や弾薬の備蓄基地は日本にあります。そこには自衛隊が使う何年分もの備蓄がなされています。また、横須賀や佐世保の艦船修理能力は米本国の能力を凌駕するほどのレベルの高さで、横須賀は原子炉以外のすべての修理が可能だと言われています。航空機もそう。補給や修理のためにわざわざ本国まで帰る必要がないのは、日本に拠点があるからこそなのです。そのうえ、治安も良く、レベルの高い通信施設、ロジスティクスも整っている」

「そして、日本に所在する合衆国部隊が他国に攻撃された場合は、集団的自衛権ではなく、個別的自衛権によって自衛隊が守ることになります。日本の領土ですから当然ですね。そう考えると、米軍を守るための自衛隊の経費は米国には請求せず、日本が負担をするわけです」

■もし自分が首相だったら……

――石破さんは9月の自民党総裁選に出馬しました。結果によっては石破さんがトランプ氏とのディールを実行する可能性もありました。「もしトランプ氏が再選したら(もしトラ)」の話を伺ってきましたが、「もし石破さんが首相になったら」の妄想を加えると、どのようにトランプ氏に臨みますか。

「『もし石』ですね(笑)。私が総理になったら。すぐに訪米して挨拶して、トランプタワーで歓待を受けたり、ゴルフを共にしたり……というスタイルにはならないでしょう」

「もちろん、可能な限りすぐに会談は行うでしょう。まずは、日米地位協定や日米ガイドラインについて理解を深めてもらうために、日本やアジアの現状について、精緻な数字を入れて日本の考え方を伝えます。エスパー国防長官なり、ポンペオ国務長官なり、彼のブレーンに対してしっかりと説明して理解を深めてもらう」

「そのうえで、日米同盟のサスティナビリティーをどう維持していくか。中国の人民解放軍とのバランスをどう保つか。この話の先には当然、台湾の位置づけも含まれます」

「日米同盟が盤石で、在日米軍基地が健全に機能することが、米国にとってのアジア太平洋戦略の基礎の基礎であり、これは米国にとっての大きな国益なのだとしっかり伝えていく必要があります」

――バイデン氏が勝った場合について、日本はどう対応すればよいと考えますか。

「今はバイデン氏が有利と報じられています。でも、どちらが勝つにしても備えは当然必要ですね。4年前、我が国も見事に予測を間違えたのだから(笑)」

「バイデン氏が勝てば、トランプ氏の異色のスタンスからは当然変わるでしょう。どう変わるのかについて、どういうメンバーがブレーンに採用されるのかによってある程度予測がつくかもしれません」

「我々はクリントン政権やオバマ政権時代の民主党のブレーンを知っていますが、そこから時間がたっている。民主党政権下で高官を務めたジョセフ・ナイ氏も高齢(編集部注:83歳)になられた」

「バイデン氏はトランプ氏のように、すぐに側近にクビを宣告するようなタイプではないでしょうから、どのようなチームが組まれるのかに注目する必要があるのではないでしょうか」

(日経ビジネス 白壁達久)

[日経ビジネス電子版2020年10月7日の記事を再構成]

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